9月30日、新型インフルエンザ特別措置法に基づき19都道府県に発令されていた「緊急事態宣言」もようやく解除されることが決まり、いよいよ日本経済もコロナと共存する「ウィズコロナ」「アンダーコロナ」への転換点を迎えます。
昨年4月から数えて4回目となった今回の宣言は、7月12日の発令から実に2カ月半の長きに及び、それ以前のまんえん防止特別措置などと合わせ、飲食店などの営業自粛や酒類提供禁止により個人消費が大きく落ち込みました。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが、宣言期間中の経済損失を概ね5兆7千億円と試算していることからも分かるように、今回の宣言解除が経済復興につながることへの期待感には大きいものがあります。
折しも、政局は、実質的に次の総理大臣を決める自民党総裁選挙のさなかにあり、4候補はそろって新型コロナで経済的な影響を受けた事業者や個人に対する支援を提唱しています。
河野太郎氏はデジタルを活用した事業者向け協力金の早期給付を、野田聖子氏は事業規模に応じた支援を、高市早苗氏は生活困窮者向けの特別定額給付金の再給付を訴え、岸田文雄氏は数十兆円規模の経済対策の実現をその公約に挙げているところです。
一方、驚かされたのは、9月27日に発表された立憲民主党の政権構想です。この中において枝野幸男代表は、新型コロナの影響を踏まえた緊急の経済対策として、年収1000万円程度以下の個人を対象に所得税を1年間実質免除すること、消費税率を時限的に5%へ引き下げることなどを公約として掲げました。
所得税免除と消費税減税に必要な財源をそれぞれ約5兆円、約13兆円と見込み、すべてを国債発行で賄うとともに、所得税免除の恩恵が小さい低所得者にはさらに別途給付金を支給するということです。
2020年の統計では、国内で年収1千万円以上の所得を得ている人の割合は4.8%。つまり、全国民の実に95・2%の所得税をチャラにするという大盤振る舞いのインパクトには大きいものがありますが、財政規律の問題を考えれば簡単に飛びつくわけにもいきません。
さらに、日本の総世帯数6227万世帯の4分の1以上となる1583万世帯が住民税非課税世帯であることを考えれば、本当に生活に困窮している高齢世帯や一人親世帯などにその恩恵が及ばない可能性があることも考える必要がありそうです。
ワクチン接種の拡大などにより新型コロナが(ようやく)落ち着きを見せ始めた現在、長期にわたる対策で傷ついた日本経済に、どのような対策を講ずるべきなのか。そんな折、9月28日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は、「コロナ感染対策こそ景気対策」と題する一文を掲載しています。
菅義偉首相の退陣表明を受け、自民党の総裁候補者はそろって新型コロナウイルス禍の経済対策を提言している。しかし、そこで規模は強調されても、具体策ははっきり見えないのが現状だと筆者はこのコラムに記しています。
コロナ禍の経済危機の原因は、全体として人々にお金がないからではない。お金はあっても、感染の恐れや自粛圧力でお金が使えないからだというのが筆者の認識です。
外食も観光もイベントも行かなければ支出が減る。直接の被害がなければ、所得も変わらずお金は余る。余ったお金は投機に回り、マンション価格は高騰し、株価もバブル後の高値を更新しているということです。
実際、直接被害を受けている外食や観光、エンターテインメントなどの産業以外からは、お金の不満は出てきていない。国民の不満は、外出制限が続き、思うようにお金を使えないことになるというのが筆者の指摘するところです。
国民はワクチン接種が進み、活動制限が緩和されるのを今か今かと待っている現状を鑑みれば、あとは病床増など感染時の受け入れ態勢を整備すれば安心できる。その上で制限を緩和すれば、お金をばらまかなくても需要はすぐに回復すると筆者は見ています。安心して(以前のような)消費が行える社会に戻すこと。これこそが最大かつ唯一の景気対策だというのが筆者の見解です。
思い返せば歴代政権は、景気後退のたびに「やれ地域振興券だ」「ふるさと創生だ」などと、新手のばらまきを繰り返してきたと筆者は言います。しかし経済は一向に改善せず、財政赤字ばかりが積み上がった。与党も野党もこの失敗の経験をすっかり忘れている。使うことすら制限されるコロナ禍の下では、ばらまき策に効果がないのはこれまで以上だろうということです。
それでも、コロナを免罪符に最悪の国家財政に目をつぶり、いくらばらまいてもいいという論者の意見に飛びついてしまうのが政治家の性というもの。今回の対策も一律10万円の給付金とGo To キャンペーンから始まったが、使い道を考えずばらまくだけなら、頭を使う必要もないと筆者は厳しく指摘しています。
(問題の解決よりも)国民受けをまず考えるのが政治家であるとしても、今の日本ではそれを監視する立場のメディアや評論家までもが「だんまり」を決め込んでいる。ネット世論の反発などを気にして、言いにくいことを口にする人がいないという現実もあるでしょう。
少なくとも、ばらまきが景気と関係ないことが明らかなら、対策は金額ではなく使い道、感染症対策で競うべきだというのが筆者の考えです。実際、飲食店やイベント会場の対策も当事者任せで、指針も対応も各自治体でばらばら。被害のある産業も、今後の営業が感染者数の動き任せでは先行きも見えず対処のしようもないと筆者は言います。
こうした状況を踏まえ、給付は被害産業の所得補償と生活困窮者向けに限定すべき。まずは、医療体制の充実に資金を集中するとともに、具体的な営業指針を早急にまとめることを急がなければならないと話す筆者の見解を、私も興味深く受け止めたところです。
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