「司法試験に通る」の都市伝説も
受験生に人気「万年筆」最新事情
産経新聞 11月8日(土)8時5分配信
男性だけではなく女性にも愛用者が増えているという万年筆
=神戸市中央区の「ペン アンド メッセージ」(写真:産経新聞)
万年筆といえば、車や機械式時計などと同様、
男性のこだわりや趣味の1つというイメージがある。
スーツの内ポケットから高級そうな万年筆を出すとかっこいいし、
そこはかとなくステイタスやファッション性も感じられる。
そんな万年筆が最近は、
男性だけではなく女性にも愛用者が増えているという。
さらに、司法試験の“強い味方”という意外なニーズも。
万年筆の最新事情を探ってみた。(杉山みどり)
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早い、きれい、疲れにくい
万年筆を使えば司法試験に通る-。
先輩から後輩へ、あるいは、
インターネットの掲示板などを通じて、
こんな“都市伝説”が広がっているようだ。
本当なのか? 神戸・元町にある
万年筆専門店「ペン アンド メッセージ」を訪ねて聞いてみた。
「確かに『試験用の万年筆を探している』というお客さまも
よく来られますね」と店主の吉宗史博さんは話す。
もともと万年筆には司法試験受験生にとって、
うってつけの特性がある。ペン先が
紙に触れるだけでインクが染み出て軽い力で書けるため、
書くスピードは上がり、
長時間の筆記でも疲れない-というのがそれだ。
司法試験は論文式で、民事、刑事など科目ごとに2~3時間。
横書き23行の答案用紙を必須科目は8枚、
選択科目は4枚配布される。これが3日間続く。
「早くきれいに、長時間書いても疲れにくい筆記用具」に
万年筆を選ぶ受験生が多いのも当然だ。
ちなみに、司法試験だけでなく公認会計士の論文試験も
黒のボールペンか万年筆を指定されている。
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試験用に向いているのはどんな万年筆?
「司法試験用」「公認会計士試験用」というものがあるわけではないが、
それに向いた万年筆というのはある。
答案用紙の罫線の高さから考えれば細字がいいが、
細すぎると紙に引っかかりやすくなる。
「何本かおすすめを提案して、
筆圧や好みに合わせて選んでいただきます」と吉宗さん。
また、少しでも乾きの早い顔料系インクが好まれているようだ。
「セーラー万年筆」(東京)は、
ペンの重さだけで紙の上を滑るように書ける
「司法試験や論文などで長時間筆記をされる方や、
手の負担を解消されたい方にオススメの万年筆」と、
受験生のニーズに応える商品を設計・販売している。
なるほど、都市伝説のように試験に通るかどうかは別にして、
受験生の“強い味方”になっているのは確かなようだ。
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手書きの文字には心がこもっている
一方、万年筆は、司法試験・公認会計士試験受験生の間だけでなく、
広くその良さが見直されている。
「スマホやタブレットがこれだけ普及しても、
手で書く文化は廃れないと思います。
実際、『目上の方へは手書きで』
『お礼を一言添えるのは万年筆を使う』という人は多いですよ。
礼儀ということもありますが、手書きの文字には
心がこもっているように感じるんでしょうね」と吉宗さんは話す。
日本でも絶大な人気を誇る米歌手のテイラー・スゥイフトは、
US版「Esquire」誌のインタビューで、
「私はお礼状を書くのが好きなの。
カードの感触や手書きってノスタルジックな感じがするわ。
今の時代、人生で何回手書きで手紙をしたためる必要があるかしら」と答えている。
「(手書きは)ロマンチックだと思う。
私は手で触れてキープしておけるのが好き。
メールはすぐ削除できてしまう。
まるで存在しなかったみたいに」とも。
テイラー・スウィフトに憧れ、
そのファッションを真似る“テイラー女子”が
日本でも増えているそうだ。
メールやラインでコミュニケーションを図るだけでなく、
手書きのカードや手紙をしたためてこそ
“真のテイラー女子”かもしれない。
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脳が活性化する
また、万年筆に限ったことではないが、
「文字を手書きする」ことには
「頭がよくなる」という効果も期待できる。
筆記具メーカー「ゼブラ」(東京都)がまとめた
東京書芸協会の川原世雲氏の脳研究によると、
「書字」という行為には、
脳機能の中で関わっていない箇所がないと思われるほど、
広範囲にわたって脳を同時に大きく使っているという。
文字を手書きすることは、
広範囲に脳を働かせる活動につながっているようだ。
前出の吉宗さんは自身を振り返り、
「万年筆のおかげで書くことが楽しくなり、
もっと言葉を知りたいと思い本をたくさん読むようになりました。
すると、考えの幅のようなものが広がり、
自分自身の意見が固まってきました。
万年筆には人の生き方を変える力があるんです」と話す。
万年筆を愛用することでかっこよく見え、
風合いのある文字(インクのかすれ具合など)に見せられ、
脳の活性化にもつながる…。
そうと聞けばもう迷うことはない?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141107-00000567-san-life
日本初の本格的な子ども向け万年筆 50万本突破の大ヒット
NEWS ポストセブン
11月9日(日)7時6分配信
文房具の市場規模が2008年度から2012年度までに10%も減少するなか、
出荷額を増やし続けているのがパイロットの万年筆「カクノ」だ。
50万本という驚異的な数を売り上げた「カクノ」は、
日本初の本格的な子ども向け万年筆というコンセプト。
作家の山下柚実氏が、パイロットコーポレーションを訪れた。
* * *
「まさかこんなに売れるとは。私たちも意外でした」
と開発を担当した同社営業企画部・斉藤真美子さん(41)は
開口一番、そう言った。
「当初は月1万本程度売れればと考えていたんですが、
発売したとたん注文が殺到し、
一時は品切れになりご迷惑をおかけしてしまいました」
2013年10月の発売から9か月経過した時点で、販売数は50万本を突破。
「この勢いでいけば100万本も夢ではないと思います」
注目のこの万年筆、価格は1,000円と安い。
万年筆は通常、安いものでも3,000円程度。
同社の売れ筋は金製ペン先を使った1万円クラスの商品だ。
「今回の開発テーマはまさに『低価格』にありました。
1,000円の万年筆を作る、ということは
弊社の長年の課題として追究してきたテーマでした」
なぜ、低価格製品なのか。
そのヒントは万年筆の「使用経験」にあった。
同社が8000名を対象に実施した調査によると、
50代の男女の9割以上が万年筆を使った経験があると回答。
一方で、20代のなんと半数以上が、
使ったことがないと判明した(「万年筆に関する実態調査」2012年)。
さらに興味深いことが見えてきた。
「万年筆が欲しい、と考えている人が最も多い世代は、
意外にも20代でした。若い人が抱く万年筆のイメージは、
オシャレ。肯定的なんです。
ところが購入していない。
理由は、価格と、使い方がわからないことにありました」
同社の狙いは、「関心はあるが使ったことのない」新しいユーザーを
掘り起こすことにあった。
「カクノ」を実際に握ってみると丸みを帯びたやさしい感触だ。
全体は樹脂でできていて、ボディの部分は六角形。
「実は子どもたちの手に馴染み易いように、
鉛筆を参考に設計しています。また、
ペン先に近いグリップ部分はなだらかな三角形で、
親指、人差し指、中指が自然に正しい位置にフィットするよう、
微妙なへこみをつけました」
「カクノ」を手にとるだけで、
正しい持ち方や使い方へと指が誘導されていく。
キャップにも微妙なへこみがあり、
そこをつまめば力を入れなくても気持ちよくキャップが外れる。
商品の「形」「デザイン」の中に、
無言で使い方を伝える仕掛けが潜んでいる。
ペン先には何やら細い線が。
目を凝らすと、それは「顔」だった。
「初めて万年筆を使う方にも正しい向きがわかるように、
ペン先に笑顔マークをつけました」
つまり、顔が見えるように持てばいい、ということ。
そうした細かい作り込みが随所に発見できる。
「カクノ」という商品の醍醐味だろう。
発売してみると、またまた想定外のことが見えてきた。
「子ども向け万年筆と謳いつつも、
実際のユーザーは若い女性が多いようです。
複数購入して、インクの色のバリエーションを楽しむ、
という方もいらっしゃいます」
世は空前の美文字ブーム。文字は人柄を表わすとかで、
「美しい文字」は女子力アップの強力アイテム。
「万年筆を使うと字がうまく書けそう」と考える女性も多いとか。
「カクノ」は時代の波に乗った。
デジタル化によって、手書きの機会も時間も激減してしまった。
それがむしろ、「書くこと」へのこだわりを生み出した。
コスト削減の折、会社から支給される事務用品も減ってしまった。
だが、それがかえって、「自分で買うのならばこだわって選びたい」
という欲求に火をつけ、万年筆への関心が高まっていった。
手触り・アナログ感への渇望。手先を使う道具への希求。
そこへ、斬新なデザイン性や、使い方を誘導するユニークな設計思想等が融合して、
今や文房具は「スモールラグジュアリー(小さな贅沢)」
とも表現される独自の領域に。
デスク上やカバンの中に愛する小さな道具をしのばせることが究極の贅沢。
「カクノ」のヒットは期せずして、
そんな時代と波長をぴたり合わせたところに生まれた。
※SAPIO2014年12月号
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141109-00000000-pseven-bus_allより