「なにって……ベノム行きは極秘だったから……」
「そうじゃない。そのあと」
「80年ローンも残っておるし……」
「ハチじゅうネンんんんん??? 八十年もローンがあるだってええええ!?」
あんぐり口を開けたまま固まってしまったフォックスを見て、ペッピーはあたふたした。
「し、知らんかったのか? ジェームズから聞いていなかったのか?」
「ローンを組んだとは知っていたが、80年だなんて聞いていないぞ」
「ワシャてっきり、知ってるとばかり」
「待ってくれ……それじゃオレは、94歳になるまでずっとローンを払い続けなけりゃならないのか?」
げんなりした気持ちを極力隠そうとする、なんとも言えない表情をフォックスは浮かべた。それを見たペッピーは慌ててかぶりを振る。
「いやいやいや! そんなことはないぞ。グレートフォックスを新造してから、もう10年以上は経っているからな。その10年のあいだ、ピグマはともかく、ワシとジェームズとでやりくりしながら繰り上げ返済をすすめてきたんだ。80年ってな長期間にしたのは、支払いを無理なく進めるためさ。遊撃隊の仕事が、いつもいつも途切れることなく入るとは限らんからな。そうさな、もう20年分くらいは片付いているはずだ」
「それでも、74歳までかかるじゃないか……」
「んぐっ。あっぐ。ふぉ、フォックス、その、あの」
「ペッピー。父さんもだが……一体何歳まで、現役で飛び続けるつもりだったんだ? これじゃあ、寿命いっぱいまで飛び続けたって、完済できるかどうか怪しいもんじゃないか」
「その……ワシらだって、自分たちだけで完済できるとは思っておらんかった。遊撃隊の仕事を続けるうちに、スターフォックスの後継者となる人材を見つけ出して、次々に代替わりしながら返済してゆけばよいと思っておったんじゃ」
「そうか……。それで、見つかったのか? 後継者ってやつは」
ペッピーは喉にものが詰まったような情けない顔をしてうつむいた。そして、右手の人差し指をそろそろと伸ばして、フォックスのほうへと向けた。
「なるほどな……」
椅子から滑り落ちて床に横たわってしまいそうになる自分の体を、フォックスは背もたれにしがみついてやっとのことで支えた。その脳裏では、広い野っぱらの真ん中で、草木のあいだに作った穴ぐらに潜んだ二人の少年が、なにごとかをささやき交わしていた。
――ペッピー、ここは俺たちだけの秘密基地だ。カーチャン達には内緒だぞ――。
――わかってるさ、ジェームズ。誰にも言いやしないって――。