MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1890 人民の情報管理

2021年06月30日 | 国際・政治


 6月25日の日経新聞(コラム「アジア便り」)によれば、中国有数の大都市のひとつ広州を首都とする広東省では、新型コロナウイルスの省外への拡大を防ぐため、当局により「48時間ルールー」と「20分ルール」という二つの厳格なルールが定められているということです

 「48時間ルール」は、48時間以内に発行されたPCR検査の院生照明を提示しないと省外に出られないというもの。「20分ルール」は、感染者がいた場所から半径250m以内で20分以上過ごすと(自動的に個人の)行動が制限されるというものです。
 個人に義務付けられたコロナ対策アプリで感染者と接近(といっても半径250mの範囲ですが)した事実が確認されると、その人のアプリのQRコードの色が通常の緑から(注意の)黄色に変わり、提示が義務付けられている建物などに入れなくなる。いったん(当局に)マークされると、PCR検査を受けるなどの一定の条件をクリアしない限り、行動制限は解除されないということです。

 こうした取り組みによって、広東省内では新規感染者ゼロの日が増え始めているとされていますが、それにしても、当局が個人情報をここまで押さえているのかと、改めて驚かされるエピソードです。
 人口14億人分のビッグデータを手に「デジタル情報社会」の先頭を切る中国。しかし、個人の発言や移動履歴、誰と接触したか、何を買っていくら払ったかなど、国民の様々な個人情報を管理するためにそこまでの投資をするにはやはり訳がありそうです。

 確かに、個人情報管理がコロナ対策などの公共サービスの効率化につながるのは言うまでもありません。個人ごとに所得や支払いの状況がわかれば課税や徴収も簡単ですし、医療や福祉などに必要な費用の合理化にも寄与することでしょう。
 また、中国の街頭や公共施設などのあらゆる場所に監視カメラが設置されていることは広く知られており、人工知能(AI)を搭載した顔認証システムと連動させることで不審者の割り出しなど犯罪抑止に効果を上げているとされています。

 国民の行動を管理することで便益を与えつつ、共産党の指導の下、体制の方針に反対する動きがあればリアルタイムでそれを特定し、権力を持って押さえつけていく中国の「監視社会」。
 日本や欧米などの自由主義社会に暮らす人間から見れば(いかにも)「不気味」と捉えられるこうした中国の個人情報管理も、現地に暮らす人々にとっては(「便利ならばそれでいい」「人権なんてあまり関係ないし…」と)それほど気にならないものなのでしょうか。

 さて、6月10日に北京で開かれた全国人民代表大会(全人代)で、中国に関係するすべてのデータの扱いを規制する「データ・セキュリティ法(DSL)」が成立したとの報道がありました。
 これは中国で初となる包括的なデータ法で、企業も個人も対象とするもの。「データ」(電子的またはその他の手段による情報の記録)と「データ活動」(データの収集、保管、加工、使用、提供、取引、公開など)に適用されるあらゆるデータを対象とし、国家安全保障の観点から国境を越えて対象を取り締まることまで想定しているということです。

 中国共産党系メディアの「環球時報」は、この法律に関し、「個人のプライバシーだけでなく、デジタル経済の安全で健全な発展のために強力な法的サポートを提供するもの」と伝えています。
 しかし、いくつかの報道を見る限り、この法律において「データ・セキュリティ」の文言が意味しているのは、①データは国家が集約し、②外部に出ないように国家が規制し、③国家が管理する、ことだと考えられるところです。

 さらに、この法律の際立った特徴は、(中国政府の裁量によって)非常に広範囲に適用され、ほぼ無制限に規制の対象とすることができる点にあるとされています。
 もちろんその目的は、(中国の)安全保障や利益にかかわる「重要データ」について厳しく規制し管理下に置くことにあり、そしてそれは国外の組織・個人の活動にも規制が及ぶことになるということです。

 さて、近年の中国では、経済的自信を背景に「中国には中国のやりかたがある」「自由主義の押し付けには断固対抗する」といった、(以前は国内向けだったような)国際ルール自体を否定するような主張が強く発信されるようになっています。
 中国との経済的な関係を慮るあまり暫く放置されてきたきらいもありますが、もちろん中国独自のこうした論理が、経済を切り口に既成事実的に次々と国際社会へ浸潤していく現状を、このままいつまでも座視していてよいとは思えません。

 中国共産党指導部は「核心的利益」と言う言葉をよく使いますが、「自由」や「人権」、そして「開かれた情報」こそが自由主義社会の「核心的利益」であることを、市場を共有する中国にもきちんと示す必要があると、改めて感じているところです。



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