MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2618 年をとるほどお金の価値は減っていく

2024年08月08日 | 社会・経済

 日銀が3月17日に公表した2022年10~12月期の資金循環統計によると、2022年12月末時点の家計金融資産はおよそ2023兆円とのこと。その構成は、「現金・預金」が55.2%、「保険・年金・定型保証」が26.5%、「株式など」(9.9%)、「投資信託」(4.3%)と続き、半数以上が預貯金の形で保有されていることがわかります。

 そこで次は、そうした資産を一体誰が持っているのか…という話です。総務省の「家計調査」によれば、家計金融資産残高に占める60歳以上の構成比は68.5%と約7割。70歳以上に限っても40.0%を占めています。これには、土地不動産などの金融資産以外の資産は含みませんので、それまで入れれば(少なくともこの日本では)世の中の資産のほとんどを先の見えた高齢者が手にしている現状があるようです。

 一方、戦後の高度成長をけん引した「団塊の世代」がそろって75歳を超えようとしているこの国では、年間の死亡者数は現在の144万人から、ピークとなる2040年には168万人まで増加するとされています。

 こうした状況のもと、推計によれば今後30年程度の間に相続される氏資産総額は、金融資産だけでもおよそ650兆円に達する由。団塊ジュニア世代への(いわゆる)「大相続時代」が、いよいよ幕開けを迎える気配です

 そうした折、精神科医で作家の和田秀樹氏が6月18日の金融情報サイト「THE GOLD ONLINE」に、『定年退職したら「お金に対する考え方」を変えるべきワケ』と題する一文を寄せているのを見かけたので、参考までに小欄にその指摘を残しておきたいと思います。

 年をとったら、いつまでも若い頃の価値観にとらわれない方がいい。できれば定年退職を機に、これまでの考え方をいったん白紙に戻しマインドリセットをすることをお勧めしたいと和田氏はこの論考で(専門家の立場から)アドバイスしています。

 氏によれば、中でも一番変えなければいけないのはお金に対する考え方とのこと。「老後2,000万円問題」が話題に上って後、お年寄りはせっせと貯金に励むようになった。しかし、実際に年をとって歩けなくなったり、寝たきりになったり認知症がひどくなったりすると、人間は意外にお金を使わなくなるというのが(これまで医師として多くの高齢者を診てきた)氏の感覚です。

 家のローンも払い終わったし、子供の教育費もかからない。歩けなくなれば旅行に行く気も起こらないし、高級店で食事したいとも思わなくなる。そうこうしている内に体が動かなくなって特別養護老人ホームに入っても、介護保険を使えば年金の範囲でだいたい収まるのが普通だということです。

 と、いうことで、結果、そこまでいけば貯金なんかする意味がなくなってしまう。老後の蓄えがないからと、頑張って貯金なんかすることなかったなと悔やむことになる。要は年をとればとるほど、お金を持っていることの価値は減ってくるというのがこの論考で氏の強調するところです。

 お金を残してどうなるのか。現在の法律でいくと、たとえば献身的に介護してくれた娘と、何もしないでほったらかしにしていたバカ息子がいたとしても、遺産相続は平等に行われる。「遺留分」として法定相続人には法律で定められた遺産の取得分が保障されているので、バカ息子も同じように遺産を相続できると氏は言います。

 そして、ここで何より大事なのは、実はお金を持っていても幸せな晩年を送れるわけではないということ。和田氏はこれを、「金持ちパラドックス」と呼んでいるということです。

 氏によれば、たとえ財産を持っていたところで、逆に子供たちのいいようにされてむしろ不幸になるケースも少なくないとのこと。仮に認知症になってしまえば、自分で買いたいものがあっても買えなくなるし、結局、財産なんか残したところで、晩年に子供たちが大事にしてくれるとは限らないということです。

 では、どうすればよいのか。お金というものは持っているだけではだめで、それより使うことに価値があると、和田氏はこの論考に記しています。

 資本主義の世の中は金を持っている人間ほど偉いと勘違いされているが、確かに「お客様は神様」というくらいで、金を使う人間の方がよほど快適に過ごすことができる。もちろん何かを買わなくても、子供や孫たちに金をバラまくだけで、一族みんなで「おじいちゃん、おばあちゃん」って寄ってきてくれるということです。

 要するに、手元の金を使うかどうか。死ぬまで金を貯め続けるなんて、これほどバカなことはない。しかも、それはあなた個人だけの問題にとどまらず、何よりもいいのは、そうすれば景気が良くなることだというのが氏の指摘するところです。

 いま、この日本では、個人金融資産の大半を60歳以上が持っている。もしも皆でその金を使うようになったら、いっぺんで景気が良くなると氏は話しています。

 でも、日本のお年寄りはみんなお金を使おうとしないし、企業のほうも、どうせ金を使わないだろうと思うから、年寄り向けの車やパソコンを開発しようとか考えていない。せいぜいバリアフリーの家を建てるくらいのことしかしていないというのが氏の認識です。

 なので、ある程度年をとったら、お金を使うことをぜひ考えてほしい。死ぬ間際に残るのは思い出しかない。あの時、ああすればよかったとか、こうすべきだったとか、後から悔やむ前に踏み出す勇気が必要だと氏は言います。

 今はまだ…と思っても、実際はある年齢以上になったらできなくなることも多い。夫婦で世界一周の船の旅に出るとか、退職金でヴィンテージ・ギターやポルシェを買うとか、若い時にあこがれたものを手に入れることから始めみたら…というのが氏のアドバイスするところです。

 お金は持っているだけでは価値がない。使ってこそなんぼで、幸せになれるものだと氏はこの論考の最後に綴っています。年老いてから貯めこんでいても何にもならない。逆に、お金を貯めるのは不幸のもと。そう自らに言い聞かせて、ぜひ幸せな老後を送ってほしいと話す和田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。