くすり。
スピーカーから流れ出る怒鳴り声を聞きながら、スリッピーは思わず笑っていた。
「なっ……何がおかしい?」
様子が変わったことをいぶかってか、完全に血が上っていたペッピーの頭も、すこし冷えたようだ。
「いいや。何でもないよ」
スリッピーは明るく答えた。まだ目の端に涙のしずくが留まっていたが、もうそれ以上に溢れてはこなかった。
「やれるんだな?」
「もっちろんさ! オイラが始めに思いついた作戦なんだ。最後までやる。やってみせるさ」
「……よし。その意気だ」
二人のやりとりを聞いていたフォックスも、その口の端に小さな笑みを浮かべた。べそをかくのもしょっちゅうなら、元気をとりもどすのもしょっちゅう。『泣いたカエルがもう笑う』そう冷やかされていたパペトゥーンのアカデミー時代から、スリッピーのそういうところは変わらない。
相変わらずファルコ機はすさまじいスピードで逃走を続けている。断言はできないが、機体のスピードが徐々に回復してきているようにも感じられる。プラズマ冷却弾の効力が、失われつつあるのかもしれない。
フォックス達は、コーネリア都市部からの目撃情報をもとに、ファルコの目的地・移動ルートを予測し網を張った。警戒の厳しい都市部とそれを結ぶ主要道路近くに現れることは避けるに違いない。衛星軌道上は、コーネリア軍の厳しい監視下にある。とすれば、見張るもののない海上を移動し、東部の海に浮かぶ無数の小島のどれかに身を隠すはずだ。
予想は的中した。というより、論理的に考えたならば、逃げ道はそれしかないのだ。
500を超える大小の島々が集積する東の多島海までは、民間機でも3日間飛行すれば辿りつける。ここでファルコを捕らえることができなければ、もうこの先再びチャンスが巡ってくることはないだろう。