厚生労働省が発表した簡易生命表によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳と共に80歳を超えています。
数字だけを見ると、さすが「人生100年時代」を迎えた長寿国日本といったところですが、男女それぞれの配偶関係別死亡年齢(15歳以上)の中央値を追えば、未婚男性は67.2歳、一方の未婚女性では81.6歳と(未婚者は既婚者よりも)平均寿命を男性で実に14年、女性でも6年ほど下回っていることが判ります。
つまり、現在の日本でも独身男性に限れば、約半数が67歳までに亡くなっているということ。もっともこの数字には、結婚前に若くして亡くなった人たちが(相当数)含まれているため平均寿命を下回ること自体に不思議はないのですが、それにしても独り者の男は結婚している男よりも10年以上も「早死に」と聞けば、世の独身男性の胸中も穏やかではないでしょう。
少子化の原因として生涯未婚率の高まりが指摘されるこの日本で、さらなる未婚化の進展は、男たちの短命化に繋がるのか。9月27日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」にコラムニスト荒川和久氏が『日本の福祉システムは「生涯独身」を想定していない…これから激増する「身寄りのない男たち」という大問題』というタイトルの(少し長い名前の)一文を寄せていたので、この機会に少し紹介しておきたいと思います。
全体的な傾向として、男性は有配偶状態が長く続けば続くほど長生きの傾向がある。実は、離別男性(結婚生活に×がついた男性)も74.6歳と平均寿命が短く、これこそが「男は一人では生きていけない」とされる所以だと、荒川氏はこの論考に綴っています。
一方、反対に未婚女性の平均寿命は84.6歳と、むしろ一人でいるほうが長生きするとされている。こうした配偶関係別の寿命の違いの多くは「食生活」などの生活習慣によるものと考えられるが、(もうひとつ)男性より女性の方が孤独耐性が強いことも影響があるだろうというのが氏の見解です。
特に、男性の場合、会社や家族という所属が失われると途方に暮れてしまう人が多い。これは、男性がより社会の中で「どこかに所属している」という帰属意識に依存してしまう傾向があるから。
また、男性には離婚率と自殺率が強い正の相関がある。大正時代の有名な流行歌フレーズに「命短し 恋せよおとめ」(「ゴンドラの唄」1915年、吉井勇作詞、中山晋平作曲)とあるが、さしずめ現代は「命短し 恋せぬおとこ」というべきだと氏はこの論考で指摘しています。
さて、そうした中、現在の日本では、50歳以上の未婚人口はまさに「激増」の様相を呈している。50歳以上の未婚男性人口がわずか17万人程度だった1980年から40年を経て、2020年に同人口は約391万人へと23倍にも増大していると荒川氏はしています。女性のそれも、1980年の41万人から2020年251万人へと増えているが、その増え方はそれでも6倍増に過ぎない。この差からも、いかにこの40年間で50歳以上の未婚男性人口が急増したかがわかるということです。
同じ独身でも、(婚姻歴のない)生涯未婚であれば当然配偶者も子もいないし、親も鬼籍に入っていることが多い。さらに、昔ほど兄弟姉妹が多いわけではない環境の中では、高齢化すればまったく身寄りのない状態で死亡する可能性が高いと氏はここで指摘しています。
そもそも日本の福祉システムは、皆婚時代の流れを引きずり、家族がいる前提で作られている。このため、家族がいないという生涯未婚者に対してはそのサポート体制が(ほとんど)ないと氏は言います。かつて互助機能を果たしていた地域のコミュニティも消滅しつつあり、例え血縁関係があったとしても親戚との接点が希薄になっていれば、死亡後の引き取りを拒否されたり、身寄りがなければ遺産すら宙に浮いてしまうだろうということです。
因みに、最高裁判所によると、相続人不存在による相続財産が国庫に入った金額は、既に約647億円(2021年度)にも及んでいるとのこと。2001年度は約107億円だったので、20年で6倍に増えていると氏はしています。今現在でも50歳以上の未婚人口は642万人を数える。もちろん、この全員に身寄りがないわけではないが、今後未婚人口がさらに増加していく中で「身寄りのない高齢ソロ」の対応は大きな課題となるだろうというのが氏の懸念するところです。
さて、これから先、こうした独身市場の拡大を背景に、老後の生活設計や介護や相続などの様々なサービズが生まれてくるのでしょう。しかしその一方で、「頼れる人がいない」という現実を前に独身者の不安は尽きることがないというものです。
「どうせ一人なんだから、死んだ後のことなど知ったことではない」という考えの人もいるだろうが、一方で「死んだ後、よそ様に迷惑をかけたくないがどうすればいいかわからない」と悩む人も多いに違いない。悩める彼らを一体だれが救ってくれるのだろうと話すこの論考における荒川氏の指摘を、私もさもありなんと受け止めたところです。
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