MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2139 政府による市場介入は正しい選択か

2022年04月23日 | 社会・経済

 3月21日、自民・公明の与党両党が、原油価格の高騰に由来するガソリン価格の激変緩和のための経済対策を延長することで合意したと、大手新聞各紙が報じています。

 追加対策に要する費用はおよそ1.3兆円。5月分は当初予算で確保した予備費から3千億円を繰り入れ、残り(6~9月分)の1兆円は今国会中に編成予定の補正予算に計上するということです。因みに、この1.3兆円という金額は経済産業省の2022年度の一般会計予算約9千億円を4割以上上回る規模であり、消費者や企業などを幅ひろく対象とした対策には参院選を前にした「バラマキ色」が強いと評する向きもあるようです。

 また、政府は対策の延長に合わせてガソリン元売り業者への補助額も増やす見通しとされています。同21日には、現在1リットル当たり最大25年の補助金を35円に引き上げる案を与党に示しており、ガソリンの市場価格の目標を現在の全国平均172円程度から168円程度に引き下げるとしています。

 ロシアによるウクライナ侵攻や急激な円安などにより原油価格が高止まりする状況を考えれば、こうした政府支出が企業や消費者の負担増を抑え、景気悪化の抑制に一定の効果を期待してのものであることは分かります。しかし、ウクライナでの戦闘が長引き、世界各国でインフレ基調が続く中、原油価格抑制策も出口が見える気配はありません。日本経済を脅かす現在の物価上昇圧力や円安が構造的なものであるとしたら、中長期にわたって市場に介入し続けることが、日本経済の構造転換を遅らせたり、市場の正常な価格形成メカニズムを壊すことに繋がる可能性もないとは言えません。

 そんなことを考えていた折、4月22日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に「物価高、政府介入の違和感」と題する一文が掲載されていたので、その概要を紹介しておきたいと思います。

 原油などエネルギー価格の上昇に円安が重なり、輸入価格とともに長く低迷していた国内物価も上がりつつある。これに対して政府はガソリン元売り業者への補助金に加え参院選前の「総合緊急対策」の準備も進めているが、こうした政府の物価対策には(かなりの)違和感を覚えると筆者はこのコラムに記しています。

 第1に、その「持続可能性」には疑問がありはしないかということです。日本がエネルギー資源の多くを輸入に頼っている以上、輸入価格の上昇が企業収益の悪化や消費者の実質所得の減少をもたらす。それを避けるため、補助金や減税によってエネルギー価格の上昇を抑え込んだり、家計の所得減少を補填するための給付金を配ったりしてほしいというのは理解できると筆者はしています。

 しかし、今回の輸入価格の上昇は一時的なものではなく、かなりの期間にわたって続きそうに見える。財政措置で対応し続けようとしても、日本の財政状況を鑑みると、明らかに持続性を欠いているというのが筆者の認識です。

 第2に、長期的に見ると(同時に)日本経済にマイナスになりそうな政策も進められていること。特に、輸入価格上昇に伴うコストアップそのものを打ち消そうとすれば、価格メカニズムが機能しなくなることが懸念されると筆者は言います。

 資源価格の上昇は、その資源がより希少となったことを示すシグナルである。企業や家計はそのシグナルに従って、時代の要請に沿った効率的な経済構造を実現していくことが求められているというのが筆者の見解です。にもかかわらず、例えば補助金で価格の上昇を抑制していては、資源の消費を政策的に促進(誘導)していることになり、民間部門における資源利用効率化の動きを遅らせることになる。そしてこれは、脱炭素という長期的な流れにも反するものだということです。

 そして第3に、こうした政策は、金融政策との整合性を欠いているというのが筆者の指摘するところです。政府が物価対策を考えている時に、日本銀行は依然としてデフレ脱却を目指して強力な金融緩和を続けている。政府が(公金を現ナマで投入してまで)物価を抑えようとしている傍らで日本銀行は物価を上げようとしているわけだから、効果が上がるわけがないということです。

 この政策的不調和は内外金利差を拡大し、円安を進めることによって、輸入物価の上昇をさらに大きくしているとこのコラムで筆者は話しています。日銀の金融緩和政策の維持は外国為替市場における円の独歩安を生み、エネルギー価格の高騰を下支えしている。下から団扇で扇ぎ続けている限り、少しくらい水をかけてもなかなか火は消えてくれないということでしょう。

 本来の経済活動を反映している市場に(無理に)政府資金を投入して価格を操作しようとしても、そうそう上手くいくはずはないということ。そう、デフレの時代は既に終焉を迎えている。日本は価格メカニズムを生かしながら、資源価格の上昇にどう対応すべきかを考える時になったのだとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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