転職・求人情報の株式会社ビズヒッツ(三重県鈴鹿市)が今年の8月、全国の男女500人を対象に実施した「お金を使わない生活に関する意識調査」によると、日頃「お金を使わない生活」を意識している人は回答者の96.2%におよんだということです。
お金を使わない生活を意識している理由の1位は、「貯金したいから」とのこと。以下、2位は「老後・将来のため」、3位は「生活が苦しいから」、4位は「子どものため」、5位は「物価高だから」という結果だったということです。
また、「お金を使わない生活を送る方法」の項目で最も多かったのは「外食を控え自炊する」で、2位は「ポイ活(ポイント活用)をする」、3位は「できるだけ安いものを買う」と、日常生活の中で様々に節約に努めている姿が浮かびます。
また、中には7位「無料施設を活用する」、10位「マイボトルを持参する」といった涙ぐましいものもあり、爪に火を点すような生活も「貯金のため」「老後のため」と我慢している日本人の姿が浮かび上がってきます。
イソップ童話の「アリとキリギリス」の逸話では、夏の間穀物を蓄え続けていたアリは温かく冬を過ごし、遊び呆けていたキリギリスは冬の寒さに倒れたとされます。人生100年と言われる日本人の長い老後を考えれば、老後のために人生の最も充実した時間を犠牲にするのもやむを得ない選択ということなのでしょう。
また、それは裏を返せば、自らの将来にそれだけ不安があるということ。国や自治体、社会制度などの頼りにならないと考えればこそ、「自分の生活は自分で守るしかない」と先憂行楽の思いで我慢を重ねているのかもしれません。
さて、3年近く続いたコロナ禍もようやくひと段落付き、サラリーマンの給料もそれなりに上がり始めたものの、折からの物価上昇によって実質賃金は下がるばかり。(こうした状況に合わせ)人々は貯金を取り崩しながら生活していると思いきや、実態はそうことばかりでもないようです。
日本人の現在の生活実態に関し、大和証券チーフエコノミストの末廣徹(すえひろ・とおる)氏が9月19日の経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に、『「賃上げと消費増の好循環」は望めそうもない』と題する論考を寄せていたので、参考までにその概要を残しておきたいと思います。
実質可処分所得が10カ月連続で落ち込む中、やや意外感があるのがインフレで生活が苦しくなった家計が貯蓄を取り崩しているわけではないことだと、末廣氏はこの論考の冒頭に綴っています。
日本の可処分所得に占める黒字(可処分所得-消費支出)の比率である「黒字率」はなお高止まりしており、この傾向は、アメリカの例と大きく異なっているというのが氏の認識です。
アメリカでも(日本同様)インフレ高進によって実質可処分所得がトレンドを大きく下回っているが、アメリカの家計は貯蓄率を低下させ、消費水準をある程度維持している。その結果、コロナ禍で行われた財政政策などによって積み上がった「強制貯蓄」は、ほとんどなくなってしまったという見方が多いと氏は言います。
一方、日本でも実質可処分所得が目減りした状態が続いているが、消費が抑制されて黒字率(貯蓄率)が維持されていることから、「強制貯蓄」は取り崩されるどころかさらに積み上がっているというのが氏の指摘するところです。
氏の推計によると、日本の「強制貯蓄」(特別定額給付金から貯蓄に回った部分を除く)は2023年4〜6月期に約1兆円増加し、2020年4〜6月期以降の3年強で累計約50兆円となったとのこと。日銀は2023年7月の展望レポートで、「強制貯蓄」が取り崩されることで消費が拡大することへの期待を示したが、実際にはいまだ「取り崩し」は始まっていないというのが現在の状況に対する末廣氏の認識です。
日銀は、名目賃金の上昇が家計の消費増を促すことで、賃上げと消費増の「好循環」発生を狙っている。しかし、むしろ貯蓄は積み上がっている状況にあり、家計は現状、「賃上げ」に動いた企業の期待にまったく応えていないということです。
日本の黒字率(貯蓄率)は、コロナ禍の行動制限の影響などによって、2020年にかけて全ての年収層で上昇したが、その後の経済再開とともにいずれの年収層でも緩やかに低下した。しかし、高年収層の黒字率は足元では再び上昇し始めており、低年収層の黒字率が低下傾向にあるのとは対照的な動きを見せていると氏は現状を説明しています。
そうした中、年収層別の名目消費支出を確認すると、黒字率と同様に高年収層の消費が伸び悩んでいる。これからわかるのは、可処分所得が増えて黒字率が低下したのではなく、消費が弱くなったことで黒字率を押し上げたという現実だというのが氏の見解です。
実質賃金の目減りによって低年収層の消費マインドの悪化に注目が集まりがちだが、(こうしたことからも分かるように宇)実は高年収層の消費の弱さが日本の消費の課題となっていると氏は話しています。本来であれば「賃上げ」によって限界消費性向の高い高年収層ほど消費が増えそうな局面であるにもかかわらず、現実はそのようには進んでいないということです。
むろん、現在は経済再開の過渡期であるため、もう少しデータの蓄積を待ちたいところ。しかし、現時点では「コロナ禍で高年収層の消費の考え方が変わってしまった」可能性が高いというのが氏の見解です。
例えば、コロナ禍で贅沢をできない状態がもたらされた結果、贅沢しない生活が定着してしまったとすれば、賃上げによる好循環は生じにくいだろう。これまでの「将来不安」による能動的な貯蓄だけでなく、このような消去法的な貯蓄が進めば、強制貯蓄は一向に取り崩されない可能性もあると話すこの論考における末廣氏の結論を、私も興味深く読んだところです。
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