MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1950 医療崩壊の責任

2021年08月30日 | 社会・経済


 新型コロナウイルスへの新規感染者数が高止まりする中、東京都医師会の尾崎治夫会長は「今後、重症患者が増えなくても感染急増で東京の医療は崩壊する」と警告していると、週刊「AERA」誌の 2021年8月9日号が伝えています。
 確かに、4度目の緊急事態宣言が出されているにも関わらず、東京都内の新規感染者数は過去最多を更新し続け、治療病床の不足による医療崩壊を招こうとしています。

 尾崎氏は同誌のインタビューに応え、その理由を「ウイルスがより感染力の強い変異株に置き換わりつつあるのに、人の流れが十分に減っていないからだ」と話しています。都内では少なくともウイルスの半数がデルタ株に置き換わった一方で、人流は緊急事態宣言前に比べ2割程度しか減っていない。そして、人流が十分に減っていない原因は、「オリンピック開催」と「政治家の発言」にあるというのが尾崎氏の見解です。

 例え無観客になったとしても、都民はテレビでオリンピックを見て「オリンピックが開けるなら出歩いてもいいだろう」という心境になっている。医療崩壊ともいえる現在の東京の状況は、「まさに人災ともいうべきものだ」というのがこのインタビューにおける尾崎氏の見解です。

 都内の医師や医療機関を代表する都医師会長の発言ですから、「そうだ、やはりオリンピックは中止すべきだったんだ」と受け止める向きも多いでしょう。しかし、尾崎会長が言う「医療崩壊」の責任は、本当にそうした政治判断だけにあるでしょうか。
 8月27日の東洋経済ONLINEは、同誌解説部コラムニストの大崎明子氏による「新型コロナ医療崩壊の原因は開業医の不作為だ」と題する、(尾崎氏にはかなり手厳しい)論考記事を掲載しています。

 新型コロナウイルス・デルタ株の流行で連日のように医療現場の窮状が伝えられている。医療提供体制の問題が指摘されながら拡大がなかなか進まないため、 東京都は改正感染症法16条の2に基づき民間病院への協力を要請したが、実際、効果はあるのだろうかと大崎氏は疑問を投げかけています。

 何しろ、街中の診療所やクリニックの多くは1年半以上も「熱のある方は保健所へ連絡を」と張り紙したまま、頬かむりして新型コロナの診療に協力していない。彼らの頑なな態度には、勧告や名前の公表ぐらい(の脅し)では効かないのではないかというのが氏の懸念するところです。

 (細かなデータは割愛するとして)新型コロナの被害状況、人口比で見た感染者数、重症者数、死者数がかねて欧米よりも大幅に少ないのは既に広く知られている。一方、日本の人口当たり病床数はOECD(経済協力開発機構)諸国中で最多、医師数はやや少ないがアメリカとほぼ同程度で、病床総数は一般病床だけで130万床、医師数は32万人に及ぶと、大崎氏はここで説明しています。

 ところが、足元の入院加療を要する患者が21万人、重症者は2000人にも満たない状況で「医療崩壊」が言われるのは、新型コロナに対応できる病床数があまりにも少なく、診療に携わる医師も極端に少ないから。8月18日時点の報告で、新型コロナ向けにすぐに対応できる病床数として確保されているのは3万6314床、重症者用では5176床にすぎず、一般病床全体の3%にも満たない状況だということです。

 なぜそうなるのか。日本のコロナ医療の問題点は、有床病院の81%を占める民間病院がコロナ患者の受け入れに消極的な事、また病床を持たない診療所が新型コロナ診療に(ほぼ)携わっていないことだと氏は言います。一方、EU諸国では(行政の指示が行き届きやすい)公的病院が66%と過半を占めている。そうした条件の下、さらに欧米先進国では昨年から、新型コロナ患者の多くは自宅で療養し、外来診療・往診で治療を受け、悪化・重症化の兆しが出たら入院する形を採っているということです。

 日本で自宅療養が問題となっているのは、患者が診療を受ないまま放置され、悪化したときには手遅れという状態になるからだと氏は指摘しています。この感染症は多くが軽症で治るのだから、片っ端から入院させたり療養施設に入れたりする必要はない。(地域のかかりつけ医の管理のもと)外来診療や往診で対応できれば、状態に応じた措置が施せるということです。

 では、なぜそれができないかと言えば、地域の小規模病院や診療所がコロナ患者に門戸を閉ざしているから。地元の医療機関でまずは診察を受け、当面必要な処置が行われれば患者も家族も安心できるし、症状が悪化した際の対応もスムーズに進むはずです。
 熱が出たら、まずは近所の医師に診てもらうというただそれだけの事。コロナの市中感染が広がってからすでに1年半、医療への支援も進んでいるはずなのに、そうした普通の体制が整っていないのは(たしかに)不思議と言えば不思議です。

 もちろん、そうした体制を作るには、地域の開業医の集まりである医師会のリーダーシップが欠かせません。
 どうか開業医の皆さん、特に地域医師会の役員の皆さんには、コロナによる「医療崩壊」を政治家やオリンピックのせいばかりにせず、地域医療の中で自分たちに何ができるかを考え、また先頭に立って旗を振ってほしいと改めて感じるところです。



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