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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯191 経営戦略の原点にあるもの

2014年07月03日 | 日記・エッセイ・コラム

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 日経ビジネス」のコラムサイトである「小さな組織の未来学」では、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木 建(くすのき・けん)氏が「競争のために一番大事なこと」とのタイトルを冠した連載において、エコノミストの立場から主に中小企業の経営戦略に関する様々な視点を紹介しています。

 6月13日のこのコラムでは、「『好き』からはじまる戦略は強い」と題して企業経営の動機(インセンティブ)に関する興味深い指摘が行われているので、備忘の意味を込めてここで整理しておきたいと思います。

 企業を「経営」するに当たっては、本質的な部分で経営者の「好き嫌い」が最も大切な要素になるとここで楠木氏は述べています。しかしながら、本来「好き・嫌い」で考えるべき様々な分野に、経営上の「良し悪し」の規範がどんどん侵食してきているように思えるというのが楠木氏の基本的な問題意識です。

 「良し悪し」の議論が「良い経営」を殺している。企業を伸び代のある生き生きとした魅力的なものにしていくためには、この「好き・嫌い」の復権が何よりも重要ではないかというのが楠木氏の認識です。

 企業経営のアプローチは本質的に「インサイド・アウト」と「アウトサイド・イン」に大別できると楠木氏は言います。

 「アウトサイド・イン」とは、簡単に言えば経営環境から経営戦略を考える視点です。楠木氏によれば、つまりまず周りを見回して「何が一番いいのかな」と考える経営方法がいわゆる「アウトサイド・イン」ということです。一方「インサイド・アウト」は、経営者の思いを具体化することを唯一の目的として、経営とはその方法(手段)と捉える思考形態を指す言葉です。

 こうした区別は経営者が物を考える「順序」に注目した分類にしか過ぎませんが、(しかしここが重要な分岐点であり)経営とはつまるところ「インサイド・アウト」であるべきだというのが、このコラムにおける楠木氏の主張の眼目です。

 経営者の中に「これはいいものだ」「こういう商売をしたい」とい欲求がまずあって、それが世の中に出てきて、形になって、ビジネスになる、これが「インサイド・アウト」的経営戦略だと楠木氏は述べています。そもそも「戦略」とは「良し悪し」よりも「好き嫌い」を前提とした概念であり、「戦略」と銘打つからには、様々なプレイヤーが存在している中で皆と「違う」ことをやらなくては意味がない。つまり「違い」とは、「うちの方が安い、薄い、軽い、ベターである」というようなことではなく、「質的に」違うものでなくてはならないという視点です。

 「質的な違い」について、楠木氏はこうも言っています。「うちの方が質がいい」というのは、結局単純な「量」の競争に他ならない。経営の指標として「身長」や「体重」のような特定の尺度をあてはめ果たしてどちらがベターかというような比較をすることは、結局、同じ土俵で優劣を競っているに過ぎないのであって、経営者が勝負をかけるべき「経営戦略」とは次元が違うものである。ここで言う「戦略」とは、例えば「男・女」のように物差しがない違い、つまり質的に違うものを創造することだということです。

 競争の中では「違い」を作ることが、戦略の「せ」の字だと楠木氏は述べています。しかし、こうした戦略を作る際に一旦「良し悪し」の物差しが持ち込まれてしまうと、何が一番有利で利益にかなうことなのかをつい考えてしまう。無限大の選択肢がある競争空間が広がっているにもかかわらず、(数ある類似の商品やサービスの中で)「一番いいものをやろう」という思考方法からは本質的な「違い」は生まれてこないというのが楠木氏の指摘するところです。

 これは経済的な「計算」では割り切れない世界だと楠木氏は言います。競争空間には無限大の選択肢があっても、自分ができる商売は1つだけである。「良し悪し」を基準として分析的にベストなものを見つけようとしてもそれは所詮無理な話で、もっと内発的なもの(経営者の「欲求」)がないと経営的な選択はできないということです。

 「好き・嫌い」がないと、人間は最終的に「良し・悪し」に流れてしまう。経営の原点である「好き・嫌い」に基づいて戦略を決められることこそが小さな組織の強みと考えれば、そこに経営の「切り口」であり「光明」が見えてくるとする楠木氏の指摘は、特に中小企業の経営者に勇気を与える確固たる視点として極めて重要なものではないかと改めて感じたところです。


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