いよいよ9月29日に迫った自民党総裁選に世の中の耳目が集まる中、必ずしも存在感を示せてはいないのが立憲民主党を中心とした野党各党です。来月に控える衆議院議員選挙に向けて、各党はそれぞれ「政権の選択肢」としての存在をアピールしていますが、その支持率は直近の世論調査で(最も高い)立憲民主党でも13%前後と低空飛行が続いています。
菅首相の総裁選への立候補断念が伝えられ、(総裁選へ向けた)各候補の動きが活発化した9月7日、野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表は「政権が代われば何が変わるか、国民の皆さんに知ってもらう」として、衆院選に向けた公約の第1弾を発表しましました。
公約は「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」と題する7項目で、医療提供体制の強化や持続化給付金の再交付などを含む「少なくとも30兆円規模」の補正予算や、首相直属の「新型コロナウイルス対応調整室」を設置し、官房長官をトップに各省庁が横断的に機能する体制を整えることなどを掲げています。
しかし、7項目の公約のうちの3項目が「森友・加計学園」の問題や「桜を見る会」の問題などの安倍(菅)政権の疑惑解明に関するもので、その印象はあくまで野党目線。支持者などからも「また政権批判か」との声が出るなど、インパクトに欠けていることは否めません。
一方の自民党総裁選では、コロナ対策から外交防衛政策、年金問題など様々な視点からの政策論争が、メディアを通じて(ある意味「わかりやすく」)伝えられていることもあり、与野党の政策の認知度の格差は広がるばかりと言えるでしょう。
そうした中、立憲民主党の枝野幸男代表は9月26日、福岡市で街頭演説し、政権交代を実現した場合には、新型コロナウイルス禍に伴う経済対策として、消費税を(時限を切って)5%に減税することや、年収1000万円以下の世帯の所得税を1年間ゼロにするなどの新たな考えを示しました。
枝野氏は演説で、「お金持ちほど株で稼いでいるから(実質的に)低い税率で所得税を納めている。こういう人たちに応分の負担してもらおう」と話し、株の配当などへの課税を強化するとともに富裕層に対する課税強化を通じ格差是正を図る方針を示したとされています。
コロナ対応で財政規律が大きく緩む中、大半の世帯の所得税を免除し、そのうえ消費税も半分に減税して本当に財政が立ち行くのかどうか。また、企業や富裕層にどれほどの担税力があるのかは枝野氏の発言からはよくわかりませんが、突然に発せられたこうした提案がずいぶんと乱暴なものに聞こえるのは私だけではないでしょう。
これでは、これまでの共産党の主張と同じではないかと指摘する向きも多いようです。しかし、こうした(インパクトのある)政策を唐突に打ち出さざるを得なかったこと自体、立憲民主党の危機感の表れと受け止めれば、その決断もわからないではありません。
実際、既に衆議院議員選挙での選挙協力を決めている立憲民主党と日本共産党は、今回の衆議院戦況に当たり消費税の取り扱いやコロナ対策などについて足並みをそろえており、安保法制や共謀罪法の違憲部分の廃止などについても、野党4党の共通政策として合意がなされています。
一方、労働組合「連合」を中心に、立憲民主党の支持者(支持団体)の中にはこうした共産党との距離感に懸念を表する向きも多く、枝野代表自身も(そのような状況を見計らって)政権獲得に向けた共産党との連立には否定的な見解を示しています。
因みに、日本共産党の志位和夫委員長が9月22日に発表した衆議院議員選挙に向けた公約には、問題の消費税率5%への引き下げのほか、(コロナの経済対策として)生活が困窮している人への一律10万円の特別給付金の支給や、消費税率5%への引き下げ、最低賃金の全国一律時給1500円への引き上げなどが盛り込まれています。
また、新型コロナ感染症への対応として、感染症病床や救急用病床の増強に向けた国の補助金を倍増するほか、保健所予算も2倍にし、保健所数と職員数を大幅に増やことなどを掲げているところです。
さて、立憲民主党が掲げる「反自民」の政策、さらには、大幅減税などの国民負担の軽減をうたった政策などは、果たして国民の支持を得て同党の党勢拡大につながるものなのか。
「政権の選択肢担」を目指す枝野代表としては、もちろん政策の実現に自信があっての提案なのでしょう。しかし、提案される政策が先鋭化すればするほど、世論はその内容を「現実離れ」と理解し、その政権担当能力を不安視するようになるのもまた事実です。
もちろん、選挙に向けたこうした公約の提示は、(「革新」と呼ばれていた)昔からの支持者である岩盤左派層を固めるには有効に作用するでしょう。しかし、こうした政策が、現在の同党が必要としている無党派層の心に響き、支持拡大につながるかといえば、大きな期待はできないというのが本当のところではないでしょうか。
ごく普通の国民の意識とは少し離れた場所で、野党を引っ張る立憲民主党の迷走はまだまだ続きそうな気配です。
大きなお世話かもしれませんが、もしも野党が本気で再度の政権交代を目指すのであれば、(霞が関に匹敵するような)しっかりしたシンクタンクのもと、(思い付きのようなものではなく)もっとリアリティのある政策提言を積み上げていくべきではないかと、衆議院議員選挙を前に改めて感じているところです。
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