子供の頃、ご馳走と言えば、大善寺の鰻か青柳荘のジンギスカンであった。
通信簿の成績が良かったり、何か特別なことがあると、親父が連れて行ってくれたものだ。
鰻は今でも、年に数度は食べに行く。
しかし、青柳荘のジンギスカンは、とんとご無沙汰だ。
思い返してみても、結婚前、家内と、家内を紹介がてら兄夫婦と、4人で食べに行ったっきりである。
何か問題があったのでも、ジンギスカンが嫌いになったのでもなく、何となく遠のいたとしか言い様はない。
ところが、今度の北海道旅行で、ジンギスカン熱に火がついてしまった。
どうしても食べたくなった。
高良山の麓に程近いところに、青柳荘はある。
なので店の前は、ほぼ毎日走って登ってるんだけどね。
現在は、予約のみの受付であるそうな。
結婚前に来たっきりだから、この玄関をくぐったのは、30数年ぶりと言うことになる。
恐らく、その間に代変わりはしている筈だ。
そうなると、心配なのはタレである。
30数年前までは確かにあった、何処の店にも似たものすら無い、独特の風合いの、あのタレで食べたい。
もし、あのタレが継承されているならば、北海道のジンギスカンなんか目じゃないのだ。
そうそう、こんな感じだったよ。なんか、懐かしいな。
崖沿いの地形を利用して建物が建てられているせいで、階段を降りたところに座敷があるのだ。
今日の予約客は私らだけのようである。
いくつかあるテーブルの一つだけが、すでに火が起こされていた。
昔と変わらぬ窓からの眺めだ。
「30年ぶりですよ。懐かしいな。」
「何も変わってません。木の大きさ以外は。」(ご主人)
肉が運ばれてきた。
恐らく鍋は当時のままの筈だ。変わっちゃいない。
が、
残念ながら、かつてのタレでは無くなっていた。
ある程度覚悟はしていたとはいえ、あの味をもう味わえないのかと思うと、残念でならない。
なかなか、先代の味を継承するのって、難しいもんだね。
でも、無い物をねだっても仕方が無いし、このタレ自体は、これはこれでいける。
肉は、臭みなど全く無く、柔らかくジューシー。
焼酎が進むぜ。
家内が温かいお茶を所望すると、
大ジョッキで持ってきてくれた。
「ふえーー!!」(家内)
大きいことは良いことなのだ。
ありがたく頂戴するがいい。
完食。
もやし一本残ってない。
大満足である。
あんまり嬉しそうな顔をしていたからだろうか。
立派な野菜を沢山貰ってしまった。
「無農薬ですけん。」(ご主人)
ありゃ、有り難う。
ついに、店の前を毎日走っている件は話せなかったけど・・・
美味しかったよ。
また来るよ。