みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

 笑顔のドングリ(2)

2020-11-28 | 第1話(笑顔のドングリ)

箕面の森の小さな物語

<笑顔のドングリ>(2)

 「雄介君おたんじょうびおめでとうございます!  お母さんがいなくて、きっと寂しい思いをしていることと思います。 知らなくてごめんね。 私もお父さんがいないのでその気持ちはとてもよく分かります。 でもきっと天国からいつも雄介君を見守っていてくれますよ。 悲しくて、寂しくて、辛いけど、元気に頑張りましょうね。 そして寂しくなったらこの箱を開けてください。 いろんな顔を作ってみたけど、沢山のおもしい笑える顔があるでしょ・・ 私もお母さんとこれを転がして遊んでいたら、いつのまにか大笑いしていました。 雄介君もお父さんと一緒に一度やってみてください。 私もこれからこれと同じ物をまた作ります。私も寂しくなったらこの箱をひらいてみます。 そしてドングリたちと遊びます。 パーテイに招待してくれてありがとうごさいます。 心をこめて雄介君に贈ります。 美香より」

  次の日曜日の朝、私は書いた手紙とドングリの箱を持って、みんなと雄介君の誕生会にでかけました。 みんなに<美香ちゃんの何か見せて見せて!・・> と、言われたけど内緒にしました。

 前の日にお母さんは私に大きな包みを持って帰ってくれました。 中にはきれいなフリルのついた新しいワンピースと新しい靴が・・ ワー すごい すごい! 本当にびっくり! とても嬉しくて・・ 嬉しくて・・ お母さんは私の服のことも、靴の事もちゃんと知っていてくれたんです。 私は寝るときまで何度もそれを着て、嬉しくてうれしくて家の中を歩き回っていました。

  雄介君の家は聞いていた通りのすごい大きな家でした。 私が初めて見る大きなシャンデリアにヨーロッパの家具、暖炉もあってみんなビックリ! それに初めて見るすごいご馳走!  みんなお腹いっぱい頂きました。 最後にお手伝いさんが二人がかりで、広いお庭の大きなテーブルに立派なバースデーケーキを運んできた時にはみんな感激で、大きな歓声があがりました。

  やがて楽しかった誕生会も終わり・・ 私たちはお父さんやお手伝いさんらにお礼を言って帰りました。 その前には、みんな思い思いのプレゼントを雄介君に渡していましたが、私は部屋の片隅にそ~ と置いて帰りました。  お腹いっぱいなのにお土産のケーキもいただき、みんな大満足でした。 帰ってからお母さんと頂いたケーキを食べながら今日の出来事を話すと、嬉しそうに聞いてくれました。 「行ってよかったわ・・ お母さん ありがとう!」

  次の日、学校でお昼休みのことです・・ 私の机に雄介君が来て、小さな紙を渡してくれました。 それまで学校で人気者の雄介君から声をかけられたことも、会話もまともにした事が無いのでビックリです! 「読んで・・ どうもありがとう!」 そう言うと照れくさそうに、またすぐ仲間のところへ戻っていったけど・・

  紙には・・ 「美香さんへ 昨日は本当にありがとう! みんなからいろんなプレゼントをもらったけど、君からもらったプレゼント最高だった。 このことは一生忘れないでしょう。 どんな物より嬉しかった! 夜、お父さんとこの「にこにこドングリ」で遊んだんだ。 やっぱり二人で大笑いしたよ・・ もしこれから涙がでてきたら、またこの箱をひっくり返して遊びます。 美香さんも同じものを作るそうですが、ドングリはどこで売っているのですか?  また教えてください。 本当にこのことは忘れません。 本当にありがとう! 雄介 」と。

  私は よかった! と 安心すると共に「どこで売っているの?」に、思わず吹き出してしまいました。 あの憩いの丘の雑木林を教えてあげたらビックリするでしょうね・・ 今度一緒に連れて行ってあげようかな・・?  そんな事を思いながら私は一人 心の中で微笑むのでした。あのお父さんと幼い頃に遊んだ箕面の森・・ 私はそっと・・ ありがとう! とつぶやいていました。   4年2組 坂元 美香

   

  美香は小学校時代の自分の文章を読み終えると、順平に話し始めた。「それから私 何かあるといつも相手の心に添えるような人になろう・・ って心してきたの・・ 自分の環境や境遇を嘆くなんて無駄な事だと思ったし、自分の気持ち一つで暗い卑屈な自分を切り替えられることを知ったわ  やはりあの時の先生の一言は大きかったわね それから私 変わったのよ」「そうか それにしても先生の言葉の力ってすごいな  それにその一言で心を変えられた美香も偉いよな・・」

  「先生! 先生の趣味は何ですか?」 放課後、順平は生徒の一人から声をかけられた。「そうだな・・ いろいろあるけど、今はドングリ拾いかな・・」 「どんぐり? それって何? どこで拾えるの? ねえ どこで ねえ 教えてよ!」 一緒にいた仲間達も興味深々で訪ねてきた・・ 「きた きた・・ よしよし・・」

 順平はそんな生徒達を連れ、いずれ箕面の山歩きを楽しみながら <どんぐり拾いをしよう・・>と思っていたのだ。  そしてあの <笑顔のドングリ> 作りを新任教師の課外活動にしたいと決めていた。  その時は婚約者の美香も一緒に・・ と。  

(完)

 



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