誰もいない実家
玄関をあけても
母の姿はない
ただいま
おかえり
そんなやり取りもない
小さく
ただいまって呟く私
母の声は
心の奥で記憶として蘇り耳に響く
おかえり
居間から出てきてくれる母の姿は見えないけど
心の奥で記憶として蘇り目にうつる
現実は
無いのだけど
現実は
記憶に頼るしかないのだけど
匂い
家の匂い
私の実家の匂い
これは現実に有る
深く息を吸って
心の記憶をたどったとき
母が目の前に現れて
おかえり
そう言って笑顔で迎えてくれる
私が生きている間
実家に行けば母と会える
無と有
それらは混ざり合って
母となる
私が天寿を全うしてあの世に行ったとき
母に会える
父に会える
祖父母
懐かしい故人に会える
そう信じて
私は生きていく