居酒屋がどうにも好きである。
積年の油で化粧された梁、赤茶けたメニュー。
そんな古びた居酒屋なら、尚更良い。
「かけだおれに行くぞ。」
久留米随一の繁華街に点灯する赤い看板。
久しぶりである。
この梁と、
このメニュー札。
100点である。
最初の注文は決まっている。
「取り敢えずビールと・・・」
「はい、ビッシュね。」
とことん煮込まれたモツに、たっぷりのネギとショウガ。
これにソースをタラリと回しかけ、
アーン
モグモグ
グシュン
泣けてくるほど美味いぜ。
そしてダルムである。
モグ
ビエーーン (p´□`q)
私にとっては、このダルム&ビッシュが、この世で一番美味い肉料理である。
「酒一級って。大将、いつのメニュー札やねん。」
「こげん書くと、若い人に受けるとよ。」
「んなら、一級酒頂戴。」
「こちらが一級酒です。」
見慣れぬ青年が、一升瓶を私に見せる。
「えっと、こちらは・・・」
「ハハハ、こいは息子たい。」
「あ、跡継ぎか。大将、よかったね。」
後継者問題で、閉店を余儀なくされる店が多い中、
私の大事なかけだおれは、これで安泰である。
あのダルムとビッシュのレシピは、目出度く継承される。
「はい、タン焼き上がりました。」
大将こだわりの、今では見かけなくなった透明な一升瓶。
「焼酎お湯割りね。」
「へーい。」
コップに焼酎を注いでくれるのは息子である。
うーん。
表面張力の盛り上げ方は、もう少し修行が必要かな。
「ところで、今まで仕事は何してたの?」(私)
「板前です。」(息子)
「そんなら、和食の新メニューば考えたら。」(私)
「そいが、まだ親父が許さんとですよ。」(息子)
親父は、メニューが変われば、店の雰囲気が変わる。
ひいては、常連を失うと考えているようだ。
多分、その考えは正しい。
「だけん、今の私の新メニューは・・・」
「ダルマのハイボールと、」
「お、それ貰う!」
「レモンサワーです。」
「それも!」
ういー、酔っ払ってきたぞ。
まあ、頑張りやい。