つづき
声のせぬエスカレーター秋の雨 めたもん
○(仙翁)人のいない、それとも人がいても声がしない、雨のせい。
◯(ルカ)ドラマ性あり。
ジグザグに行き交うだけの文化の日 あちゃこ
◎(敏)いわれてみれば「文化」という言葉は抽象的ですね。あれは文化?これも文化?どれが文化?と思考そのものがジグザクなのでしょう。
〇(藤三彩)十月末のハロウィンの狂想曲のような騒乱が過ぎて文化の日は穏やかな秋の日、午後四時半で焼鳥屋が一杯だったのには驚いた。
〇(まきえっと)「だけ」が効果的です。
○(宙虫)文化は時代の波にジグザグと、ある時肯定され、ある時否定され。
秋天にビルの語らい続きおり 餡子
天高し真空となる頭頂部 楊子
○(泉)意味不明ですが、魅力的な俳句だと思います。
○(卯平)「真空」と「天高し」は少々近似の世界ではあるが「頭頂部」から得る「天高し」の季語と「真空」のヒトへの還元は納得する。
○(あちゃこ)独特な感性で掴んだ中七に共感。
爪切つて放心してる十一月 瞳人
〇(楊子)この句の意味のとりかたは人それぞれかもしれません。ただわたしには響きました。
◎(仙翁)爪を切って放心している、ありそうでなさそうで面白い。
○(敏)暮れ近い十一月に爪を切るという行為そのものに放心しているのです作者は。
◎(あちゃこ)共感の一句。ぽっかりと穴が空いたような無力感。
◎(宙虫)十一月ならではの空気が伝わる。
(選外)(卯平)爪を切って放心するのは他の月でもあるだろう。しかし何らかの詩情を得る句材ではある。推敲すれば詩を得るのではないだろうか。
宇宙へと向かう列車や星月夜 カンナ
〇(瞳人)乗ってみたいけど、行き先コワイ?
○(餡子)わたしも、このななつ星の景から、賢治の銀河鉄道を想起しました。
群青は涙色とも秋の果 道人
◯(アネモネ)群青はちょっと濃過ぎとは思いつつも!
◯ (アゼリア) 群青は涙色ー素敵な措辞と思いました。
(選外)(卯平)「群青」と「秋の果」の間は甘さがあるがそれなりに詩を感じる。しかし「涙色」とまで言うと緊張感がなくなるのでは
お互ひに素知らぬ神や秋の川 卯平
ななつ星横目に乗りぬ着膨れラッシュ アゼリア
○(泉)ユーモラスな俳句だと思います。
◎(餡子)勤めていた頃の朝の通勤ラッシュ!鞄が遠くに行ってしまって戻せない・・・。庶民にはななつ星は高嶺の花。でもいつかきっとと思っています。予約が先の先まで埋まっているとか。
〇(あき子)夢と現実。いつかは乗りたいななつ星。
電車着く秋風の根が現れて ちせい
冬あたたか同じ間取りに似た家族 あき子
〇(楊子)違うようで案外同じ暮らしをしているものです。まして同じ間取りだったらとうなずけます。
○(幹夫)画一的なマンションの間取りにも、それぞれの家族が居住する。作者はそれら家族が似ていると捉えた。
◎(卯平)家族関係をどう読み解くか等の謎がこの句の魅力。季語もそれなりに納得する
〇(珠子)マンションの窓の灯を見上げながら、「団らんの灯であってほしいなあ」と思うことはしばしばあります。
○(餡子)いわゆる団地と言われていた昔の間取りは本当におなじ規格でしたね。同じような家族・・。そして今は老人世帯が殆ど。空き室も増え、どのように活性化させるかが大きな問題になってきています。
◎(ルカ)幸せの色はどこか似通って。
◯(道人)小さなマンションの小さな家庭の小さな幸せ。ほのぼのする句。
◯ (アゼリア) 平凡が幸せですね。
○(宙虫)日本の住宅事情家族事情が見える。
天高し硝子の街に生き延びて あちゃこ
○(卯平)「硝子の街」とはビル群の事であろうか。そこは納得するが「生き延びて」まで言われると梯子を外された感じはする。しかし、「生き延びる」と「天高し」の間の断絶は捨てがたいかも知れない。そうなると「硝子の街」が生きてこない。観賞に消化不良を感じる。
〇(めたもん)疎外感のある「硝子の街」。そこに生きていくことへの前向きな諦念を感じます。
〇(あき子)「生き延びて」はこのところの実感がこもる言葉。
○(ちせい)感慨と言うか、冷めた視線が有るのかもしれません。天高しと言う季語からすっと「硝子」が出て来て連動性が高い。
○(宙虫)生き延びることと硝子のもろさが切ない。
やや寒の信号青なれば行くか めたもん
◎(楊子)自分に語る「か」が効いています。こうして日々の暮らしが繰り返されてゆきます。
◯(アネモネ)「やや寒」の季語が怖い。
〇(珠子)「うしろすがたのしぐれてゆくか」の山頭火を気どっているのでしょうか。行く先は自宅でしょうか、それとも赤提灯?
〇(あき子)信号が青になったから行く、それだけなのに面白い。「やや寒の」が軽くて調和している。
晩秋のアルバムに貼る「ななつ星」 まきえっと
〇(カンナ)無駄なく完成された句。秋の夜、思い出のアルバムを開く情景が浮びます。
威風堂々冬銀河行き寝台車 珠子
◎(泉)ロマンにあふれた俳句だと思います。
〇(まきえっと)こういう列車に乗ってみたいです。「威風堂々」がぴったりです。
○(あちゃこ)正に威風堂々。音楽が流れてくる。
十月の星の列車の運転士 ルカ
◎(あき子)素直に写生していてかつ、童話の世界が現れてくる不思議な清々しい句。「の」でつなげたのがよかった。
(選外)(卯平)宮沢賢治の世界か。であれば季語の斡旋を推敲すればそれなりに詩情を得るのではないだろうか。
鉄路にも七つ星あり星月夜 仙翁
〇(カンナ)星夜の情景が浮びます。
一層の路線点検冬隣 敏
○(泉)地道な作業が鉄道を支えています。
◯(アネモネ)「一層の点検」に安心しました
◯ (アゼリア) こういう地道な努力に感謝です。
○(ちせい)そうですね、広軌チェックなど欠かせません。秋が終わる感慨が伝わって来ました。
〇(藤三彩)降雪や凍雪から線路を守るお仕事の方々お疲れ様です。
オリオン探す三泊四日のななつ星 藤三彩
○(餡子)3泊4日のななつ星の旅・・・。わ・わ・わ・−お値段を見てびっくり。
◯ (アゼリア) こういう旅があったら貯金はたいても行きたいです。
戦火まだ停まずガガーリンの青 楊子
○(幹夫)「地球は青かった。」が有名なソ連のガガーリンの世界初有人宇宙飛行から60余年が経った。「ここに神は見当たらない。」とも言った彼が今のロシアの暴挙を見て如何思うだろうか。無季の句乍ら共感した。
◎(カンナ)ガガーリンが世界初の宇宙飛行に成功したのは今から60年前。現代から60年前に、一気に時を跳び越える大胆な飛躍と省略の技術に感服。
◯(道人)平和な時代の象徴のような「地球は青かった」も色褪せるような今のウクライナ戦争。ガガーリンが生きていればどう思ったであろうか。
○(宙虫)「ガガーリンの青」。宇宙の軍事利用も進んでいる時代に響く。
草の実が空をさまようクロワッサン 宙虫
○(敏)いくら小さい草の実といっても重量はあります。飛び散るということはあっても「空をさまよう」なんてことは有り得ない光景。さまよっているのはクロワッサンを頬張っている作者自身のこころかも知れません。
○(あちゃこ)写真からの発想の飛躍がすごい。
◯(道人)現代人の秋思。「クロワッサン」への転換がいい。
○(ちせい)投げ合いっこか、風に乗ってか、何れにしても、座5のクロワッサンに詩性を感じました。
交差するエスカレーター冬立つ日 アネモネ
○(仙翁)交差しているエレベーター、何となく気恥ずかしいですね。
◯(ルカ)何かがはじまりそうです。
○(餡子)ほんの一瞬の交差。何処のどなたか解らない人とのすれ違い。ドラマだったら、ここからドラマが始まるのですね。
◎(まきえっと)「交差」と「冬立つ日」がよく合っています。
(選外)(道人)実際はエスカレーターではなく人が交差するのだろう。やや気分が慌しくなった立冬という日の感覚をよく捉えている。
地球儀の傾き加減天高し 幹夫
〇(楊子)はっと気づきました、傾いた向こう側は天高しなのだろうかと。理屈と思いが不思議にリンクしています。
○(仙翁)斜めに伸びるビルですね。地球のせいです。
○(敏)地球儀は地軸の傾きを模して23度半傾けてあるはず。その傾斜角に身体を合わせてみると秋の空は益々高かった、というのは私自信の同一体験でもありました。
◯(ルカ)いいことがありそうな一日。
〇(まきえっと)天に向かって伸びている写真から「傾き加減」を感じる目の付けどころがいいですね。
ジーンズの深きかぎ裂き冬隣 アネモネ
○(幹夫)3枚の写真中真ん中のエスカレーターの写真から発想の句なのでしょう。「冬隣」の季語が適っている。
〇(カンナ)季語との取合せが良いと思います。
○(敏)かぎ裂きのGパンを履いた人物といえば、かつてのアメリカの映画俳優などが思いだされますが、季語からもうそろそろ想い出の領域に入る事物と見ているのかも知れません。
〇(藤三彩)昔ならバンガラな男子が破風のジーンズを穿いていてもおかしくなかったが、今では若い女性がお臍を出して膝小僧を見せている。
◯(道人)ジーンズは春夏秋冬なくてはならないものなのだろう。「深きかぎ裂き」は色々深読み出来そう。
十月のエスカレーターすれ違ふ ルカ
〇(瞳人)世の中、すれ違いばかりだよ、ね
○(餡子)もう一つのエスカレーターの句と捉え方が同じですね。いつも使っているエスカレーターですが、あの写真からは思いも掛けない人生模様が感じられました。
清張の挑む古代史神の旅 あき子
○(泉)「点と線」は鉄道推理小説の傑作ですね。
○(卯平)清張の著作から得たこの季語だろう。「古代史」もこの季語と緩く咬んでいる。そこをどう採るかだろう。句材の選択には共鳴する。
◎ (アゼリア) 未だ読んでませんが面白そうですね。早速買って読みます。
◎(藤三彩)『火の回路』『古代探求』などなどチャリで飛鳥を回って古代を堪能した昔日がありました。
成功は努力と運や夜学生 泉
〇(藤三彩)予備校の問題が本試験に出ていて「やったー!」という感じのときもあるよね。
ななつ星賢治の銀河に旅立ちぬ 餡子
〇(藤三彩)宮沢賢治の銀河鉄道が 漫画「銀河鉄道999」(松本零士)の大宇宙へとつながってゆく。日本の文化の伝承ここにアリ。
〇(珠子)私も真っ先に賢治の銀河を思いましたが、こんな風にすっきり仕立てられませんでした。
背を運ぶエスカレーター冬隣 珠子
○(卯平)この写真から得た上五中七の景は納得。冬隣が適切かどうかはまだ推敲の余地はあるだろう。しかし「エレベータ」が季節の変わり目を暗示しているとも取れる。そこはこの句の眼目だろう。が、そうなると「背を運ぶ」が少々技巧的となり最終的な全面的共感へは至らない。
○(仙翁)足から運ばれるけれど、背中が押されているようで。
◯(ルカ)上五がいいですね。
◎(めたもん)上五が上手い。流れていく人の後ろ姿に「冬隣」を見出す感性が素晴らしい。
〇(まきえっと)決して背を運んでいるのではないのに、そう感じ取ったところがよいですね。
今月の写真
JR熊本駅周辺で撮影。
3枚目はご存じJR九州の豪華観光列車
クルーズトレイン「ななつ星」
熊本駅ホームで出会った
https://www.cruisetrain-sevenstars.jp/
広島は晴天が続いて、昼間はまだまだ気温が上がります。朝夕との寒暖差が大きいです。しかし、冬支度に忙しい地方もあるでしょう。九州には、「ななつ星」という豪華列車があるんですね。イヤ、驚きました。