<二つの硬貨>(2)
あれから1年が経った・・
和平はすっかり忘れていたけれど、今日久しぶりに同じコースを辿り 八天の森の同じ場所で一休みをしている時にふっと思い出したのだ。 あの日と同じように寒い日だ。 冷たい風が森の木々を揺らしている・・
和平は「まさかな~」と苦笑しながらも八天の森のバス停の後ろの杉の木に周ってみた。 冬枯れの森の中に真紅なヤブ椿の花が咲いている。 目で探してみても、やはりそれらしき物を埋めている気配はない・・ 指で枯葉を掻き分けてみたけれど何もない・・ 「やっぱりな~」 こんな事をして探している自分がピエロに思えた。 期待もしていなかったのでそうガッカリもしなかったけど何となく空しい気持ちになった。
ボクの人生で騙されたのはこれで何回目になるのかな・・? 和平は苦笑しながらももう一度木の周りを見回し山道へ戻ろうとした時だった・・ 雲の間から太陽が顔をだし一筋の明るい木漏れ陽が森の中に差し込んできた。 そして何かビニールの端のようなものがキラリと光った。 どうせゴミだろう・・ な? そうと思いつつ つまんでみたけれど、先が土に埋まっているようで取れない。 和平はもう一度ピエロの気分で土を掻き分けながら、ゆっくりとビニールを取り出した。
よく見ると中に紙切れが入っている・・ 「何かな?」 やっとのおもいで取り出してみる・・ ボールペンの文字が湿気に滲み読みづらいが、何とか一つ一つ文字が読めそうだ・・ 誤字、脱字だらけの汚い文字が並んでいた。そしてそこには真心と誠意のこもった文面が綴られていた。
「名も知らない しんせつなおじさんへ オレは2週間前におじさんから 金 借りたもんです カゼひいてもて寝てたんで返すのがおそくなりすんません 今日は学校が早く終わったんでもってきました(次のバスまでじかんあるんでノートに書いときます)
あれからバスにのって千中について おじさんにいわれたとおりバスの切ぷうりばへ聞きにいったら バスの中に落としてたらしくオレのさいふありました よかったです よの中にはしんせつな人がいるんやなと思った おじさんもそうですが・・ オレはあの日 どうしても会いたくなって気がついたらカバンを教室においたまま学校をぬけだしてなんにももたずにバスにとびのってました
一時間かかって母さんの墓について思いっきり泣いてました オレ 悪いことばっかして母さんこまらせたり 泣かせてばかりやってきたから あやまりたかったんやけど・・ それにすっごくさみしなってしもうて・・ 一人で泣きつかれて そんでもう帰ろうかと思うたらサイフなかったんです だいぶ探したんやけど分からんし それにどこ見ても人が一人もおらへんし それに寒うてさむうて それならもう母さんとこで死んでもええか と思うてました そしたら遠くにおじさんみつけて 大声でさけんで助けてもろてほんまよかったです
あれ最終のバスでした あれから雪がごっつふってきて・・ ホッカイロ ごっつあったこうて アメなめてたら生きかえった感じ ほんま おじさん ありがとうです あそこでおじさんに会ってなかったらと思うたら ゾー です 家に帰ったら先生が心配してきてて 父さんにもだいぶ怒られたけど 先生帰ってから父さんに今日のこと言うたらとつぜんハグしてくれて それで母さんのことで二人で大泣きして それで二人のわだかまりみたいなもんが消えました
オレ 来月 父さんの転きんにあわせて転校せなあかんのでしばらく母さんとこへこれへんので少しかなしいけどしかし さっき母さんの墓にちかってきました オレ これから人に親せつして まじめな生きかたするから~ て おじさん ほんま ほんまにありがとう です00中学2年 丸00真一 」
和平は小さな約束を守ってくれた少年のたどたどしい感動の手紙を涙で読み終え、天を仰いだ・・ 箕面の森の上空を、一羽のトンビがゆっくりと旋回している・・ ビニール袋の底には、2枚の500円硬貨が光っていた。
(完)
<物語の参考資料>
‘15-1月 撮る
箕面・八天の森 バス停
北摂霊園
箕面の森に隣接する能勢・高山の村落
高山から明ヶ田尾山、鉢伏山への登山口