子供の頃、
大人は立派な人間であると、ずっと思っていた。
子供など思いもよらぬ知恵があり、大人の言うことは常に正しく、また、大人の行動は常に見習うべきものと思っていた。
高校生ぐらいになると、さすがに少しは知恵がつく。
どうやら、
自分の親父を見ていれば、そうでもないらしい、ぐらいは想像できるようになる。
さらに、
自分が大人と言われる年齢に達すると、我が身を省みて、すべてが幻想だった事を理解する。
親父が亡くなった時、親父の遺品などを整理していた。
「ダハハハ。」
いきなり、長女が爆笑する声が聞こえた。
長女が手にしていたのは、お袋が保管していたであろう、私ら兄弟の小学校からの通信簿だった。
「お父さん、どれもこれも『落ち着きがない』って書かれてるやん。」
な、なに!
こら、よこせ。
んなもん、見るんじゃない。
「丘おじちゃん(弟)は、どれも褒め言葉ばかりなのに、お父さんときたら。プププ」
うぐぐ。
なんでこんなもん、大事にとっていたんだよ、オフクロー!
この日、
娘達に僅かでも残っていたかもしれない私への幻想が、完全に潰えた。