俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その37

2010年03月18日 20時13分36秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 身なりをととのえたペッピーと、手を洗い終えたフォックスはダイニングルームへと入った。食卓のむこうで、そわそわとした様子のビビアンがナベを覗き込んでいる。フォックスの姿を目に入れると、ビビアンは聞いた。
「あの、フォックス君。あなた、野菜は大丈夫だったかしら?」
「ええ。野菜ならなんでも食べますよ」
 その答えを聞くと、ビビアンはほっとしたように頷いた。
「そう、そうなのね。良かったわ」
「ジェームズと同じだよ。人参でもブロッコリーでもばりばり食うぞ。振る舞い甲斐のある客だな、ビビアン」
「ウチは野菜がメインですからね。いるでしょう、肉しか食べない人や、逆に野菜しか食べない人。私の叔母は肉がだめなの。食べると体がむくむのよ。スープのダシも野菜しか使わないの」
「オレは平気ですけどね。野菜を全く食べない友人もいますよ」
「なんなんでしょうね。不思議よね。種族が同じでも、どうして好みが違ってくるのかしら」
「食物の代謝の機構が、遺伝的に異なるのだろうな」
 腕組みしながらペッピーが言う。
「太古のむかしには、草食・肉食は今よりもはっきりと分かれていたんだろう? 進化の過程で雑食化がすすみ、もともと摂取しなかったものも消化・吸収できるだけの代謝経路があらたに獲得されたんだ。しかしところどころに、祖先の性質をそのまま受け継いだものもあらわれる。いわば先祖がえりだな。肉しか食べないものは、野菜を消化するための分解酵素や、吸収するための機構をもっていないわけだ。まぁ、とにかく」
 組んだ腕をほどいて胃袋の上に移動させると、だらしなく頬を緩める。
「いまこの食卓を囲んでいるメンバーなら、同じナベのシチューを分かち合っても不都合はなかろう。いいかげん腹に詰め込まないとワシャ死にそうじゃよ」

「ファルコとの出会い」その36

2010年03月18日 12時23分14秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 それからたっぷり3時間半。フォックスとペッピーは膝を突き合わせて話し合った。
 頭をひねったり、ため息をついたり、ペンで額を小突いたり、計算機のキーを叩いたり、はじき出された数字を見て唸ったり。燃料費や維持費、メンバー一人一人の報酬、予想される依頼の件数、果てはコーネリアとライラット系の政情についてまでをえんえんと考え続け、そして心身に10年分の疲労が蓄積したころやっと、未来にスプーン一杯ほどの希望を見出すことができた。
 どちらが病人なのかわからないくらいげっそりとした顔を見合わせて、二人は話した。
「なあ、フォックス。そろそろ何だその、メシにしないか」
「そうだな。ローンを返す前に餓死しちゃ、マズイからな。ところでペッピー、食事は砂の味しかしないんじゃないのか?」
「とんでもない。今なら何だってとびきり美味く味わえる自信がある! こう言ってるあいだにも生つばが出てしょうがないわい」
「そりゃあ良かったわね」
 突きあわせた頭の上から言葉を投げかけられ、二人は振り返った。いつのまにかドアが開いて、前掛けを下げたビビアンが戸口にもたれかかって立っている。その向こうから食欲をそそる香ばしい匂いが流れ込んできていた。
「言っておきますけど、ノックはしたのよ。2時間前にね。何が食べたいか、聞こうと思って。けど返事がなかったから、私が食べたかったシチューを作ったの。それがいい具合に煮込めたから、もしかしたら食べるかと思って来たんだけど。ノックに返事がなかったということは、空の男のおふたりは、夕食を一回抜くくらい、なんでもないということなのかしら?」
 二人は勢い良く立ち上がると、びしりと最敬礼のポーズをとったまま声を揃えて言った。
「「滅相もございません、奥様!!」」
「冗談よ」
 うふ、と笑うとビビアンは、戸口に仁王立ちになって怖い顔をした。
「けれど、あなた。寝巻きのまま食卓に付くのはやめてね。宇宙一うまいシチューを食べたかったら、顔を洗って、着かえてからいらっしゃい。フォックス君は、手を洗ってね」

「ファルコとの出会い」その35

2010年03月18日 12時19分18秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「フォックス……ワシはてっきり知っておると思っていたんだ。だから、嬉しかったんだ……。スターフォックスがバラバラになっちまって、グレートフォックスもローンのかたに接収されてしまうものと思っていたもんだから。そこへ、お前さんがリーダーになると言ってくれたもんだから、希望がまた燃えてくるような気がしてたんだが」
「オレはなんだか、希望が燃え尽きていくような気がしているけどね……」
「…………いまなら、まだ道を選べる。グレートフォックスはスターフォックスというチームの資産になっている。お前さんがリーダーに就任しなければ、チームは消滅したことになり、グレートフォックスは手放さなきゃならん。だが同時に、60年近く残っているローンも背負い込まずにすむ。……その選択は、お前さんに任せるよ」
 フォックスは放心したように椅子に沈み込み、頭を抱え込んでいる。
 しばしの時間が流れたあと、考え考え、フォックスは言った。
「グレートフォックスはもともと、整備、補給、索敵、あらゆる面でアーウィンをサポートするために建造したんだろう? 大気圏内といわず、宇宙空間といわずアーウィンを運用できるのは、あの母艦が動く要塞の役目を果たしてくれるおかげだ。グレートフォックスなしのアーウィンは、アーウィンであることの優位性をほとんど失ってしまうな。
 それに、他惑星の要請にも迅速に応えるには、グレートフォックスの惑星間航行能力がどうしたって必要だ。
 つまりは、グレートフォックスを失うことは、スターフォックスというチームの長所をまるっきり無くすことに等しいわけだ」
「うん。ワシもそうだと思う」
「ペッピー、分かっていたくせに……。俺を試したのか?」
「いや、その。そういうつもりじゃ、なかったんだが」
「いいさ」
 ハア、と大きく息を吐き出すと、がたがたと音を立てて椅子から立ち上がった。
「残っている負債の正確な額面を知りたいんだ。ペッピー、教えてくれるかい?」
「あ、ああ。書類のほとんどはジェームズが保管しているはずだが、写しならここにもある。ちょっと待ってくれよ」