昨春に亡くなった友人の父親が、すぐ近所に住んでいる。
齢90歳を超えても、未だに矍鑠としていて、炊事洗濯、趣味の畑仕事にも精を出している。
とは言えである。
運転免許の更新も近づき、流石にこの際、免許を返納したいとの事。
ついては、
「車の処分をしてくれんね。」
との相談を受けた。
尤もである。
直ちに了承した。
「廃車手続きは私が全部やりますよ。」
時間ならたっぷりある。
暇人の私が手続きすれば、1円の費用もかからない。
但し、引き受けた私自身、引退して5年以上経つ。
いや、実務から遠ざかってからはそれ以上だ。
あれやこれやの段取りが、最早朧気になっている。
かつての部下のH田に電話。
「久しぶりでやり方ば忘れた。どげんするとやった?」
「えーっとですね。先ずはこうして、あーして・・・」
ふむふむ。
分かった。
取り敢えず申請書類を、鳥栖展示場まで取りに行った。
正面の建屋が、事務所兼商談スペースである。
「おーい、H田居るかー。」
「あ、社長。用意できてまーす。」
「これが申請書類一式です。」
「ほほう。」
レクチャーが終われば、スタッフルームにズカズカと入って行き、
「おう、K江元気か。」
と、挨拶代わりに営業スタッフの頭を、先程貰った申請書類の束で小突いてから、
「N園、相変らず机汚いな。それになんだ!PCの壁紙、未だにアニメか。」(私)
「よ、よかじゃなかですか。」(N園)
「それより社長。これ見てやって下さいよ。」(H田)
「ちょ、ちょ、ちょ!!」(N園)
H田がN園の引き出しを無遠慮に開けた。
引き出しは、謎の使用済みの軍手だらけである。
「汚ねえな。お前、変態か?」
「勘弁してくださいよ、社長。大事にとっているんすよ。」
その後、店長からいくつかの相談事と、マル秘の案件を聞き、
「そりゃよか。やれやれ!!」
と無責任に煽り立てる。
一通り、かつての傍若無人ぶりをやり終えたら、
「んなら、帰るわ。」
こんな奴。
部下達にしてみれば、迷惑千万な客の典型であるに違いない。