最早絶滅危惧種と言っていい大衆食堂。
そんなお店が、自宅のすぐ近くにある。
ザ・昭和な佇まい。
いつもながら、心震える景色である。
夫婦で切り盛りするこの食堂も、いつの頃からか二人は老齢の域に達した。
何かと休みがちになり、夕方までの営業時間は昼限定となった。
更に、
かつては壁に一面に貼られていた大量の定食類のメニューは消え、今はたったこれだけである。
それでもいい。
それで長く続けていけるなら、私は一向に構わない。
いつぞや、40代のサラリーマン風の男性が
「焼き飯の味噌汁の代わりにラーメンスープにして。」
さも当然のようにオーダーした。
それを脇で聞いた私は、
(オイ小僧。ここは焼き飯だってチキンライスだって味噌汁。それがここの流儀だ。黙って従え。)
危うくこの男に説教しようとした。
案の定オバチャンはしばしの沈黙の後、
「まあ、よかばってん・・・」
苦虫を噛みつぶした様な顔で、その変則オーダーに従った。
恐らくそんなことが続いたのだろう。
この張り紙は「店の流儀が唯一の正義である」そんなメッセージとみた。
実に痛快である。
家内の注文はこの店の名物チャンポン。
当然の選択だ。
私はと言えば、ドライカレーだ。
その心は、
もしかしたら、そう遠くない日にこの愛すべき大衆食堂は、無くなってしまうやも知れぬ。
今のうちにこの店に残った全メニューを制覇したい。
そう思ったからだ。
ドライカレーと言うより、どこから見てもカレー風味の焼き飯だが、そんなことはおくびにも出してはいけない。
ニッコリ笑ってスプーンを口に運ぼう。
そして、「ウマ!」と一言呟けば良い。
続けざまに、この店自慢の美味しい味噌汁を啜る。
この機微が分からない人間は、はなからこんな店には来るべきでは無い。
そして追いソースだ。
それが私の流儀だ。
私のこ悪癖を、店主がどんな気持ちで眺めているかは知らない。