MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2332 (誰も言わない)高齢社会のリスク

2023年01月05日 | 社会・経済

 最新の発表によれば、2022年9月現在の日本の高齢者(65歳以上)人口は3,627万人で高齢者人口率は29.1%。この狭い国土に暮らす国民の概ね3人に1人が既に高齢者と呼ばれる年代に突入しています。

 第二次世界大戦の終焉から5年後の1950年時点、日本の65歳以上の人口割合は総人口の5%にも満たない数値でした。しかし、44年後の1994年には約3倍の14%を超え、さらに、23年後の2017年(平成29年)に27.7%に達しています。少子化の波の中で日本の高齢化はさらにスピードアップし、このまま順当に進むと、43年後の2065年(令和47年)には、高齢化率は38.4%に達する見込みと推計されています。

 国民の長寿化自体が悪いことではありませんが、やはり気になるのは加齢に伴う心身のパフォーマンスの低下です。中でも(いわゆる)認知機能の低下について、身に覚えあるシニアも多いことでしょう。

 「シルバー民主主義の弊害」などが指摘される昨今の日本。政治家や会社の経営者など政治経済の世界を中心に、日本の社会が70代、80代の高齢者の手に委ねられているという実情もあります。今後さらに日本の高齢化が進むとすれば、彼ら老人たち(←それはすなわち自分自身にも当てはまりますが)に、我らが「日本丸」の船の舵取りを任せておいて本当に大丈夫なのか。

 そんなことを考えていた折、12月6日の経済情報サイト「PRESIDENT ONLINE」に掲載されていた、作家で精神科医の和田秀樹氏による『精神科医が「本当にバカだ」と思う人の特徴』と題する論考を見かけたので、参考までにその一部を紹介しておきたいと思います、

 「人の名前が思い出せない」「前から買いたいものがあったのに思い出せない」などというのはよくあること。中年期の皆さんが「脳の老化」で一番気にすることと言えば、記憶力の低下だろうと氏はこの論考に記しています。

 そんなとき、「認知症の前触れか?」と焦る人もいるだろう。しかし、これは老化とはほとんど無関係で、心配すべきポイントではないというのが(専門家としての)氏の見解です。

 このタイプの物忘れは「想起障害」と言って、脳に書き込まれたデータが多すぎるためにスムーズに引き出せなくなっている状況によるもの。50代ともなれば人生経験も積み上がり脳に書き込まれる情報の量も膨大となる。それ自体は起こって当然の現象だと氏は言います。

 想起障害の場合は、個別に引き出しにくくなっているだけで、(大抵の場合)記憶そのものはきちんと残っている。人間の脳の記憶容量は膨大なので、たとえば、20年ぶりに訪れた町でも、「そうそう、前もこの店に入ったっけ…」と思い出したりするということです。

 一方、心配すべき記憶障害もある。それは「記銘力障害」だと氏はしています。これは(簡単に言ってしまえば)新しいことが覚えられなくなる症状のこと。原因は神経伝達物質「アセチルコリン」の減少や海馬の機能低下にあり、認知症の患者が30分前にした話を最初から繰り返したり、食事を摂ったのに「食べていない」と言い張ったりするのはそのためだということです。

 何らかの原因で、脳に新しく情報を書き込む力が落ちていく。この症状が中年期から起こる人はごく少数だが、前例踏襲傾向の強い人は特に警戒が必要だというのが氏の認識です。

 前例踏襲もまた、新たな情報を脳に書き込めない兆候と言える。IT化に対応できなかったり、過去の成功体験にしがみついていたりしている人は気を付ける必要がある。「変えたくない、今のままでいい」と考えがちなのは、前頭葉の老化が進んでいるからかもしれないということです。

 世の中には、(おそらく)「頭のいい人」と「バカな人」がいるのだろう。しかし、どんなに頭のいい人でも、いつまでも頭がいいわけではない。加齢に伴う認知機能によって人はバカになってしまうときがあると、氏はこの論考で指摘しています。

 例えば、若い頃に頭のよかった人たちでも、高い地位に上り詰めた後は努力をしなくなる。肩書を得ることが目的化し、肝心の仕事内容に対する関心が薄れるということです。

 結果、時代の変化についていこうとせず、「自分は賢い」と思い込み、従前のやり方に固執するといった行動は、「知的怠惰」と呼ばれると氏は話しています。この怠惰に流されると、周囲の言葉に耳を傾けなくなり、部下からいいアイデアが出ても、その可能性を見過ごしたり、握りつぶしたりするようになる。そして、(若い頃に頭の良かった)「偉い人」ほど、こうした「バカ化」のリスクが高くなるのが現実だということです。

 そして実は、頭のいい人の(認知機能が衰え)バカになる現象には、もう1種類あると氏はこの論考で指摘しています。それは、感情のコントロールが効かなくなること。

 元エリート官僚だった国会議員の方が、カッとなって秘書を罵倒した音声が公表され、大騒ぎになった一件があったのは記憶に新しいところ。恋に狂ってスキャンダル写真を撮られたり、業績アップの圧力に耐えかねて粉飾決算をしたりするのも、このタイプの「バカ化」に飲み込まれた結果ではないかと氏は話しています。

 そして、氏はこの論考の最後に、こうした2種類の「バカ化」は、実際、誰にでも起こる現象だと忠告しています。「バカになる」現象は、人間ならば全員に起こり得るもの。しかし、その「自覚」を持って気をつければ人はいつまでも賢いままでいられるということです。

 だから、(いくら「現役」であっても)偉そうに振舞う年寄りには十分に注意して向き合う必要がある。「自分は失敗しうる」「自分は間違っているかもしれない」という当たり前の感覚を忘れている人は、認知機能が低下している可能性が高いと考える和田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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