MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2679 定年後も働くことで得られるもの

2024年12月03日 | 社会・経済

 定年を60歳から65歳に引き上げる企業が増加する中、私の周囲を眺める限りでは、65歳を過ぎてもサラリーマン生活に終止符を打たない(つまり、何らかの形で仕事を続けている)人がほとんどです。

 「家でブラブラしていてもしょうがない」「働けるうちは働きたい」…と彼らはそろって口にしますが、その裏には、老後の生活に対する不安があるのも事実でしょう。

 以前に比べ、リタイアの年齢が引き上がっているこの日本。そう言えば今から40年ほど前、55歳で定年を迎えた私の父親は、関連企業の役員を60歳まで務めたのち、70歳で亡くなるまで(仕事からはすっかり足を洗って)悠々自適で毎日釣りをして過ごしていました。

 しかし昨今では、70歳を過ぎても(元気なうちは)アルバイトなどで働きに出ている人も決して少なくはありません。内閣府が今年3月に発表した「生活設計と年金に関する世論調査」では、何歳まで仕事をしたいかという質問に対し、「61歳以上」という答えが71.1%に達し、「71~75歳まで働きたい」という人も11.4%いたとされています。

 まあ、「いつまでも現役でいたい」という気持ちはわからないではありませんが、だからといって私自身、「人に使われる」「働かされる」環境に、いつまでも身を置きたいとは思いません。日本人の平均寿命は2022年で男性81歳、女性で87歳。しかも、健康で自立した生活を送れる「健康寿命」は(平均寿命に比べて)男女で9~12歳も短いことを考えれば、残された時間を指折り数えてみる必要もあるかもしれません。

 定年後の人生をどう生きるか?先行き不透明な時代にシニアが直面するこうした課題に対し、セカンドキャリアコンサルタントの髙橋伸典氏が8月19日の金融情報サイト「Finansee」に『実は老後の1番の悩みは“年金額”ではなかった…! 定年を迎えた世代が痛感している「シニアの本当の課題」とは』と題する一文を寄せていたので、参考までに小欄に一部を残しておきたいと思います。

 定年前の40代、50代に感じる老後不安。多くの場合、漠然としたお金の心配事としての形をとるが、しかし実際に定年を迎えた人たちの話を聞くと、少し様子が変わってくる。「お金が足りないから生活のために働かなくてはいけない」と思っている人は、意外と少ないと高橋氏はその冒頭に記しています。

 その理由は定年後の収支を考えれば理解できる。まず、現役時代に支出の大きな部分を占めていた教育費、住宅ローンなどの負担がほとんどなくなって来ると氏はしています。収入面では、年金が一定の収入源として安心材料となる一方で、65歳までの雇用延長制度が整うことで(現役時代と比べて収入が激減したとしても)生活費はカバーできるようになった。そこに、多少の退職金と貯蓄を加えれば、不安解消の後押しにもなるということです。

 年金は「その額が少ない」云々とよく言われるが、現役一線から退いた立場から見ると、定期収入のベースとして安心感を与えてくれる存在になると氏は話しています。一方、「仕事はお金を稼ぐため」と考えると、確かに定年後は現役時代ほど稼げない。ファイナンシャル的にはネガティブになってしまいがちだが、実は、定年後の本当の不安はもっと別のところに潜んでいると高橋氏は感じているようです。

 氏によれば、(定年後の)大きな不安要素は「孤独」とのこと。老後資金に余裕があったとして、「年金で生活をして、足りない分は貯蓄を切り崩していけばいい」と働かないでいると、人との交流が少なくなり(多くの人が)1人取り残された感覚に陥って行くと氏は言います。

 人は現役時代に生活のために働きストレスを感じてきた経験から、定年後は「生活のために働かなくてもいい」と思いがち。しかし働かないことで孤独という新たな問題が浮き彫りになってくるということです。

 そして、もう1つの課題は、「健康」に関する不安だと氏は言います。60歳を超えると、身近な人が病気になったり、亡くなったり場面も増える。親の介護などがあったりすると、介護への出費や、いずれ自分もそうなるのではという不安も出てくるとのこと。自分自身でも、今まだできていたことが簡単にはできなくなったりして、健康にもだんだん自信がなくなって来る…。

 そこで定年後は「生活のために働く」のでなく、「自分のために働く」という考えにシフトし、積極的に働く気持ちを持つことが大切になって来るというのが氏の見解です。

 近年、「ウェルビーング」という言葉がよく使われるが、これは簡単に言うと「幸せな状態」を意味するもの。幸せな状態になるためには(ある程度の)お金がどうしても必要なので、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という考え方も生まれていると氏は説明しています。

 それは、お金を単に稼ぐものとして捉えるのでなく、自分が幸せになる手段として考るというもの。お金を得るためには働く必要があるが、働くのは「お金のため」だけでなく、「自分の生活を改善するためのもの」として捉え直すということです。

 (前述のとおり)シニアの本当の課題(そして不安)はお金が足りないことよりも、人との交流がなくなり孤独になること、健康を維持できなくなることにある。しかし、それらには働くことで解消できる部分もあると氏は指摘しています。

 仕事をすれば、(その内容に関わらず)職場での交流や人間関係が発生するもの。人間関係で多少のストレスは生じても、責任ある立場ではないのでそんなに深刻に考える必要はない。好きな分野で無理せず仕事をして、もしもそこで強みを活かせられれば、人からも喜ばれ感謝される(だろう)と氏は言います。

 決してフルタイムである必要はない。週数回、1日数時間だけでも、仕事にあわせて規則正しい生活を送り通勤時に体を動かせば、それが定期的な運動になって健康にもつながるということです。

 定年後も働くことは、シニアならではの課題である「心の安定」「健康」、そして「お金の不安」を解決することに役立つもの。働いてお金を得ることがシニアの課題解決に役立っているのなら、それは「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を高めることになるだろうと話す高橋氏の指摘を、私も(身近な話題として)興味深く読んだところです。



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