MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2650 「コメ不足」の背景にあるもの

2024年10月11日 | 社会・経済

 先日、訪れた近所のスーパーマーケット。(買い置きが少なくなったので)そろそろ新米を買おうと商品棚を探したところ、「入荷待ち」の札が(がらんとした陳列棚に)ポツンと置かれているのに驚かされました。

 「それでは…」ということで、電子レンジで温めるだけのパックご飯の棚に目をやったところ、何とこちらも「売り切れ」の様子。この夏以来、お米の品薄状態が続いているとはテレビニュースなどで見聞きしていましたが、(稲刈りも終盤の)10月にもなってまだこれほどとはと、半分呆れた次第です。

 もとより、一人当たりの米消費量が減少傾向にある中、今回の「コメ不足」は、実際にお米の供給が滞っているというよりも、台風や地震などで各家庭が(非常用にと)買い置きを増やし、それをメディアが報じたことで一時的に需要が増えたことが原因と聞いています。

 実際の供給量が減っているのであれば備蓄米の放出もあったのでしょうが、結局、米価の下落を気にした(=生産者の方しか向いていない)政府にそうした動きはなく、結果、ちょっとした「風評」によって何か月も「コメ不足」が続いている状況です。

 一方、コメ農家から言えば(今回の騒ぎで)24年産新米の出荷価格は例年の1.4~1.5倍に高騰し、思わぬ収入増となっているとのこと。構造的な「コメ余り」の状況を受け減反政策を続けてきた政府の立場から言えば、(もしかしたら)「結果オーライ」というところかもしれません。

 しかしまあ、なぜにしてこんな混乱が起こったのか。日本人の主食であるはずのコメ需給管理の脆弱さを感じていた折、9月27日の情報サイト「Newsweek日本版」に経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が『コメ不足が、「一時的」でも「偶発的」な問題でもない理由』と題する論考を寄せていたので、参考までにその主張の一部を残しておきたいと思います。

 今年の夏以降コメ不足が顕著となり、一時は小売店の棚から商品が消えるという事態にまで発展した。政府は天候不順やインバウンドの増加による需要拡大が原因として新米の出荷が始まれば品薄は解消されると説明してきたが、新米の出荷が始まっても品薄は改善せず市場の混乱が続いていると、加谷氏はこの論考に綴っています。

 近年、コメに限らず多くの食品が品薄になったり価格が高騰するケースが相次いでいる。その都度(政府からは)「一時的な要因なので消費者は冷静に対応してほしい」旨の要請が行われるが、一時的、偶発的要因で多くの商品が次々と品薄になったり、価格が高騰することはあり得ない。こうした現象の背後には、ほぼ確実にマクロ的な要因が存在していると考えるべきだと氏は言います。

 今回についていえば、天候不順によって生産が減ったりインバウンドの増加で外国人向け消費が拡大したのは確かに事実かもしれない。しかし、ただそれだけの理由でスーパーの棚から商品が消えたり、新米価格が1.3~1.5倍に急騰するのは不自然だというのが氏の考えです。

 では、なぜ実際にスーパーからお米が消えているのか。コメ不足と価格高騰の最大の理由は、日本人がコメを食べなくなり、市場が縮小してて価格変動(ボラティリティー)が拡大したことにあると、氏はここで説明しています。

 コメの需給や価格を政府が管理する食糧管理制度は1995年に廃止されたが、政府は今でもコメの需給や価格について一定の管理を続けている。需要が減るなかで生産量を維持すれば値崩れするので、政府は生産量を調整する減反を実施してきたということです。

 制度としての「減反」も2017年度に終了したとされるが、補助金などを通じて生産量を調整する仕組みは現在も存続。実際に、コメの生産量は年々減っていると加谷氏は言います。

 規模が縮小する市場では、生産量や需要にごくわずかな変化が生じただけでも商品価格が激しく上下変動する(ボラティリティーが高くなる)のは経済学では一般的な話。備蓄米を放出しないなど政府の運用に問題はあるが、日本人がコメを食べなくなっている以上市場が小さくなるのは当然であり、単価を上げなければ農家も経営を維持できないということです。

 日本人がコメを食べなくなったのは嗜好の変化だけでなく、経済的要因も無視できない。コメを小売店で購入し、自宅でといでおいしく炊き上げるには相応の手間と設備が必要で、生活(や時間)に追われる低所得層は、こうした生活を享受することが難しくなりつつあると氏は話しています。

 つまり、おいしいご飯を炊くには一定以上の経済力が必要であり、今の日本においてコメはもはや高級品となりつつということ。今回のコメ騒動をきっかけに「自給率を上げよ」「コメを守れ」という勇ましい意見も出ているが、そもそも日本人がコメを食べなくなっている(食べられなくなっている)のに、自給率を上げて市場を拡大するのは至難の業だというのが氏の見解です。

 確かに自分の生活を振り返っても、(加谷氏も指摘するように)自宅でご飯を炊く機会はずいぶん減ったような気がします。量販店で勧められて高機能の炊飯器を購入したものの、出番は相当に減っている。近所のスーパーでおいしいパンも簡単に手に入るし、高齢化の折、糖質である米を控える家庭も増えていると聞きます。

 世界に目を向ければ、コメ以外の食品についても世界的な人口増加と経済拡大に生産が追い付いていないという現実が背景にあり、もはや食料品は全世界的な争奪戦となっていると氏は説明しています。

 一連の問題は、もはや「自給率の低下」といった単純な話ではなく、国家全体の購買力に関わる問題となっている。海外市場で日本のバイヤーが(新興国に)「買い負ける」事態が続く中、日本経済が本格回復しない限り、慢性的なモノ不足が続く可能性があるとこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を、私も深刻に受け止めたところです。