株式会社ジャストシステムが昨年の3月に行った調査によれば、調査対象となった10〜40代の社会人男女2,063人のうち社内恋愛の経験がある人の割合は30.4%とのこと。一方、経験はないと回答した人の割合は67.2%で、およそ3人に1人が職場恋愛の経験があったということです。
そこで、「社内恋愛をしたことがある」とした男女566人に聞いたところ、相手について最も多かったのは「同僚」で54.5%、2番目は(案外多い)「上司」の24.8%、3番目は「部下」の11.9%だったとされています。因みに、相手の所属先については「同じ部署」が51.1%と約半数を占めており、上司・同僚・部下を含め、社内でより身近な存在の方が恋愛に発展しやすいことが見て取れます。
一方、この調査では、社内恋愛のデメリットについても聞いています。その結果、最も回答が多かったのは、「関係を会社にバレないようにする必要がある(217人)」というもの。2位以下を見てみると、「関係が悪い時も顔を合わせる(178人)」、「別れたら気まずい(160人)」と続き、ドキドキのオフィスラブにもそれなりの苦労があることがわかります。
問題は、恋人関係にあることが職場の人に知られて気を遣われたり、会社にばれて仕事に支障が出たりすること。また、喧嘩をしても職場で顔を合わせなければならなかったり、関係が破綻したときに気まずくなったりという心配もあって、気苦労が絶えないのも判るような気がします。
これも因みに、交際の結果どうなったかを聞いた結果では、「結婚した」が29.4%で約3割。「現在も交際中」が19.1%で、「別れた」が過半の51.4%を占めていることから、職場恋愛だからといってうまくいくとは限らないのも事実のようです。
しかしその一方、付き合った結果約3割の人が結婚に至ったというのは、イマドキの恋愛ではなかなかの成績とも言えるでしょう。やはり、相手の持つ能力や第三者の評判などを直に見聞きできる職場のつながりというのは、「あなどれないな」と思わないでもありません。
そうはいっても、職場での関係性もあり、どこまで積極的になってよいのか判断に迷うのが職場での恋愛というもの。それは当事者ばかりでなく、職場の人間関係を管理する上司にとっても同じことで、何をどこまで許すべきかはなかなか難しい判断となるでしょう。
女性の社会進出の拡大とともにセクシャルハラスメントのリスクが大きくなっている現在、職場の人間関係をどのように認識していくべきか。7月15日の日本経済新聞に東京大学教授の山口慎太郎氏が、「上司と部下の恋愛、リスク大」と題する興味深い一文を寄せているので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。
近年、ハラスメントと隣り合わせの職場での恋愛は避けられる風潮にあるが、最近の調査でも結婚した人の21.4%が「職場や仕事で」知り合ったことがきっかけとの報告がある。こうして、今でも職場は男女の7有力な出会いの場となっているようだが、その一方で仕事上の権力関係がある上司と部下の恋愛については、眉をひそめる人も少なくないはずだと山口氏はこの論考に記しています。
何となくセクハラの匂が漂うこの関係。氏はこの論考で、世間の懸念が的外れか否かを判断するために行われた、フィンランドのデータに基づく最新の実証研究の内容を紹介しています。
この研究では、男性上司と女性部下の同居が開始した2年前から恋愛関係が始まったとみなし、両者の関係が当事者や職場に与える影響を評価している由。まず疑われたのは「えこひいき」が生じるかどうかだったと氏はしています。
その結果を見てみると、恋愛関係が始まると、女性部下の給料は6%上昇していたとのこと。よその職場の男性や、上司ではない同僚との恋愛関係が始まることでも一定の収入増は見られるが、それらはずっと小さい。恋愛関係は仕事のプラスになる面はあるが、それでは説明がつかないほどの大きな給与増が見られたということです。
「えこひいき」は会社にとっても高くつく。上司と部下の恋愛は、同僚の定着率を14%下げ、さらに職場が小規模であったり「えこひいき」の度合いが大きかったりする場合には、定着率は一層低くなると氏は説明しています。
この分析結果は上司と部下の恋愛関係に対し、企業側が注意を払う必要があることを示唆している。「えこひいき」による昇給・昇進が存在すること自体、会社にはマイナスで、職場全体の士気を損ね生産性を下げるということです。
さて、こうした結果から考えると、社内恋愛を懲戒処分の対象とすることは法的に効力が無いと思われるが、配置転換や評価者の変更などの一定の対応は必要であろうと山口氏はこの論考で指摘しています。
特に、上司との恋愛は女性にとってのリスクが大きい。実際、当該研究では関係が終わると、離職などを通じて収入が18%減るケースも見られたとのこと。通常の恋愛関係の解消ではこれほど大きなマイナスにならない。この点からも、会社が一定の対策を講じることが多くの従業員を守ることにつながるだろうと話す氏の主張を、私も興味深く読んだところです。
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