『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』ⅩⅡ

2009-12-09 20:07:43 | 連作short/妖婉シリーズ
*****
 そこは、ただ一言。
 広い…
 この言葉しか浮かばなかった。

 こんな広い蔵の中で、たった独りで育ったというのだろうか。
 此処には本当に、魑魅魍魎と呼んだ者がいるのだろうか。

 長い廊下を歩いていくと、扉があった。
 何だろう。心臓が早鐘のようにドキドキしてきた。
 手を伸ばす、ゆっくりと。

 刹那、電流が体の中心を走ったような衝撃を受け慌てて手を引いた。
「何!?」
 戸の隙間から覗き見る。
 しかし、中は暗くて見えなかった。

 安堵のため息をついた時だった。
 何かの気配が、部屋を横切ったようなイメージを描く。
 背中を冷たい汗が流れた。
 恐怖だ。全身の体毛という体毛が毛羽立つような感覚。その感覚に飲み込まれないようにと、咄嗟に声が出た。
「誰かいるのか」
 その声は明らかに上ずってはいたものの、ちゃんと言葉になった。

 !

 笑った?
 今、確かに誰かが笑った気がした。
 やっぱり何かがいるのだろうか。
 もう恐怖よりも、好奇心の方が勝っていた。ここがどんな場所なのか、理解しているとは言い難かった。
 扉に置いた手には、何も起こらない。
 俺は、息を止め一気に扉を引いた――。

                        著作:紫草

                        To be continued.
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