「ペッピー、スリッピー。以後はレーザーを使うな。撃墜の危険がある」
「了解したよ」
「了解。しかし……」
意味ありげな唸リ声が、ペッピーの元から聞こえてくる。
「どうした? ペッピー」
「フォックス。奴はなぜ、シールドを消したと思う?」
「俺たちに撃墜の意思がないことを読まれたんだ。まさか、シールドを張らない相手にレーザーを使うわけにはいかないだろう?」
「本当にそうか?」
答えるなり、問いが返される。ペッピーの言葉はさらに続いた。
「フォックス。奴は自殺を図ったのかもしれんぞ。ワシらのレーザーを凶器にしてな。相手が自暴自棄になって死を選ぶ可能性のことは、作戦前にも話し合ったはずだ。……気をつけろ。レーザーで死に損ねたあとは、こちらに体当たりを食らわしてこないとも限らんぞ」
フォックスの心に動揺が走った。確かに、作戦会議中、ファルコがヤケをおこして特攻してくる可能性についても検討していた。自分はそれを心に留め置いたはずなのに。
ファルコが死のうとしたかもしれないことよりも、自分がそれを想像できなかったことが、よりフォックスの精神を揺らがせた。
論理的に思考を組み立てたつもりでいて、本当は無自覚のうちに、気づきたくないことに目を伏せていたのかもしれない。すなわち、自らの手で他の誰かを死なせるということ。自分の放ったレーザーが、血もあり肉もある一個のヒトを、跡形もなく消し去るということ。
脳裏にふたたびあの光景がよみがえった。ベノム、峡谷、無数の砲門、燃え上がる炎、その中にいたはずの自分の父親!
モニタの情報も、目の前の光景も見えなくなった。見えるのは頭の中にある地獄の光景だけだ。
「ぐうぅ、ゲッ。げぇっ」
喉を越えて胃酸が逆流してくる。不快な酸臭が口の中に広がり、耐えられずにフォックスは自分の膝の上に吐き出した。
「フォックス! 大丈夫!?」
目尻に涙を浮かべ、ぜいぜいと息をつく。左ひざの上には、吐物が手のひらほどの染みを作っている。
「大……丈夫だ」
なんとか返答したフォックスの前で、通信を求めるランプが明滅を繰り返していた。