前回の投稿で思わせぶりに終わったように、この話にはまだ続きがある。
沓掛山を越え、牧ノ戸駐車場が眼下に見えて来た頃。
この日の行動記録を見ようと、胸ポケットに手をやり、スマホを・・・
えーっと、スマホは・・・
!
ま、まさか!
無い!
どこを探してもスマホが無い!!
冬用のコートの胸ポケットが・・・・開いたままだった。
何処で落としたのだろう?
白口岳山頂までは、間違いなくあった。
するってえと・・・
雪で滑った場所で、積雪が深く、スマホが落ちた音に気付かなかった所?
だとしたら、白口岳から稲星山の間か、東千里から池の小屋への登りのどこかだ。
かと言って、もうすぐ牧ノ戸と言うところまで戻ってしまっているのだ。
その場所は遠すぎて、そして範囲が広すぎて、引き返して探していては、確実に日没を過ぎてしまう。
更に絶望的な事は、落としたと目される場所は、くじゅうの中でも、ほぼ人が通らないマイナーな場所である事だ。
思い返せば、中岳から先は、後から来る人間など一人もいなかった。
一縷の望みは、一組のカップルと、稲星山の登りですれ違っただけだ。
落とした場所が、彼らがそれから先に通る道である事を祈るしかない。
ただしそれも、落としたスマホが、雪の中に深く埋っていたらアウトだ。
まったくもって、情けない限りである。
私はこれとまったく同じ事を、一昨年の雪の三俣山でもやらかしているのだ。
その時も、同じコートの胸ポケットにスマホを入れ、ジッパーを閉め忘れ・・・
あーもう、くそったれ!!
何たる事だ。
犬や猫ですら、こんな痛い目に遭えば、少しはそれを教訓とするものを。
仕方がない。
やるべき事をやろう。
先ずは長者原派出所に行き、遺失物届を出さねば。
ちょっとばかりマズいのは、スマホのカバーには運転免許証も入れていた事だ。
免許不携帯となるのを覚悟で、
「実はこれこれしかじかで・・・」
「ははあ、くじゅうの雪山で。まあ、しょんなかですな。ここに機種と特徴を・・・」
内心ハラハラするも、不携帯の件はお咎め無しである。
しめしめ。気づいてないな。
お巡りさんに気付かれる前に、
ドピューーーン
その後は温泉にも入らず、大急ぎで久留米に戻り、ドコモショップへと駆け込む。
「実はこれこれしかじかで・・・」
「ははあ、くじゅうの雪山で。まあ、しょんなかですな。ここに保険の手続きを・・・」
このドコモショップだけは、例え陰で私の事を『クソ野郎』と書いたメモを回していたとしても、甘んじて感受せねばならぬ。
何故なら、2年前にもまったく同じ事を、ここのカウンターで申し込みしていたからである。
私が書類にサインしようと、傍らのボールペンを持った正にその時、
「江島様。奥様からお電話です。」
「?? 俺に?なんじゃろか。もしもーし。」
家内からの電話は、
何と!
私のスマホを拾ってくれた人から、自宅に連絡があったとの知らせだったのだ。
「・・・見つかったって(ポカン)」(私)
「良かったですねえ!!本当に滑り込みセーフですよ。本部に書類を送った後じゃ、キャンセルするにも手間がかかりますから。」(店員)
携帯を持たない私は、拾ってくれた恩人に連絡するにしても、家に帰るしかない。
スマホを失くすとは、こういう事なのだ。
ドピューーーン
自宅に戻り、固定電話を手に取り、
「もしもし。あ、江島と申します。この度は本当に有難うございます!!」
電話口の相手に対し、コメつきバッタの如くお辞儀を繰り返す私。
拾ってくれた方は、福岡在住であり、これから帰路に着くとの由。
ついては、わざわざ久留米ICで一旦降りて、あろうことか、私の自宅まで届けるとおっしゃるのだ。
「と、と、と、と、とんでもございません。いえいえいえいえ、、、私が、、、」
「全然構いませんよ。だって免許証お持ちじゃなかでしょ。どうぞお気遣いなく。」
「え、はあ。そうですか。じゃあ、お言葉に甘えまして。申し訳ございませーーーん。」
全く持って、厚顔無恥と言う他は無いのだが、事ここに至っては、神の如きお言葉に甘える事にした。
9時半過ぎ、
私のスマホを自宅まで持ってきてくれたのは、30代と思しき爽やかな御夫婦だった。
その背後には、確かに後光が差していた。
「途中、私らとすれ違いましたよね。スマホは白口と稲星の途中に落ちてました。」(ご主人)
そうなのだ。
目の前に立たれているこのご夫婦こそが、正に一縷の望み、一組だけすれ違ったカップルだったのだ。
今、私のスマホは手元にある。
運転免許証と共に。
朝まだきの空から始まった、私の長い1日が終わった。
この投稿を読んだ方々は、すべからくこの教訓を以って他山の石と・・・・
そんな間抜けは私だけか。