MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#1889 中国共産党と情報統制

2021年06月29日 | 国際・政治


 米CNNテレビは6月14日、中国広東省台山市の台山原発から放射性物質漏れが起き、周辺地域の放射線量が高まっている可能性があると報じました。
 CNNが入手した、建設と運転に協力するフランスの原子炉製造会社「フラマトム」の文書によると、付近の放射能の値は既にフランスの安全基準を超えているが、中国当局は原発の運転停止を避けるため、周辺地域の放射線量に関する安全基準の上限を調整しているということです。

 つまり、中国当局は、放射能漏れがあったにもかかわらず、安全基準を高く再設定することで事故情報の隠蔽を図り、住民への情報開示を阻んでいるということ。一方、中国政府が世界に向け発信されたこの報道を受け、「安全は保たれている」と強調しつつも燃料棒の破損を認めたのは伝えられているとおりです。

 当局の説明によれば、原子炉冷却材の放射性物質の濃度が上昇したものの運転基準を超えてはおらず、周辺の放射性物質の漏れも確認されていないとのこと。しかし、中国側が問題を認めたのは国際世論に押されたからであって、CNNが報じなければ事実を闇に葬っていたことは容易に想像できます。そこで浮き彫りになったのは、国際的な危機管理などをめぐる中国政府の情報公開の不透明さばかりだと言えるでしょう。

 中国共産党は今年の7月1日に創立100年を迎えますが、設立当初からしばらくは非合法の革命政権だったこともあってか、その秘密主義には(現在でも)冷戦時代のソビエト連邦を凌ぐものがあるといわれています。

 オンラインで世界が結ばれたこのネット社会にもかかわらず、中国では共産党の許可がなければ重要情報を公開できない。日常的に監視されている住民から発信される情報は限られており、メディアが独自取材で問題を指摘する仕組みにも乏しいとされ、武漢で初めて感染の拡大が確認された新型コロナウイルス感染症でも、当局の情報隠蔽が大問題になったのは記憶に新しいところです。

 「また何か隠しているのではないか」…習近平国家主席国家主席の終始憮然とした表情や、記者会見で一方的に他国を糾弾する外交部スポークスマンの言葉の端々に、国際社会は中国政府のへの信頼を失い、「中国という仕組み」の正直さへの疑念をぬぐえなくなっているのではないでしょうか。

 6月13日に閉幕した英国コーンウォールでのG7(主要7か国首脳会議)では、最終日の共同宣言に「新型コロナウイルスの起源に関する調査の実施を求める」旨、改めて明記されました。中国政府が協力を拒否したために不十分なものとなったとして当初の報告書の内容を否定し、世界保健機関(WHO)の透明性のある追加調査の実施とともに中国政府に情報開示を迫るものとなっています。

 さらに、バイデン米大統領は「中国にすべてのデータと証拠を提供するよう、世界各国と連携して中国に圧力をかける」との声明を出し、中国の姿勢を強く批判しているところです。
 最近では、米国のサリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官が6月20日、「もし中国が新型コロナの起源解明に向けたさらなる調査を行わない場合、国際社会からの孤立を招くことになる」と改めて追及しています。

 このことについて中国外交部の趙立堅報道官は、6月21日の定例記者会見で「米国側の発言はあからさまな恐喝であり、脅迫である。中国側は強い不満と反対の意を表し、これを絶対に受け入れない」と強調したと報じられています。
 しかし、こうして中国当局がどんなに強く否定しようとも、国内に言論や報道の自由がない国、そしてそれを疑問とも思っていない政府の言葉には、誰も聞く耳を持たないでしょう。

 中国共産党に批判的な記事を書き続け民主派の活動を鼓舞してきた香港の「アップルデイリー」紙は当局の圧力で配管を余儀なくされ、6月24日には26年の歴史に終止符を打ちました。
 中国共産党の意に沿わない記事を書くメディアは、例え一国二制度の香港といえども存在を許さないということでしょう。そして、その後に残るのは、まさに党が認める情報だけが都合よく書き換えられて表に出る社会としか言いようがありません。

 この40年余りの改革開放のプロセスの中で、中国の人々は自由主義に育まれた市場経済の一体何を学んできたのか。
 もはや苔の生えたような「言論統制」と国家による自由の抑圧の中で、偏った情報しか持たない中国の人々が今後どのような政治の仕組みや社会を選択していくのか。現在の中国社会に内包される不安定さを考えれば、そう遠くない将来にもう一荒れ、二荒れあるのではないかと感じているのは私だけでしょうか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿