
6月23日、国内における新型コロナウイルスワクチンの接種回数が、政府集計で目標の1日当たり100万回を超えたことが分かったと報じられました。
ワクチン接種を巡り菅義偉首相は5月の段階で、(1)主に市町村が担う自治体による接種、(2)国や都道府県などによる大規模接種センターにおける接種、(3)企業・大学などが主体的に行う職域接種―の3ルートで接種を進め、「6月中旬以降は1日100万回」のペースで、10月下旬から11月の希望者全員の完了を目指すとしています。
新型コロナウイルス対策の切り札と位置づけるワクチン接種の迅速化に向け、政府は自治体がそれぞれ進めている高齢者への接種に加え、自衛隊が中心となった東京・大阪などにおける大規模接種センターの運営や、6月21日からは企業などによる個別の職域接種など本格的に始めています。
ワクチン自体は政府が何とか調達するので、末端での接種は、自治体、民間を問わずそれぞれ進めてほしい。やりかたに(それほど細かくは)口を出さないので、現場合わせでとにかく早く結果を出してくれ…といったところでしょうか。
それにしても、(無謬性を信条としてきた)日本の霞が関をはじめとした行政機関が、このような(ある意味)「なりふり構わない」アバウトな姿勢で政策に臨むのは、今までなかったことのような気がします。
「一皮剥けた」というのでしょうか、それとも「開き直った」というのでしょうか。いずれにしても、何よりスピードが重視される行政課題に対し、「走りながら考える」「任せる」という態度で対応している政府の姿には、これまでとちょっと違った印象を受けているのは私だけではないでしょう。
一方、この自治体による大規模接種と職域接種をめぐっては、6月23日、河野規制改革担当大臣が「モデルナのワクチンの配送が追いついていないうえ、今後、供給できる量を上回るおそれがある」として、急遽、新規の申請の受け付けを一時休止する旨、発表しました。
「やってみたら足りなくなった」ということでしょうが、それで政府を責める気にはなりません。それはそれで仕方のないこと。試行錯誤を繰り返しながら進めるというのも、これまでになかったことだなと感じたところです。
こうして、気が付けば、ほぼ「自治体任せ」「民間任せ」の状態でワクチン接種に臨んでいる今回の政府のスタンスに関し、「週刊東洋経済」誌の6月26日発売号のコラム「少数意見」に、『ワクチン接種の「丸投げ」で得られたもの』と題する一文が掲載されていました。
新型コロナウイルス感染症に国民の多くが疲れ切り、不満を募らせている状況で始められた政府のワクチン接種。多くの失敗をあげつらうことは簡単だが、他の国からの大きな後れを挽回しようと形振り構っていられない政府の姿勢には、いくつかのプラスの効果があったと筆者はこのコラムに綴っています。
第1に、自治体ごとの力量差が可視化されたということ。短期間に総人口の約3割にワクチンを2回打つという前代未聞のオペレーションは、主に地域の自治体が担った。河野太郎ワクチン接種推進担当相がよい意味で現場に「丸投げ」したことで、中央省庁の指示待ちではなく、地域の実情を考えて政策を実行する自治体が浮かび上がったと筆者は指摘しています。
供給量が安定せず管理も難しいワクチンを、保健所と運搬業者、薬局が連携して供給する仕組みを作ったり、地域の医療機関と連携して接種作業の従事者を手配したり、周辺自治体が共同で巡回バスを走らせ高齢者のスムーズな接種につなげたりと、地域をよく知る自治体ならではの工夫でミッションの実現に努力しているということです。
第2に、(そのことの帰結として)地方にも優秀なリーダーがおり、自主的に動ける自治体が多いことを、特に都会の住民が知るきっかけになったと筆者は話しています。
情報通信技術の深化によって、住む場所の選択肢は増えていく。必ずしも都心にこだわることはなく、安心して住める場所を選ぶうえで、今回のワクチンは前項の判断基準を示したというのが筆者の認識です。
そして、今回のワクチン対応で得られたプラスの側面の3つ目は、公明正大でミスが許せない行政においても、完璧を求めて時間をかけるより、拙速でも実行することの重要性を多くの国民が学んだことだと、筆者はこのコラムに綴っています。
台湾の感染対策を指揮して時の人となったデジタル担当相のオードリー・タン氏は、「前例がないということを、やらない理由にしてはいけない」と話している。そして、失敗はまた大きな財産にもなると指摘しているということです。
さて(そこで)、失敗を財産にするためには、まず「失敗を認めること」から始めなければならないと、筆者はこのコラムの最後に記しています。
移動や飲食の自粛、療養体制の確保、PCR検査対応、ワクチン接種体制など、政府からはいまだ「失敗だった」との声は聴いていません。しかし、これから始まるオリンピックへの対応なども含め、コロナがひと段落ついた段階になったら、それぞれの対策についてきちんした検証を求めていく必要があるのではないかと、私も改めて感じたところです。
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