MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯915 カースト制度のこれから(1)

2017年11月11日 | 社会・経済


 任期満了に伴うインド大統領選挙の投開票が7月20日に行われ、与党インド人民党(BJP)が擁立したカースト制度の最下層「ダリット(Dalit):不可触民」出身のラム・ナート・コビンド(Ram Nath Kovind)氏(71)が当選したことが話題に上りました。1947年のインド独立後、ダリット出身者が大統領に選ばれたのはコビンド氏で2人目だということです。

 コビンド氏は弁護士や州知事として活躍し、BJPのナレンドラ・モディ首相の指名で大統領選に出馬し、国会議員と州議会議員による投票の結果、65%を超える票を獲得したとされています。

 インドの大統領は国家元首としての位置づけで政治的な実権は持たず、主に儀礼的な役割を担うということですが、かつて「不可触民」と呼ばれたダリットの有権者らへの重要なメッセージとして、モディ首相の権力基盤や政治資本の強化につながるとみられています。

 インドのカースト制度は、紀元前1500年頃にアーリヤ人がインドに進出したときに、征服者となったアーリヤ人が3つの階級を作り、先住民であるドラヴィダ人を当初の下位のヴァルナ(階級)としたことがきっかけとされています。以来、実に3500年以上にわたる歴史の中でインドの社会に(協力に)根付き、現代ではインドの近代化を妨げる差別や迫害の元凶になっていると考えられています。

 実際、インドの街を歩いても、職業が固定されたダリットの人々の生活の厳しさは明らかで、路上生活をするダリットの子供たちや物乞いの姿もごく普通に見かけます。

 インド社会に厳然と残るこうしたカースト制度はどのように生まれ、都市化や近代化の中でどのようになっていくのか。

 こうした問題について、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏は5月25日の自身のブログ「世界投資見聞録」において、「インドのカースト制度は人種差別」と題する興味深いレポートを掲載しています。

 氏はこのレポートにおいて、インドを旅行した日本人がまず不思議に思うのは、インドではレストランに女性の従業員がいないことではないかと指摘しています。

 高級ホテルのレストランなどでは美しく着飾った女性が受付にいることはあっても、彼女たちの仕事は客をテーブルに案内することで、普通は料理を運んだりはしない。氏はその理由を、ヒンドゥーの「浄」と「不浄」の文化からきているものと説明しています。

 最高位のカーストであるブラフミン(バラモン)はもっとも浄性が高いが、それは不浄のものに触れると穢れてしまう。最も不浄とされるのは体外に排泄されるものとされ、経血もその一とされています。

 それ故、(女性が月経かどうかは外見から判別できないため)見知らぬ女性が触れた飲食物はすべて忌避されることになり、これがインドのレストランに女性従業員がいない理由になっているということです。

 「女性の穢れ」という文化はインドに特有のものではないにしろ、インドでは、この「穢れ」の感覚が社会のすみずみまで徹底されており、このため街の飲食店はもちろん外国人客の多いレストランやカフェやホテルのバーですら、女性従業員が排除されていると橘氏は説明しています。

 さらに言えば、インドのレストランのもうひとつの特徴は、男性従業員がやたらと多いことだと橘氏はしています。

 これにも理由があって、カーストの低い者が触れた飲食物は穢れており浄性が落ちるとされている。そのため料理をつくるのも運んでくるのも、それなりのカーストでなければならないことになる。特に、ウェイターの場合はカーストが一目瞭然で、さらにゴミや食べ残しに触れるのは低位のカーストの仕事だけなので、同じウェイターが客に食べ物を運ぶことは許されない。 

 こうしてインドのレストランはどこも、飲食物をサーブする係と汚れた皿を片づける係、ゴミを拾ったり掃除したりする係などが別々に必要となり、必然的に店は男の従業員で溢れることになるということです。

 氏は、このことからわかるように、カーストには分業によってできるだけ多くの男に仕事を分け与える機能と、女性を職場から締め出し家庭で男に従属させる機能があると説明しています。

 労働市場から下層カーストや女性を締め出すわけなので、一部の人間(男性)が有利なポストを占めるのに適している。人口圧力がきわめて高いインド社会では、こうして共同体を(政治的・経済的に)安定させるため、カースト制度が歴史的に利用されてきたという指摘です。

 それにしても、その厳しくも差別的な制度がなぜもこんなに易々と温存されてきたのか。また、これから先の現代インドで、このカーストが変化していく兆しは見えているのか。

 歴史的な観点も含め、もう少し突っ込んで考えていく必要がありそうです。(「カースト制度のこれから(2)」に続く)




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