ゴールデンウィーク明け、関連事業者などの人事担当者に請われ、新入社員・職員の採用試験に面接官として伺う機会が何度かありました。
毎年のことながら、この時期に予定を割いて出向くのは、(イマドキの)大学生の皆さんの生の姿に接する貴重な機会を得られるから。就活生と面接官という(ある意味)一方的な関係ながら、様々な環境で育ってきたであろう彼ら・彼女らとのやりとりには、毎年実に感慨深いものがあります。
また、こうした機会を継続して持っていると、時代とともに変化している若者たちの印象にもしばしば驚かされます。実際、「やる気」や「人間味」を前面に出してくるような(いわゆる「濃い」)人が多かったバブル崩壊前後の一時期を経て、その後は随分と大人しい感じの学生が増えてきていたようにも感じていました。
しかし、この2~3年、私の印象は少しずつ変わってきています。最近では、自分の悲惨な過去を振り返ったり人生を熱く語ったりなど、炎上覚悟で自分をさらけ出す、ノーガードの「捨て身戦法」で面接に臨む若者の姿もちらほらと見かけるようになりました。
そして(特に)今年の面接で感じたのは、「最後に何か質問はありますか?」と、面接官としてマニュアル通りの問いかけを行った際に、「配属はどのように決まるのか」とか「休暇はどの位とれるのか」といった、人事や待遇に関する質問を返してくる学生が目に付くようになったということです。
もちろんこの手の質問に対しては、以前から「社員から見て、御社の一番いいところは?」とか「仕事で一番やりがいを感じるのはどんなところか?」とかいった(面接官がさも喜びそうな)質問をにっこり笑いながらしてくる手練れは見かけました、しかし、大抵の学生からは(「大丈夫です」「特にありません」などと)ほとんど審問が返ってくることはなかったような気がします。
しかし、今回の面接では、仕事の中身とかではなく、「新入社員はどう評価されるのか」「どのように面倒を見てくれるのか」といった趣旨の質問を(このタイミングで)聞いてくる学生が二人、三人と続いたことに、「え、そこかよ?」とかなりびっくりさせられたのも事実です。
そうした折、6月9日の総合情報サイト「東洋経済ONLINE」に寄せられていた、金沢大学の教授の金間大介氏の「就活生はなぜ「研修制度」について質問するのか」と題する論考を読んで、「なるほどな…」と(少し)腑に落ちるところがあったので、その内容を小欄に残しておきたいと思います。
春になり、会社説明会シーズンが終わると、多くの企業では入社希望者への面接が始まる。そして毎年この時期になると、採用担当や面接官になった同僚から「若者たちの本音がまったく見えない」「イライラする」と愚痴を聞くことも多くなると、金間氏はこの論考に綴っています。
(大学教員としての経験から言えば)最近では、「人前でほめられたくない、目立ちたくない、埋もれていたい」という、(一人の社会人として精神的に自立できていない)若者が激増している。特に最近の大学生は、会社のことを(学校の延長線上にあるような)「きっちりと固定化された仕組み」のように考える傾向が強いと氏は言います。
そして、そうした学生による企業説明会で最も多い質問の1つが「研修制度ネタ」であることは、既に有名な話だというのが、この論考で氏の指摘するところです。
「質問ですけど、御社ではどのような研修制度が用意されているのでしょうか?」…おいおい、また研修制度か。人事担当の皆さんは(この質問に)凹んで当然だと思うと氏は言います。
大体、仕事に必要な知識の習得や資格の勉強なんて必要なときに必要なだけやるに決まっている。人事などと言うものは、半分は会社の都合で、残り半分は自分次第。ルーチンの仕事をやっているだけで給料もらえるとでも本当に思ってるの?…といった採用担当者の皆さんの心の声が、ここまで聞こえてくるようだということです。
ただ、こうして研修制度について質問する学生側にも言い分はあると氏はしています。彼らからよく聞く会社に対する不満は、「何をすればいいかが曖昧でよくわからない」「いつまでにどの知識やスキルを身に付けておけばいいのか一向に教えてくれない」というもの。
どうも多くの若者の間では、高校や大学の入試、あるいは資格取得のように、仕事には(次は何をすればよいといった)何らかのガイドラインやマニュアルがあると考える傾向にあるようだということです。
さらに、「仕事ができるようになる」ということは、マニュアル的知識やスキルを身に付けていくことだと考える若者も少なくないというのが氏の認識です。そのため、マニュアルがない会社、研修がない会社、先輩が何も教えてくれない会社では不安がいっぱい。「わからなかったらいつでも相談して」と言う(学生からするとよくわからない)理不尽な上司がいる会社は、総じてよくない会社となるということです。
さて、こうした若者との意思疎通不全が、笑い話で済まなくなるケースもたまにある。最も深刻で、かつ多発中なのは、若者がどうしたらいいかわからないまま仕事を抱え、取り返しがつかない状態になるまで放置してしまうケースで、ここ数年本当に多く耳にするようになったと氏は話しています。
すぐに上司か先輩に相談すればなんてことはないのに、たったそれだけのことをためらい、抱え込んでしまう。そして、その最大の理由は、「そんなこともわからないのかと思われたらどうしよう」だということです。
相談もせずに放置するなんて、その先仕事がどうなるか想像もできないのかと言いたくなるが、彼らにとっては、「そんなこともわからないのか」と思われることのほうが重大な問題に映るというのが氏の指摘するところです。
こうした実態からわかるように、今の若者たちの行動原理や心理は「いい子症候群」というフレーズで象徴できるものだと、氏はこの論考に記しています。
その特徴の一つは、「均等であること」をものすごく重視する点。これは裏を返せば、差をつける行為、たとえば競争をとても嫌うことだと氏は言います。
採用する側の企業とすれば、若者たちの本音がまったく見えず、戸惑うことも多いかもしれない。ただ、就職活動は大学生にとって最大の競争イベントで、苦手な行為に対し“何が正解か”を模索する日々が(彼らの中では)続いているということです。
結果として、面接官や上司、先輩であるあなたが「正解なんてないんだよ。本当のあなたが知りたいだけだから」と願い、行動すればするほど、ますます「演技する」という“過去問で習った正解”を繰り出す「いい子症候群」の若者たちの姿が(違和感とともに)浮かび上がってくると氏は言います。
そこでお願いなのだが、採用担当者の皆さんには、それが彼らがこれまで培ってきた生存本能のなせる業だということを、まずは「理解してあげてほしい」というのが、大学教員としての氏の願うところです。
成長、自立には、社会における一定の経験求められる。それを経験できなかったの、彼らのせいばかりではない。
幼い彼らが自ら目標を定め、そこへの道のりを自分事として(自分自身で)考えられるようになれるまで、可能であれば温かい目で見守ってもらえはしないかと訴える氏の指摘を、私も(「確かにそうしたものかもしれないなぁ」と)興味深く読んだところです。
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