MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2475 「幸せな社会」とはどんな社会か?

2023年10月03日 | 社会・経済

 3月20日は国際連合が定めた国際幸福デー(International Day of Happiness)とのこと。毎年この日に合わせ「世界幸福度報告(World Happiness Report)」が発表され、各国の幸福度がランキング形式で示されています。

 直近の2023年版報告書におけるランキング上位を見ると、フィンランドが6年連続で首位をキープするなど北欧勢が上位を占める傾向に変化はありません。トップ10で見ると、ヨーロッパ以外の国は、4位のイスラエル、10位のニュージーランドの2国のみ。日本は137か国中47位であり、昨年の54位より上昇したものの、GDPで世界3位の経済大国としては低い順位であり、G7の中では(同33位のイタリアに大きく差をつけられ)最下位に甘んじている状況です。

 幸せに生きること、いわゆる「ウェルビーイング」は人々が求める価値として近年注目されているテーマですが、安全で経済的にも恵まれた長寿社会であるこの日本の幸福感がこうして低迷しているのは一体何故なのか。

 こうした疑問に関し、8月28日の経済情報サイト「東洋経済online」が、京都大学教授の広井良典氏の近著『科学と資本主義の未来〈せめぎ合いの時代〉を超えて』の一部を紹介しているので、参考までにその概要を本稿に残しておきたいと思います。

 日本における「幸福感」「ウェルビーイング」に関する議論の中で、十分に注目されてこなかった重要な話題がある。それは、社会における「平等」、裏返して言えば「格差」の度合いと「ウェルビーイング」との関係だと、広井氏はこの著書で指摘しています。

 例えば国連の関連組織である「持続可能な発展ソリューションネットワーク(SDSN)」が毎年公表している「世界幸福報告」の2023年版では、1位にフィンランド、2位にデンマーク、3位にアイスランド、6位にスウェーデン、7位にノルウェーがそれぞれ名を連ねている。

 そして北欧諸国と言えば、その“高福祉・高負担”型の「福祉国家」政策において広く知られ、その帰結として社会における高い「平等」を実現してきた国々で、経済格差の度合いを表す(いわゆる)「ジニ係数」でも、国民の経済的平等度が最も高い国々だということです。

 さらに他の国々について概観すると、北欧に次ぐのが(オーストリア、ドイツ、フランスといった)「大陸ヨーロッパ」諸国であり、以降、カナダ、オーストラリアなどのアングロ・サクソン諸国、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなどのラテンヨーロッパの国々が位置し、その次に日本、イギリスと続き、最も格差が大きいのがアメリカだと氏は説明しています。

 一方、日本(の経済格差)について言えば、1980年代頃までは「大陸ヨーロッパ」並みで、(「一億総中流」と言われるような)先進諸国の中で格差の小さい国だったものが、90年代半ば頃から徐々に格差が広がり、現在では先進諸国の中でもっとも格差が大きい国のグループに入っている。

 しばらく前から「親ガチャ」、つまりどのような親のもとで生まれたかという、出自の環境によって人生がほとんど決まっているという感覚が若い世代を中心に広がっているが、こうした事実は、以上のような経済格差をめぐる客観的状況と関連したものだということです。

 さて、そうした中、特に現在の日本において重要なのは、人生における「機会の平等」の保障、つまり個人が人生の各段階において、「共通のスタートライン」に立てる社会の実現にあると氏はこの著書に記しています。

 氏によれば、中でもとりわけ重要なのは、やはり(生まれてから若年期までの)人生の初期段階における機会の平等とのこと。思えば、戦後の日本は文字どおり“焼け跡”から出発するとともに、良くも悪くも占領政策という外圧の中で、①教育の平等化、②農地改革を通じた土地の再分配などが短期間のうちに行われ、「共通のスタートライン」に立てる社会という方向への改革が強力に進められた時代だったと氏は指摘しています。

 そしてこのことが、当時の日本人にとって“万人にチャンスが開かれている”という感覚や肯定感、希望を生んだ。また、それが土台となって、「経済成長と平等化」の好循環を生み出していったというのが氏の認識です。

 しかし現在、こうした状況は根本から変わっている。(前述のように)経済が成熟段階に入った90年代頃から日本の経済格差は徐々に拡大し、現在では先進諸国の中で最も格差が大きい国の一つとなっているということです。 

 さて、氏がここで強く危惧しているのは、日本という国ないし社会は、放っておくと「固まりやすい」社会であるという点です。歴史の流れを見ても、(この辺で)意識的に「機会の平等」に向けた政策を打っていかなければ、格差が親から子へとそのまま引き継がれ、世襲的な傾向も増え、経済格差や「地位」が固定される社会になっていくだろう。「上級国民」などといった言葉が自然に使われるようになっているのも、実際、そうした流れの一端ではないかというのが氏の見解です。

 ではどのような対応が必要か。それは、「人生前半の社会保障」の強化、つまり子ども・若者への教育、住宅、雇用等あらゆる面での公的支援に他ならないと氏はこの論考の最後に指摘しています。

 幸せな社会とは、若者が将来の幸福を諦める必要がない社会。そして今の日本で特に不足しているのは、10代後半~30代の若年層への支援ではないかと話す広井氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿