MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2331 「ゼロゼロ融資」の後始末

2023年01月04日 | 社会・経済

 企業活動で儲けた金額よりも借入金の利払いの方が多く、政府などからの補助金や金融機関による返済猶予で食いつないでいる企業を「ゾンビ企業」と呼ぶようです。実質的には破綻状態ともいえるこうした企業群が(2021年度時点で)国内には約18万8000社あり、新型コロナウイルス禍前の2019年度とくらべ約3割増えていると12月27日の日本経済新聞が報じています。

 因みに、従業員規模別のゾンビ化率は、1000人以上の企業では1.9%であるのに対し5人以下の企業では既に18.4%に達しているとのこと。記事によれば、これらの企業の約8割が(コロナ禍に対応した実質無利子・無担保の)「ゼロゼロ融資」による債務を抱えており、今後日銀が大規模緩和を修正すれば利払い負担による大倒産時代を迎える可能性が高いということです。

 こうした状況に対し、12月26日の総合経済サイト「現代ビジネス」では、経済アナリストの中原圭介氏が、『ついに「黒田バズーカ」炸裂!日銀「大転換」でゾンビ企業とマンション住民を襲う「借金地獄」の厳しすぎる現実』と題する論考を掲載し、ゼロゼロ融資がもたらす悲惨な末路を予言しています。

 2022年12月20日、日銀が「黒田バズーカ」とよばれた大規模な金融緩和を修正するという一歩をいよいよ踏み出した。10年ぶりの長期金利の上昇が予想されるが、そこでまず懸念されるのは、企業の資金繰りのさらなる悪化だと中原氏はこの論考に記しています。

 円安による物価高を契機に増えていたのが「ゼロゼロ融資」を受けている企業の倒産だが、日銀の利上げによってその増加傾向にいっそう拍車がかかるというのが氏の予測するところです。

 2020年の3月に始まった「ゼロゼロ融資」は、元金の返済を最長で5年まで猶予したうえで、各都道府県が最初の3年分の利子を補給することで利払いを実質的に免除するもの。将来返済が困難になれば公的機関の信用保証協会が肩代わりするという、(いわば)至れり尽くせりの融資だと氏はしています。

 その結果として、民間および政府系の金融機関は国内の企業に対して、22年9月末までに実に43兆円もの融資を行った。そして、その新規融資が2022年末で終了したあと、2023年から返済を開始しなければならない企業が激増するという事態が待ち構えているということです。

 ゼロゼロ融資による倒産・廃業のリスクが高まっているのは、金融機関のモラルハザードによるところが大きい。実際、ゼロゼロ融資を貸し手がノーリスクで融資できる制度にしたことで、規模の小さい金融機関では不正な融資が横行していたと氏は指摘しています。

 例えば、ゼロゼロ融資を受けられるようにするために企業の業績を改ざんするという手口など。さらに、(罰せられるほどの不正ではなくても)必要のない資金の貸し付けを行っていた金融機関があることも明るみになっているということです。

 たしかに、ゼロゼロ融資によって(コロナ禍による)倒産・廃業の増加を一時的に食い止めることができたかもしれない。ところがその帰結として、返済できない規模の負債を抱えるゾンビ企業を大量に生み出したという副作用は認めざるをえないと氏は言います。

 そうした中、返済が始まるタイミングと日銀の利上げが重なるインパクトは非常に大きく、2023年には倒産・廃業の増加傾向が強まっていくのではないかというのが氏の危惧するところです。

 確かに、日銀の金融引き締めにメリットはあると氏は言います。例えば、行き過ぎた円安が修正されることで輸入インフレの鎮静化が進む。また、国内の物価を押し下げることで、(大きな借金がない)家計にとっては負担の軽減につながるということです。

 しかし、日銀の金融政策の大転換が「膨張したゼロゼロ融資」や(例えば)「膨張した住宅ローン」がもたらす企業の倒産・廃業や住宅ローン破産を考えれば、(それでも)この政策転換にはデメリットのほうが大きいというのがこの論考における氏の見解です。

 影響が及ぶのは企業経営や家計ばかりではない。さらに危惧されるのは、国債利払いの深刻な負担増加だと氏は話しています。目下のところ、国債の残高はおよそ1000兆円。今回の変更のように、長期金利が0.25%から0.5%まで僅かに0.25%上昇しただけで、毎年2.5兆円の負担が増える計算になるということです。

 (日銀の決断は)残念ながら遅きに失した。長期的にみて、日本は既に金利上昇に耐えられない財政構造になってしまっていると氏はこの論考の最後に指摘しています。さらに、大きな問題は、今後の長期金利が0.5%で収まるわけがないということ。そういった意味では、「長期金利1.0%=利払い10兆円」といった時代がいつ来てもおかしくないというのが氏の懸念するところです。

 日銀の長すぎた超金融緩和の後始末は、今後長期にわたって続くだろうと氏は言います。「出口」はおそらくはるかに遠いところにある。日本は今後、厳しい道のりを辿ることになるだろうと考える中原氏の予想を、私も「さもありなん」と受け止めたところです。



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