身なりをととのえたペッピーと、手を洗い終えたフォックスはダイニングルームへと入った。食卓のむこうで、そわそわとした様子のビビアンがナベを覗き込んでいる。フォックスの姿を目に入れると、ビビアンは聞いた。
「あの、フォックス君。あなた、野菜は大丈夫だったかしら?」
「ええ。野菜ならなんでも食べますよ」
その答えを聞くと、ビビアンはほっとしたように頷いた。
「そう、そうなのね。良かったわ」
「ジェームズと同じだよ。人参でもブロッコリーでもばりばり食うぞ。振る舞い甲斐のある客だな、ビビアン」
「ウチは野菜がメインですからね。いるでしょう、肉しか食べない人や、逆に野菜しか食べない人。私の叔母は肉がだめなの。食べると体がむくむのよ。スープのダシも野菜しか使わないの」
「オレは平気ですけどね。野菜を全く食べない友人もいますよ」
「なんなんでしょうね。不思議よね。種族が同じでも、どうして好みが違ってくるのかしら」
「食物の代謝の機構が、遺伝的に異なるのだろうな」
腕組みしながらペッピーが言う。
「太古のむかしには、草食・肉食は今よりもはっきりと分かれていたんだろう? 進化の過程で雑食化がすすみ、もともと摂取しなかったものも消化・吸収できるだけの代謝経路があらたに獲得されたんだ。しかしところどころに、祖先の性質をそのまま受け継いだものもあらわれる。いわば先祖がえりだな。肉しか食べないものは、野菜を消化するための分解酵素や、吸収するための機構をもっていないわけだ。まぁ、とにかく」
組んだ腕をほどいて胃袋の上に移動させると、だらしなく頬を緩める。
「いまこの食卓を囲んでいるメンバーなら、同じナベのシチューを分かち合っても不都合はなかろう。いいかげん腹に詰め込まないとワシャ死にそうじゃよ」