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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2394 人口減少が避けられないとすれば

2023年04月11日 | 社会・経済

 1月24日の英BBCニュースは、日本の出生数が1970年代の年間200万人以上から80万人以下に落ち込み、岸田文雄首相が施政方針演説で、「我が国は、少子化により社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と語ったと(世界に向け)報じています。

 出生率は日本の近隣諸国など多くの国で低下しているが、特に日本で深刻な問題になっている。世界銀行のデータによると、日本の65歳以上の高齢者の割合は約28%と、小国モナコに次いで世界で2番目に高いとBBCは伝えています。

 また、このような状況に、専門家は日本の人口が2017年の1億2800万人をピークに減少し今世紀末には5300万人を下回ると予測しており、移民への規制をさらに緩和することを指摘する声も出ているとしています。

 BBCの指摘を待つまでもなく、長年にわたる少子化とその結果として顕在化してきている働き手や人口の減少は、日本の国力を大きく削ぐものとして懸念されています。岸田首相も言うように、今後これ以上の少子化が続けば(社会保障やインフラの維持など)社会機能の維持すら難しくなるかもしれません。

 岸田政権の掲げる「異次元の少子化対策」が国会で様々に議論されている折、2月21日の総合情報サイト『Newsweek(日本版)』に、元外交官で作家の河東哲夫(かわとう・あきお)氏が「少子化はこの世の終わりなのか?」と題する論考を寄せているので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 エコノミストの藻谷浩介氏の著書『デフレの正体』で労働力人口の減少が日本経済不振の根本的原因だと指摘されて以来、日本の社会には「少子化への諦め」が染み付いてしまったと河東氏はこの論考の冒頭に記しています。

 もとより、「人口増=善」という考え方は近代の産業革命以降のもの。それまでのGDPがほとんど伸びない農業社会では、英経済学者のトマス・ロバート・マルサスが言ったように、人口が増えすぎればみんな貧しくなるから「間引き」もまれではなかったと氏はしています。

 そうした状況にあった中世の西欧は、14世紀中頃、人口の約3分の1をペストで失うという大悲劇に見舞われた。それで経済は一時大きく停滞したが、結果、労働力の減少は賃金の上昇、次いで消費の増加を呼び、15世紀以降の経済活性化の呼び水になったということです。

 このような動きの中で、「(消費する)人が多い国は市場が大きく、国力も大きくなる」ということに気が付いたのは17世紀のイギリスだった。この国で産業革命が真っ先に成立したのは、人口ではるかにオランダに勝り、フランスのように国内市場を貴族に分断されていなかったからだと氏はしています。

 このことは(輸出競争力を脅かさない範囲で)賃上げをすれば、人口が減ったからといって経済が必ず縮小するものでもないことを我々に教えてくれる。人口が少なくても高い生活水準を享受している例は北欧やベネルクス3国などにあり、これらの国では人口が少ないからといって、通勤電車の経営が成り立たなくなっているわけでもないというのが氏の見解です。

 しかし、だからといって現在1億人以上の人口を抱える日本が、日本より大きな領土に1000万人しか暮らしていないスウェーデンに(一足飛びに)なれるわけではないと氏は続けます。(そう考えれば)現在の日本の課題は少子化をできるだけ食い止め、微減していくであろう労働人口でどうやって社会保障システムと経済を回していくかに尽きるというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 現役層の人口が減ると、年金・健康保険のシステムを維持できなくなると言われている。確かに「国民年金」では、現役人口が小さいと引退者の年金を負担するのはきつくなると氏はしています。

 一方、企業を通じて払い込む厚生年金は、基本的には自分の将来の年金を自分が現役のうちに払い込んでおくシステムになっているので、人口構成が逆ピラミッド型になっても(何とか)やっていけている。健康保険では、現在高齢者の負担分を引き上げるなどの対策が進められているということです。

 現在、教育などの費用がかかることが、子供を産みたくても産めない最大の理由とされている。では(政府が進めようとしている)児童手当の増額や授業料の無料化で、出生数は増えるのか?…多分増えることはないだろうと氏は言います。

 現代社会においては、(満足できる形で)子どもを産み育てるための手間やコストは際限なく高まっていく。社会として、これらを移民や人工知能(AI)・ロボットなどで補うことは(ある程度は)できるとしても、(アメリカやヨーロッパの例を見ても分かるように)簡単には解決できない問題もあるというのが氏の認識です。

 さて、河東氏も指摘しているように、現在の日本で進んでいる少子化はかなり構造的なもの。来年度予算で岸田首相がいくら「異次元」の対策を打ったとしても、そう簡単に解消するとは思えません。増してや、仮に出生率が多少上向いてきたとしても、既に大きく減少してしまっている出産年齢の女性の人口には抗えず、また新しく生まれた子供たちが日本の社会をしっかりと担えるようになるまでには、これから先もずいぶんと時間がかかることでしょう。

 ということであれば、今できることは何なのか。それは、例えば人口が5千万人となった日本という国家を想定し、社会の仕組みを作り変えること。さらに言えば、人口減少の過程で生まれる歪への対応を長期的に検討し、来るべき人口小国へのソフトランディングを図ることに他なりません。

 推計人口のグラフを不安げに眺めるだけでは何も始まらない。人口規模の(気急激な)変化から逃れるすべはないと覚悟を決める時が刻一刻と近づいているということを、私たちは肝に銘じる必要があるでしょう。

 ほぼ確実にやって来る(かなり厳しい)未来を、このまま座して待っているわけにはいきません。「異次元の少子化対策」もそれはそれで必要でしょうが、政府は残されている(限られた)時間を使って、「実際、何ができるのか」ということに(そろそろ)注力すべきだと考えるのですが果たしていかがでしょうか。

 



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