みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

森の白い子犬(3)

2020-09-22 | 第7話(森の白い子犬)

箕面の森の小さな物語 

<森の白い子犬>(3)

 その夜 夫は子犬をお風呂に入れて洗う事にしました・・ 一緒に入ると そのうちに・・ あ~あ そんなとこでおしっこするなよな・・ おい おい・・ こらこら だめ だめ だめだって・・

ブルブルしたのか・・? 大変みたい・・

 でも ついこの前まではるちゃんとお風呂に入ると大賑わいだったから・・ 久しぶりのにぎやかな声に、私も少し元気になれました。 そのうち体を拭かないまま子犬が浴室を飛び出して、台所の私の足元に走って来ました・・ それを追いかけて、夫が裸のままあわてて追いかけてきたりして・・ その様に2人とも大笑いしました・・ こんな笑いも久しぶり・・

  その夜からもうすっかり仲良くなった子犬は、私達のベットの下を寝場所と決め落ち着いています。 私達は夜遅くまで、気持ち良く寝ている子犬の寝顔を見ていました。 時折り買ってきた犬の本を見ては、これからの対策? も話たりしていたら遅くなったけど、不思議と昨日までの眠れない夜と違いすぐに眠れたようでした。

  翌朝 先に子犬が起きたらしく可愛い声でワンワンと大きな声に・・ 二人ともビックリして飛び起きました・・ 何事? でも2人で顔を見合わせて にっこり・・ お腹がすいたのかしら?  そうだおしっこに連れてかなきゃ・・ 昨夜は遅くまでかかってやっと掃除したんだから、またその辺でおしっこでもされたら大変です!  私はいつもの好きなヴイヴァルデイのCDを取り出し、今朝は協奏曲「四季」をかけました・・ 心地いい演奏が流れます。 

 そうだわ! この白い子犬に名前をつけてあげなくちゃ・・ 「ヴイヴァルディなんてどう?」「それちょっと長いよ・・・」と、夫。「じゃ・・ヴァルデイ・・ 何か変だな・・?」「これって、以前はるちゃんと三人で観た映画の「ベートーベン」よく似てないか?」 「そういえばそうね・・」と、大笑い。 はるちゃんはあの日TVを見ていて ワン ワン! といって嬉しそうだった事を思い出していました。 結局二人で「ベル」と名付けました。

 

  一週間後、私はあの管理事務所へ電話を入れてみました。 夫は毎日会社から帰ると 「今日は電話なかったか?」と聞くのです。 「ないわよ・・」と聞くと、嬉しそうにベルと遊びだすのです。 いつも帰ってきて玄関を開けると、いつもそこにベルがいて ワン! といって迎えてくれるので、夫は嬉しくてしょうがないみたいです。 しかしいつも不思議で、私も気が付かないのに、夫の到着一分ぐらい前には、もうベルは玄関に出ていて、どうして分かるのかビックリするのです。

  何度目かの電話の後で管理の人はメモを見たこと、問い合わせはないこと、そしてたまに捨て犬がいるので、よかったらそちらで飼ってやってください・・ とのことでした。 嬉しかったわ・・ 二人してこんなに喜んだのも久しぶりのことです。 

 この日からベルは私達の家族になりました。

 いたずらっ子のやんちゃな時もあるけど、私達はどれだけベルに助けられ、心に安らぎえを与えられ、心和み、静かな眠りに入る事ができたことでしょうか・・ みんなベルがいてくれたお陰です。

  やがて私は妊娠している事が分かりました。 その日は二人してどんなに喜びを分かち合った事でしょう。 嬉しい! ベルも2人が喜んでいるからか、いつもより大きな声で ワン ワン! と、祝福してくれました。 悲しみでしばし忘れていたはるちゃんとの三人の生活を思い出し、再び描く事のできる希望がとても嬉しくて・・ 神様に心からの感謝を捧げました。

  日々大きくなるお腹の赤ちゃんと共に、私ははるちゃんのことを毎日ベルに話していました。 ベルはいつもはるちゃんとの思い出のお話をするとき、私の横に来て私の顔を見ながら静かに聞いてくれるのでした。 森を一緒に散歩した事、花や木々、動物や植物、昆虫も川の魚やあのサワガニのこともね・・ お猿さんやリスや鹿との出会いのことも・・ おむすびを口いっぱいになって食べていた事も・・ はるちゃんの思い出を毎日話していました。 私はこのベルとのお話に、どれだけ心癒された事か分かりません。 心穏やかになり、やっと はるちゃんが天国へ召された事を、受け入れられるようになりました。 ベル! いつも私の話を聞いてくれてありがとう! ベルはいつも話終わると、尻尾を振って嬉しそうに応えてくれました。

  やがて初夏が来て、お腹の赤ちゃんも元気に私のお腹をけり始めました。 私はまた幸せを味わう事ができました。 

 そんなある休日に夫が「久しぶりに森へ散歩にいこうか・・」と私は今度は「行きましょう いきましょう・・」と、嬉しかったのでお弁当もいっぱい作って出かけました。

  前回は朝、悲しみながらでかけ、夕方にはべルでてんてこ舞い・・ とおもしろい一日でした。 今日は嬉しい日になりそう・・ 可愛い首輪をつけてもらっても、ベルは邪魔なのか余り嬉しそうではない? でもいつもの<Expo‘90 みのお記念の森>に着いたら元気になって、夫と嬉しそうに先を歩いていきました。

  芝生広場>についたとき、一組の家族がいましたがすぐにいなくなり、私たちだけになったので、夫はベルのリードと首輪を外してやりました。 ベルも自由になったのか嬉しそうに走り回っています。 その内、夫はベルと鬼ごっこ?(そのつもり・・)をしたり、かくれんぼ?  おいかけっこ? をしたりして遊んでいます・・ いつかはるちゃんと遊んだ時のように・・ 夫も辛い日々を過ごしてきて、やっとベルのお陰ではるちゃんの現実を受け入れられたようでした。 

  少し遅いお昼のお弁当は、みんな綺麗に食べてなくなってしまいました。 「ベルも小さいのによく食べたわね・・」 お腹がいっぱいになって私達は生まれてくる新しい家族を思い・・ 夢と希望いっぱいの話を沢山する事ができました。 ベルは足元でウトウトして眠っていたかとおもうと、また走ってみたり・・ その内、花園の花びらで遊んだり、出たり入ったりしていました。 

「さあ~ ベルもう帰るよ! ベル! 帰っておいで・・ ベルはどこで遊んでいるんだろう・・?  ベル! ベル!」 いつまで呼んでも,いつまで待っていてもベルは帰ってきません、花の谷赤ちゃんの森夏の森・・ とにかくいろいろ周りを探しましたが閉門の4時までに探しきれずに・・ 何がどうなっているのかしら?・・ そういえばベルを始めて見たときも、あの花園だったわね・・ いなくなったのもあの花園・・? まるで夢を見ているようでした。

  それから10日後に私は元気な男の子を授かりました。 夢のような嬉しさです。 名前は 菜津樹(なつき)です。なっちゃんははるちゃんの生まれ変わりではありませんが、私達ははるちゃんの思い出と共に大切に大切になっちゃんを育てていきます。

  昨日、なっちゃんの3ヶ月検診を終え、全て順調と言う事でした。 今日は3人でまたあの<みのお記念の森>にやってきました。 キョロ キョロ 回りを見渡してベルを探しているのですが・・ でも もう二人には心の中で分かっているのでした。 ベルは私達を悲しみのどん底から救いだしてくれ、そして立ち直れるように、神様が遣わしてくれた天使であることを・・ いや、天国の犬だから 天犬! と言うのかな? と二人して笑いました。

 「ベルありがとう・・ ほんとうにありがとうね・・ ベルのお陰でパパもママも元気になれました・・ そしてなっちゃんを授けてくれて本当にありがとう。 みんないつまでも一緒の家族だからね・・ いつまでもね!」 私の腕の中でなっちゃんが私の顔を見て微笑んでいます・・ 「生まれてきてくれて ありがとう・・!」

 箕面の森に、さわやかな風が吹き抜けていきました。 (終)  

 

  裕子から小冊子を受け取ったみんなは、最初の美咲のお話を読むと安堵感に涙する人、よかった! よかったわね! と言う人や、自然界の不思議さを話す人などでいっぱいでした。 「私も箕面の森に天犬を探しに行こうかしら・・・」と言う人がいて大笑いになり、今年も盛況な集いになりました。

 箕面の森を愛する人々のお話は尽きる事がありません。

完)



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