みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

森の白い子犬(2)

2020-09-22 | 第7話(森の白い子犬)

箕面の森の小さな物語 

<森の白い子犬>(2)

 それはある日 突然にやってきました・・

 あの ヤマツツジが蕾を大きくふくらませ、もうすぐ花開く頃でした。 私は家の近くの公園で、はるちゃんと遊びながら近所の人と談笑していました。 小学生のおにいちゃんたちがボール遊びをしていて、はるちゃんも一緒に遊びたがっていましたが入れてもらえず、後ろで見ていたようです。 はるちゃんはボール遊びが大好きなので、きっと一緒にやりたかったのでしょう・・

  その時 おにいちゃんの投げたボールが道路に飛び出していって・・ それをみた はるちゃんは自分がとってあげようと思ったのか トコトコと歩いて道路に飛び出していったようです  

  キキキ~ン・・ ガン ガン! キー キー

 ものすごい音がして顔を向けたそのとき、はるちゃんの体が宙に舞い上がっていました。 そのバイクの急ブレーキの音は悪魔の叫びでした。

  救急病院で・・ はるちゃんは静かに天国へ召されていきました。

 はるちゃん! はるちゃん!

いくら叫び続けても、はるちゃんは目を開けてくれませんでした・・  なんで? なんでこんな事に はるちゃん 目を開けて・・ どんなに泣き、どんなに はるちゃんの体を揺り動かして叫んでも応えてくれません。

きっと夢 きっと夢に違いないわ・・ そんなこと・・ きっと夢よ・・ そうあって欲しい・・

  ヨーロッパに出張中だった夫にはすぐ知らされ、急遽仕事をキャンセルして飛行機に飛び乗ってもらったけど、遠隔地だったので病院に着くまでの22時間・・ それは私一人で・・ どんなに悲しくて心細く辛かったか・・ やっと着いた夫は変わり果てたはるちゃんを抱きしめておいおいと泣き崩れ・・ 二人とも食事も睡眠も勿論、水さえ飲めずに・・ この自分達の命と引き換えに どうか神様 はるちゃんを 生き返らせてください・・ と叫びつづけましたが・・ 小さな はるちゃんの手を握りしめたまま私は いつしか気を失ってしまいました。

  何ヶ月も二人で泣き明かしました。

 今にでもはるちゃんが トコトコと歩いてくるようで、耳をすませて聞き耳を立てていましたが・・ しばらくは、はるちゃんの部屋に入るのが恐かった・・ 本当にいないんじゃないかって・・?  それを確認するのが恐かったのです。 でも、ひょっとしたらベビーベットでまだ寝てるんじゃないの・・? と そ~ と扉を開けてみたり・・ その度にいつも現実に打ちのめされて涙が溢れるばかりでした。 

 

  どのぐらいの月日が経ったのでしょうか・・?  ある日、夫が ぽつり・・と、箕面の森を歩いてみないか・・? って!  季節は変わって、また変わって秋になっていました。 「はるちゃんの思い出の詰まった山なんて・・ いやだわ 嫌よ!」 でも・・ 反面、はるちゃんの面影を探してみたい・・ 迷った末に二人で久しぶりに外出する事にしました。 夫ははるちゃんをいつも背負っていたラックを、後ろの席に置いていました。

<Expo‘90 みのお記念の森> に車を置き、森の芝生広場まで歩きました。

 二人で手をつないでも、いつも真中にいるはずの はるちゃんがいない・・ 二人とも自然と涙がこぼれます・・ 重い、重い足取りです。 かつて3人で遊んだ森は、なぜか雰囲気が違っていました。 <花の谷>を歩き・・ 季節の森を歩きながら二人とも思いは一つだけでした。 はるちゃん・・ 

  いつしか一回りして、芝生広場のベンチに座ったところは昨秋のこと・・ 夫とはるちゃんがボール遊びをしている姿を見ながら編物をしていて・・ 幸せに浸っていたところでした。 それを思い出すともう いてもたってもおれずボロボロ涙が溢れ・・ とうとう大声をあげて泣き叫びました。 長い間二人は ぼ~ として、うつろな目で遠い空を眺めていました。 持ってきたお昼のお弁当も全く手をつけていませんでした。

 

 そんな時です・・   

 前の花壇と花壇の間から 小さな白い子犬 が、こっちを向いているではありませんか・・ 「可愛いわね!」「そうだね・・」 可愛い目をしてる・・ 二人してその姿やしぐさを眺めていました。 誰か散歩中に首輪を外してもらって、自由になって喜んでいるのかな・・ (そのとき首輪をしていない事には気が付きませんでした。)

 どのぐらい二人でその子犬を見ていたでしょう・・ 飼い主はどうしたのかな? 迷ったのかな? それにしても誰もいないのにね・・ 夫は思い出したように、ベンチの周りで遊んでいる子犬に持ってきたお弁当の中からウインナー一つを取り出して芝生の上に置いてやりました。 最初は首をひねっていた子犬は、そのうち・・ なにかな? と食べ始めました。 食べ終わりぺロリと舌を出したのを見てまたあげてみました。 お腹がすいているのか? それから次から次へと出すものをみんなきれいに食べるのでした。

 そしてやがて美味しかったのか・・ お腹がいっぱいになると安心したかのように二人の足元にきて尾を振り,首を傾げたりして遊ぶようになりました。 私は思わずそんな子犬を抱っこして膝の上に置きました。 以外におとなしくしていて・・ そのうちあくびをしてうつらうつらと眠り始めたのです。「可愛いね・・」 二人で交互に頭や体をなでながら・・ これは少し前までこうしてはるちゃんを抱っこして、代わる代わるに頭をなでていたのに・・ と思い出したら また涙が溢れてきました。

  夕暮れになりました・・ 飼い主さんいないのかな?  このまま抱いて家に帰りたい・・ ふっとそんな思いがよぎりました。 夫も同じ気持ちのようでした。 歩き出した私たちの後ろを、白い子犬はトコトコついてきます。 私たちは管理事務所が閉まっているので 入り口にメモを残し、もし飼い主が現れたら私たちが預かっていますから・・ と、住所と電話番号を書いてきました。 それから我が家の てんてこ舞いが始まったのでした。

  後ろをトコトコついてきた白い子犬は、とうとう私の腕に抱かれて、車の中に連れて入る事になりました。 車内では膝の上でおとなしくして座っていたのですが、家に到着するや否やあっという間に家の中を走り回って大変・・ そのうちアレレ・・ たいへん! あっちで・・ こっちで・・ おしっこするの・・ ちょっとまって・・ これ! これ! あ~ あ・・ あっ! まって! だめ、だめよ・・ そんなところで・・! そのうちテーブルの下で小さいのにしっかりしたウンチ・・ もうたいへん!  二人でてんてこ舞い・・ やがてはるちゃんのおもちゃが気に入ったらしく、引っ掻き回して遊び始めたのでした・・

  今朝、出かける前のあの静かな悲しみの家とこれが同じ所か? と思うぐらいに、一匹の小さな子犬にテンヤワンヤの二人でした。 とにかく二人とも犬を飼うのは全く初めてなのでどうしていいのか分からない?  餌は何を与えたらいいの? 何処で寝かせたらいいの・・?  首輪って要るんじゃない?  走り回る白い子犬をやっと捕まえて・・ 嬉しいのか興奮して子犬は少しもじ~としていないけれど、やっと車に乗せて夫とケンネルショップを探して出かけました。

そしてそれが私たちの人生の転換期になろうとは、その時思ってもみませんでした。

(3)へつづく



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