山上に雲寄り来たり去年今年 敏
〇(春生)去年の暮れから新年、良く晴れました。
◎(藤三彩)変わることなく時は流れてゆくという心情になるほど
風前の塵と知りせば枯木立 仙翁
冬耕や山肌荒く日のさして ルカ
〇(春生)寂れた感じの景ですね。
◎(幹夫)冬晴れのよき日、春になって固くならないように土を柔らかくする冬耕は、農家を営むにとって大切な作業だ。
◯(アネモネ)「山肌荒く」が上手い。
雪国や連峰越えた空青く 泉
〇 (多実生) 雪と快晴、天気を二分しています。
手間暇の効果にっこり室の花 多実生
○(泉)室の花は手入れが大切ですね。「効果にっこり」が面白い。
(選外)(藤三彩)水やりなどあんまり手をかけてしまうと枯れるのが心配
一枚の葉に風が鳴る冬の空 幹夫
○(あちゃこ)静かな冬を一枚の葉の風で感じさせてくれます。
〇(春生)木枯らしの吹いている感じです。
○(珠子)その一枚もいずれ風に落ちてゆくのですが…。
○(仙翁)最後の一葉に、風が鳴りますね。
〇 (多実生) 一枚では有りませんが柏の葉は良く鳴りますね。
冬天のざわめき起きる土の中 まきえっと
〇(ちせい)季語は「冬天」。土の中では既に春の胎動があるのかもしれません。
絶え間なきラジオの暮し室の花 道人
○(あちゃこ)日々の暮らしにあるラジオ。三枚の写真をうまくつないで実感。
〇(藤三彩)手と目を動かす仕事をしているとラジオが便利。字幕を目で追うようなTVは無理
○(餡子)ラジオはあまり聞きませんが、手を止めることがないので、主婦には欠かせない。外は冬ざれ。室の花は元気。暖かさの感じる句です。
〇(楊子)たぶん一人だからこそラジオだろう。室という漢字の意味もいい。日常の豊かさがかんじられる。
◯ (アゼリア) 私の故郷は家内工業が多く日なが一日ラジオをつけっぱなしの家が沢山ありました。
〇(まきえっと)こういう生活って大事な感じ。
◎(宙虫)FMでなくてAMの感覚。今の時代、ラジオはすっかり高齢者向けの番組になっている。懐メロばかり流れていることに気が付く。室の花と聞く空気感がいい。
仙人掌の赤が好きなのイヴの夜 藤三彩
奇跡より一輪の花冬蒼天 あちゃこ
○(珠子)奇跡より・奇を衒う戦術より、一輪の花が平和を作るのです。
歳晩のうらうら息をぬく地霊 珠子
○(あちゃこ)息を抜くには色々な捉え方があると思いますが、私は不安を覚えました。オノマトペが効いています。
○(敏)こころ浮き立つような冬の麗ら日、地霊もどうやら本来の役目を忘れて手を抜いているらしい、ということでしょうか。
◯(道人)穏やかな年末が何よりです。
○(餡子)すべてが一年の終わりに向かって息を抜くように感じます。主婦は忙しいですけど。
羽根を持つものたち風を待つ冬野 宙虫
○(敏)冬野に潜む鳥や虫や、飛び立つ時を待つ生き物たちに心を寄せた作品。
◯(道人)ハンドグライダーをしている気分に味わいがあります。
○(幹夫)鳥たちへの優しさに共感。
〇(楊子)じっと春を待つ様子がうかがえる。植物に限らずすべてのものに羽根がある気がしてきた。
〇(まきえっと)羽根を持つものに人間も加わるかもしれません。
山眠る村は安堵の貌となる 餡子
○(泉)「安堵の貌」という表現が良いと思います。
○(幹夫)リズム佳く詠まれている。
〇(ちせい)季語は「山眠る」。安堵の貌とは想像力を刺激されました。
◯ (アゼリア)冬は農閑期だし村人も身体を休めたり、温泉に行ったりできますね。
数え日のハウスに出荷の苺摘む アゼリア
〇(春生)この時期、特に忙しいですね。
○(ルカ)苺の出荷、クリスマスからお正月が最盛期。座るまもない忙しさ。
◎(アネモネ)まさに数え日。忙しさが伝わって来ます。
探梅や兜太の里を踏みしめて 春生
◎(ちせい)季語は「探梅」。金子兜太の里。確か秩父辺りだったような。
◯(アネモネ)兜太を思う心。いいですね。
一陽来復河馬の尻尾のやうに雲 アネモネ
○(泉)「河馬の尻尾」という表現が面白いと思います。
○(珠子)こののびやかさは魅力的。しかしよく考えると、河馬の尻尾って糞をビュンビュンとまき散らす鞭のようなアレですよね。あれのような雲?
◎(敏)何より、雲の形を「河馬の尻尾」と捉えたところがユニークな新春詠。
◯(道人)河馬の尻尾の比喩が佳いです。「な」ではなく、動きのある「に」が巧い。
〇(宙虫)おおらかさが素晴らしい。
(選外)(藤三彩)「一陽来復(いちようらいふく)」が金運お守りと知ってもわからない
蝦蛄葉仙人掌に新調の鉢与ふ ちせい
電柱の十字架アフガンは冬か 楊子
○(あちゃこ)世界は一つ。
◎(泉)電柱が十字架で、アフガンですか。例の殺害事件でしょうか。
◎(珠子)転換の見事さ。「冬」が効いています。
◎(道人)この写真から、中村医師への追悼句まで飛ばせるのが素晴らしい。
◎(仙翁)電柱の十字架、確かに見えますね。
○(ルカ)中村哲さん。偉大なる方に合掌。
◎(アゼリア) そう言えば十字架っぽいですね。中村哲さんのことは忘れません。
◯(アネモネ)「アフガンは冬か」のインパクト。
〇(宙虫)アフガンに電柱が連なっていく作りがいい。
災害の傷跡晒し山眠る アゼリア
◎(春生)まだまだ、昨年の水害の傷は癒えませんね。
○(敏)露わになった山肌を「災害の傷跡」と、昨今の事象を見据えた時局詠にもなっていますね。
〇 (多実生) 町村に山畑に痛ましい傷跡です。
◯(アネモネ)「災害の傷跡」に心が痛みます。
足音と落葉を鳴らす風の音 多実生
〇(ちせい)季語は「落葉」。風に舞う落葉。自然に翻弄される植物。
コーヒーミル回す窓辺や冬籠り 敏
〇(藤三彩)冬日向の中で静かに暮らしている姿が見えます
〇(まきえっと)珈琲の香りも漂ってきます。
〇(宙虫)何気ない景だが、窓辺の暖かさが伝わる。
満開の仙人掌メリークリスマス アネモネ
◎(ルカ)くりぼっちにとっては、いつもの一日でもあるクリスマス。この他人事のサラッと感に共感します。
室の花訪なふ人もなかりけり 春生
○(仙翁)誰も来なくても、花に和みます。
○(ルカ)水枯れの室の花。余計に寂しそう。
◯(アネモネ)「室の花」の季語がいいですね。
山眠るゴルフ場だけ騒がしく 泉
〇 (多実生) 今のゴルフ場は知りませんが掲句の通り様です。
冬空や空飛ぶゴリラの雲の型 ちせい
木立縫い届く初日の気息かな あちゃこ
○(敏)「初日の気息」に新年の喜びが溢れています。
○(仙翁)窓に届く光が、上手く描かれています。
〇(ちせい)季語は「初日」。気息から白息などほかの季語も思い浮かびました。
◯ (アゼリア) 初日の気息ー素敵な措辞ですね。
寒林の向こうの向こう母郷かな 道人
○(珠子)山のあなたの空遠くあるものは、幸いとも母郷とも。「向こうの向こう」が切ない。♪はよもいきたや この在所越えて むこうに見えるは 親のうち♪ 竹田の子守唄のよう。
○(幹夫)景と心情が佳く詠まれている。
◎(餡子)故郷を想う気持ちがひしひしと伝わる句です。
〇(楊子)母郷というあたたかさと寒林の取り合わせがいい。
◯ (アゼリア) 飛んで行きたくなります。
〇(宙虫)目線が寒林の向こうへ向こうへと入り込んで心象風景が浮かぶ。
果樹園の裸木雲を纏い眠る 藤三彩
○(仙翁)雲を纏う、面白い表現ですね。
〇(まきえっと)また来年も美味しい果実をつけてください。
寒林の一樹に凭れ旅人は 幹夫
〇(道人)下五の後に想像力が広がり、旅心がそそられます。
○(仙翁)そんな旅人も、いるでしょう。
○(ルカ)ロマンチックですが、ロマンに流されず、寒林が効いてます。
冬うらら森の寝息が届く窓 宙虫
◎(あちゃこ)静けさが際立つ森の寝息。幸福感も伝わります。
○(泉)メルヘンの様な俳句だと思います。
○(珠子)あの三枚の写真を合わせるとまさにこういう雰囲気です。
○(敏)「森の寝息」に「冬うらら」を実感されたのでしょう。
◯(道人)森の息遣いが聞こえる生活ですね。身も心もゆるやかになって来ます。
〇 (多実生) 風のない冬日、落葉踏むのも気が引ける静かさです。
〇(楊子)冬の日差しのなかで静かな景色が窓辺にとどく。
〇(まきえっと)冬の気配を感じます。
珈琲の香に守られて室の花 仙翁
〇(藤三彩)コーヒーの種類はなんだろう。マンデリンの味香りが好きなんですが
冬耕の人影ひとつ兄だろう 珠子
○(泉)作者は故郷の村へ帰省したのでしょうか。
〇(春生)自然体の詠い方が決まっています。
〇(藤三彩)兄弟が傍に住んでいる光景かしら。来年は何を植えるのだろう
○(餡子)まだまだ畑の仕事はあるのでしょうね。暖かい部屋から兄の動きを慈しみ深く見守る帰省中の妹。
◎(楊子)なんといっても「兄」の措辞が効いている。当然、肉親の兄ではない。脈々と続く系譜が冬耕とリンクする。
◯ (アゼリア) 勤勉で優しいおにいさんですね。
◎(まきえっと)下五の「兄だろう」への展開がいいですね。
〇(宙虫)兄を持ってきたところが憎い!
裸木の見通しのよき不安感 まきえっと
〇(藤三彩)見え過ぎて外からも見られてしまう
○(幹夫)季語が適切。
◎ (多実生) そうです。同感です。呑み込まれる様な感覚です。
〇(ちせい)季語は「裸木」。わかる気がします。不安を消そうとして起こる不安みたいな。
冬ざれの窓を引き締め赤き花 餡子
〇(幹夫)写真の景がよく詠まれている。
冬日差す出窓に阿吽鎮座する 楊子
○(あちゃこ)淑気をこのように表現したのでしょう。なるほど
○(ルカ)冬日が効いてます。
冬ざれのコーヒーミルの音かすか ルカ
○(餡子)外と部屋の中の温度差がばっちり詠まれています。
〇(楊子)ガリガリという音と冬ざれの濁音が響き合っている。
それにしても、中東は緊迫して来ました。お互いに戦争は避けたいでしょうが、何が起こるか分かりません。平和な日本で、俳句が詠めることが本当にありがたい、と思います。