goo blog サービス終了のお知らせ 

MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2138 豊かさなき2000兆円

2022年04月22日 | 社会・経済

 日本国内の家計金融資産が総額で2000千兆円に達したというニュースが、世間を驚かせています。話の出所は、日本銀行が3月17日に発表した資金循環統計の速報値によるもの。昨年12月末時点の家計の金融資産が前年同期比4.5%増の2023兆円となり、初めて2000兆円を突破したということです。

 家計が有する金融資産は2020年9月末以降、6四半期連続で過去最高を更新してきました。そこには、株式市場の世界的な拡大やコロナ禍で積み重なった家計の貯蓄、政府による給付金などが背景にはあるとされています。

 あまりに大金でピンときませんが、2000兆円と言えば、1億人の日本国民に均せば、一人一人がおよそ2000万円に相当する貯金や証券、株式などを持っているという計算です。その中には、土地や家屋と言った不動産や金、宝飾品などは含まれないので、すぐに現金に変えられる(換金性の高い)資産がそれだけ家計に保有されているということになります。

 このニュースを報じた18日朝のNHKニュースのタイトルは、「2000兆円、そんな大金どこにあるの?」というものでした。アナウンサーも苦笑いで答えたとおり、たぶん「あるところには、ある」というものなのでしょう。

 因みに、金融広報中央委員会事務局(日本銀行情報サービス局)が行った「家計の金融行動に関する世論調査2021年」によれば、金融資産を2000万円以上保有する世帯(構成員二人以上)は全体の約2割(21.2%)とされる一方で、半数近く(45.2%)の世帯が500万円以下、約2割(20.6%)が100万円以下と答えています。

 つまり、家計の金融資産が総額で2000兆円まで膨らんだと言っても、決して社会全体が豊かになったわけではありません。金融資産がごく一部のクラスに集中し、格差の拡大が一層進んだ結果であることが、こうしたデータからは見て取れます。

 さて、こうして積みあがっている「豊かさなき2000兆円」を、私たちはどうすれば次の成長に活用することができるのか。3月18日の日本経済新聞に「成長なき預貯金滞留 家計金融資産、初の2000兆円台」と題する記事が掲載されていたので、参考までに概要を残しておきたいと思います。

 家計の金融資産が初めて2000兆円の大台を突破し、過去最高を更新した。円安・株高で投資信託などの保有額が膨らんだが、半面、新型コロナウイルス禍で個人消費の回復は鈍く、現預金は過去30年で2倍に増えたと記事は現状を解説しています。

 滞留する個人マネーは、成長なき日本経済の実情を映し出しているというのが記事の認識です。金融資産全体で見れば1000兆円を超えたのは(バブル経済崩壊の直前となる)1992年のことなので、そこから30年かけて2倍になった計算となる。今回の新型コロナ禍も、結果的に金融資産を増やす要因となっており、家計と企業の金融資産は2020年3月末と比べて、それぞれ200兆円ほども増えているということです。

 中でも、公表された家計金融資産2023兆円のうち、最も多かったのは現預金で1092兆円と全体の半分以上(54%を)占めている。賃金が横ばいで推移する一方、若年層を中心に社会保障などの将来不安が根強いことが個人マネーを預貯金に眠らせているというのが記事の指摘するところです。

 米欧と比べると、家計の金融資産に占める現預金比率は日本が突出しており、米国は1割、ユーロ圏が3割といずれも日本の5割を大きく下回ると記事はしています。金融資産のうち投信は20.4%増の94兆円と過去最高を更新したものの、主因は株式相場の上昇にある。株式も15.5%増と大幅に伸びたが、金融資産全体に占める比率は1割程度にとどまっているということです。

 状況を総合的に見れば、こうした(数字上の)金融資産の膨張が日本の豊かさを反映しているとは言い切れないというのが記事の見解です。

 日本経済はバブル崩壊後、低成長が続いてきた。国内総生産(GDP)は540兆円ほどで伸び悩み、足元はコロナ禍前の水準をなお下回ったままなのは広く知られているところです。1990年代後半からは潜在成長率が米欧を下回る状況が定着し、家計の金融資産が成長マネーにまわらない。ここ30年余りの日本経済は、低成長で現預金の滞留を迫られる悪循環に陥いいているということです。

 家計の金融資産が市中にため込まれるのは、家計がお金を使わないから。それではなぜ、現代の日本人は節約志向がかように強いのか。

 その一因は、(まず第一に)上がらない賃金にあると記事は見ています。OECDによると、過去30年間で米国の名目平均年収は2.6倍、ドイツやフランスも2倍程度に増えている一方で、日本はわずか4%の上昇にとどまっている。少子高齢化で若年層を中心に社会保障への不安も根強く、家計の節約志向は解けないままだということです。

 しかし、家計がマネーを投資に回さなくても(預貯金を預かる)金融機関が投融資にまわせば、日本経済は活性化するはず。ところが、金融機関の預金がどれだけ貸し出しにまわっているかを示す預貸率は2021年3月末に58.1%まで低下。金融機関はひたすら国債に資金を振り向けているのが現状だと記事は指摘しています。

 社会保障への支出が増え続ける政府も、公共事業や成長事業に資金を向ける余力が次第になくなりつつある。結果、日本経済全体でみれば、(民間資金・公的資金ともに)マネーが成長投資に十分に回っていない構図が浮かびあがるということです。

 さらに言えば、(30年前の)バブル崩壊や(15年間の)リーマン危機で損失を出したトラウマ世代に金融資産が偏っていることも、マネー循環を妨げる大きな要因になっているのではないかと記事は話しています。彼らが働き盛りの頃に受けた「心の傷」が、未だに尾を引き投資へのハードルになっているのではないかというのが記事の懸念するところです。

 こうした(トラウマを抱えた)人々が成長分野に資金を回すには、税制などを通じてトラウマの無い新たな世代に資金を移しやすくするなどの制度整備が必要になる。実際、毎月1万円を日経平均株価に投資し続けた場合の長期運用利回りは、1980年代開始だと2%程度であるのに対し、2013年以降であれば5~22%にまで膨らんでいると記事はしています。

 さて、そう考えれば、期待すべきは個人の資産を(例えば1億円以上など)それなりに自由にできる、市井の「持てる」人たちなのかもしれません。老後に向けた資金として独り暮らしのおばあちゃんなどが定期預金にしている(おじいちゃんなどから譲り受けた)遺産などを、この先どう有効活用できるのかが課題になるかもしれません。

 日本の社会のどこかにある(そして「あるところにはある」)はずの2000兆円。「豊かさなき2000兆円」は日本経済の停滞を映し出す一方で、コロナ禍における財政・金融政策の検証も求めていると結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿