MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2623 大国、中国との距離感

2024年08月19日 | 国際・政治

 日本の民間団体「言論NPO」が昨年8月から9月にかけて実施した、日中の18歳以上の2500人から回答を得た世論調査によると、中国の印象を「良くない」と答えた日本人は前年比4.9ポイント増の92.2%で、2005年の調査開始以来2番目に高かったということです。「嫌いな理由」としては、中国による「尖閣諸島周辺の領海、領空侵犯」が57.2%と最も多く、また福島第一原発の処理水に対する水産物の輸入制限などを「嫌がらせ」と感じている日本人も多いようです。

 一方、日本に対しての印象を「良くない」と答えた中国人は、前年比0.3ポイント増の62.9%とほぼ横ばいの由。日本人に「嫌われている」と自覚している中国人は案外少ないのかもしれません。

 因みに、(日本の)内閣府が2022年1月に公表した「外交に関する世論調査」によると、中国に「親しみを感じる」との回答は全体の20.66%(前年比+1.4ポイント)。「親しみ感じない」は79.0%(+1.7ポイント)で、前掲の調査よりはやや穏やかなものの、やはり日本人の嫌中感情の顕在化は否めません。

 しかしその一方で、これを世代別に見ると、18~29歳代の(いわゆる)Z世代における「親しみを感じる」の割合は41.6%と高く、60歳代(13・4%)や70歳以上(13・2%)と比べ、世代間の格差が大きいことも判ります。

 確かに、未だ発展途上にあった(つまり貧しかった)1970年代、80年代の中国を知る者にとって、東アジアで縦横無尽に振舞う現在の中国の(特に共産党指導部の)姿が、いかにも「増長している」ように映るのは仕方のないことなのかもしれません。

 一方、10代、20代の若い世代にとって、物心ついた時の中国は既に経済・軍事ともに強国の仲間入りを果たしていたはず。多くの中国人観光客が訪日し、接点も多かったことから、(彼らの物言いにも)それほどの違和感を感じていないのかもしれません。

 欧米先進国がイニシアチブをとる既存の国際社会に反発し、その経済力を背景にロシアやBRICs各国などと連携して発言力を強める中国。権威主義的な政治体制のもと、場合によっては武力による現状変更の試みも辞さない態度を見せる東アジアの隣国と、我々はどのように付き合っていったら良いのか。

 こうした問題に対し、7月11日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、『「媚中」「嫌中」を乗り越える』と題する一文が掲載されていたので、備忘の意味で小欄にその内容を残しておきたいと思います。

 最近、経済安全保障担当の大臣経験者がSNSで、「日中は課題山積の中、政府間協議も依然として冷え込んだ状況。戦略的互恵関係の構築を基本とし、『媚中(びちゅう)』や『嫌中』ではなく、『知中』の立場で向き合うことが大切です」と投稿したと、筆者はこのコラムの冒頭に記しています。

 こうした指摘が与党から出るというのは、米中の覇権争いのはざまで政府が思考停止に陥っていることへの危機感からではないか。実際、対中強硬スタンスを維持する日本を尻目に、米中首脳は(独自に)電話会談を含めて複数回にわたって対話していると筆者は指摘しています。

 筆者によれば、ブリンケン国務長官、イエレン財務長官など閣僚レベルも訪中する米国を筆頭に、4月には独ショルツ首相が企業幹部の経済交流ミッションを率いて中国を訪れた由。5月にはフランスが習近平国家主席をパリで出迎え、関係が険悪だったオーストラリアまでもが外交や経済で対中関係を上積みしているということです。

 また、最近では中国自身もロシア・北朝鮮の接近から距離を置くなど、西側諸国との関係に気を配っているようにみえると筆者は言います。そして、こうした状況から懸念されるのは、先進諸国の中で(特に)日本だけが、こうした動きから取り残されている状況にあるのではないかということです。

 中国の経済状況、社会的な動勢など分かりにくい点は多い。だからこそ媚中・嫌中を乗り越える「知中」が必要だと筆者は話しています。それは、政府だけでなく民間企業にも言えること。米国に言われるがままの対中政策では、はしごをいつ外されるか分からない。(様々な駆け引きの中で)今、日本の本気度が問われているというのが筆者の見解です。

 半導体の輸出規制、あるいはエネルギー安全保障などにおいて、必要以上の規制や排除は避けるべき。例えば、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)における米中の協力が合意事項となる中、カーボンニュートラルを達成するため中国の再生エネルギー技術を(したたかに)日本の経済成長に取り込んでいく必要があると筆者はしています。

 中国は依然、日本の貿易額の2割を占める最大の貿易相手国。中国との独自のパイプをもつ本来の日本のポジションを取り戻し、しなやかな経済・外交関係を築いて実利をとれるよう政治に主導してもらいたいということです。

 さて、テレビに映る習近平国家主席の(いかにも機嫌の悪そうな)ムスッとした顔だけを見ていると、どうにも彼らと友達になりたい気は起りませんが、それでも商売相手と思えばそうとばかりも言っていられません。

 彼の表情だって、(なかなかガマナンスの効かない)共産党幹部や解放軍、そして国民などに向けたパフォーマンスだと思えばそれまでのこと。14億人の人口を抱える中国では、一つ間違えれば政治体制が総崩れするわけですから、外面ばかりよくしていてやっていけるはずはないでしょう。

 大切なのは、自国の利益のために戦略的に行動すること。特に中国に対しては、「また米国追従か」と軽くあしらわれないよう独自のスタンスを持つことがカギになると私も考えるのですが、果たしていかがでしょうか。