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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1165 人口減少がもたらすもの(その2)

2018年09月15日 | 社会・経済


 引き続き、経済アナリストのデービッド・アトキンソン氏の近著「新・生産性立国論」(東洋経済新報社)における、急激な人口減少期を迎える日本の社会に関する考察を追っていきます。

 氏はこの著書において、14世紀の中盤から15世紀中盤にかけて、約100年の間にペストによって人口の約半分を失ったヨーロッパの例を挙げています。突然の人口減少を受け止めたヨーロッパの社会に、一体、どのような状況が訪れたのか。

 ヨーロッパではペストが起きる前は労働力の供給が過剰であったため、労働者は基本的に立場が弱く資本家に服従するしかなかったと、氏はここで説明しています。

 しかしペストの流行後、農業を営む人が足りなくなってからは立場が逆転し、彼らの性質も様変わりする。この時代から自営の農業者が次々と現れ始め、封建制度の基盤が失われ民主主義の機運が高まったということです。

 また、こうした労働力不足は、労働者の労働条件の劇的な改善をもたらしたとアトキンソン氏は説明しています。人々の可処分所得は飛躍的に増加し、例えば人口が減りだした最初の10年だけでも、男女とも年収にしておよそ1.8倍に増えたということです。

 しかし一方で、そのころの物価は安定していた氏はしています。所得が増えたにもかかわらずインフレが起きなかったのは、(ほかでもなく)需要が変化したから。所得の増加によって付加価値が高いモノやサービスの需要が増え、人々の生活水準も大幅に上がったとされています。

 そして、ここにこそ、今後の日本経済を理解するための最も重要な示唆が含まれているというのがアトキンソン氏の見解です。

 ポイントとなるのは、ペストの流行により人口減少に直面した欧州の人々が、自らの働き方を変え産業構造を変え、資本家と労働者の関係を変えるほど必死で「生産性」を向上させたこと。もしも彼らが変化を恐れそれまでの働き方に固執していたら、その後の欧州の繁栄はなかったということです。

 こうしたことからも判るように、人口減少期に必要なのは「変化」を受け入れ、変化を梃に生産性を持続的に向上させていくことにあると、氏はこの論評で述べています。人口増加というこれまでの経済の大前提が失われた時代には、変化を恐れるのは「座して死を待つ」のに等しい姿だということです。

 一国の経済規模(GDP)は「人口×一人当たりの生産性」で表すことが可能です。つまり、今後人口減少過程におかれる日本では、生産性を継続的に大きく改善していかない限り経済規模が縮小していくことを意味しています。

 そしてGDPが減っても、これまでしてきた国の借金と年金や医療費の負担は減らないので、今の日本には生産性を高めないという選択肢はないというのがアトキンソン氏の指摘するところです。

 では、どうやったら(肝心の)生産性を高めることができるのか。

 氏は、現在の日本の生産性は「異常」とも言えるほどに低いので、改善できる余地は極めて大きく残されていると説明しています。

 2016年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は834万円(8万1777ドル)で、OECD加盟35カ国中21位。英国(8万8427ドル)やカナダ(8万8359ドル)をやや下回り、米国(12万2986ドル)の66.5%の水準に過ぎません。

 一方、国連などのさまざまな調査で、日本の労働者の資質は世界最高レベルと太鼓判が押されています。氏はこの論評で、こうした状況を日本の経営者が奇跡的に無能であることの証だと指摘しています。

 こうした最高の労働者を活用し、経済合理性を徹底的に追及して生産性を挙げれば、人口減少を武器に、日本は経済構造を飛躍的に変貌させることが可能だとアトキンソン氏は見ています。生産性の向上により労働者は豊かになり、日本社会全体が幸せになるということです。

 日本では、たとえ正論であっても理屈が通らないことが多いのは事実だと氏は説明しています。しかし、変わらざるを得なくなると、一気に変われるのが日本人の良いところ。日本人には「事前対応」は苦手でも、「事後対応」なら世界一といった側面があると氏はこの論評で評しています。

 好むと好まざるとにかかわらず、人口減少は間違いなくやって来るし日本に劇的な変化をもたらすだろうとアトキンソン氏は予言しています。

 そして、その変化に合わせ世界が驚嘆するような生産性向上を実現するか、変化を恐れて衰退するかの鍵を握っているのはまぎれもない日本人の覚悟にあると厳しく結ばれた氏の論評を、私も心して受け止めたところです。




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