固定電話への不審な電話は増え続けている。
高齢者宅でなくても、その電話は突然にかかって来る。
その日、躊躇いもせずに電話を取ってしまったことに始まった。
これは、昨年の秋頃の話。
相手は電話口で「助けて!」と、いきなり叫んだ。
「今、横浜にいるんだけど、頼みたいことがあるんだ!」
と息を切らす。
勢いに押されて「 どうしたの?」 と、尋ねてしまったばかりに
言葉尻から、弟と勘違いしたことを一瞬で読まれたらしい。
相手は間髪入れずに電話口で泣き叫び始めた。
「助けて! お姉ちゃん! 本当に困っているんだ! 頼むよ!」
私に弟はいるが、「おねえちゃん」などと呼ばれたことも無いし、
第一、その頃に肝心の弟は、九州の叔母宅へと出向いていた。
深呼吸をしてから次の言葉を絞り出す。
「悪いんだけどさ・・・ 他を当ってくれない?」
後で思い返すと、この言葉は決して使ってはならないものだった。
かと言って、通報するようなことなのか・・・ この忙しい夕方に。
面倒くさいことこの上ない気持ちから出た一言。
こちらが電話を切るまで、相手はずっと、
「 お姉ちゃん! 嘘じゃないんだよ、ホントなんだよぉ・・・
おねぇちゃん・・ グスン グスン 助けてよぉ・・・ 」
と、すすり泣いた。
迫真の演技とは、このことだ。
何にしたって嘘は嘘。
バレてしまったら、そこまでだ。
・・・・・・・・・・・・・終・・・・・・・・・・・・・・・・・・