古 墳 少 女 佑 奈4 その4
第4章 名探偵 茜
それからも茜は1日1回用もないのに2年2組の前を通って横目で佑奈の様子を伺っていた。佑奈はそんな茜のことにはまったく気付いていなかった。泉崎礼香や高田瑞穂とおしゃべりする佑奈はとても楽しそうだ。自分もあの輪の中に入れたらどんなにいいかと茜はいつも思った。茜は佑奈のことを廊下から横目で見るたげの自分がはがゆかった。茜は佑奈のことをもっと知りたいと思った。一体どんな家に佑奈は住んでいるのだろう? 兄弟姉妹はいるのだろうか。趣味は何だろう。茜は佑奈のことを何も知らないことに気付いた。
*** 茜の日記 *************
今日も佑奈お姉様の教室に行ったの。
佑奈お姉様が偶然廊下に出ていらして目が合いそうになり
あわてて目を逸らしたの。
気付かれちゃったかしら?
**********************
その日から茜は放課後大塚中学校の図書室にこもって宿題や明日の予習をすることにした。いつもは家に帰ってからしているのだが、図書室で吹奏楽部の練習が終わるのを待っているのだ。吹奏楽部の練習が終わり楽器の音がやむと茜は宿題を片付けて2年生の昇降口付近に移動して佑奈が出てくるのを待っていた。待つこと15分、佑奈は礼香と瑞穂を伴って昇降口に現れ3人で楽しそうにおしゃべりしながら大塚亀山古墳の後円部を回り込むようにして帰ってゆく。茜も約20m後から気配を殺してついてゆく。途中で礼香・瑞穂と別れて佑奈は一人になる。佑奈は途中一度も振り返る事なく茜の尾行に気付かぬ様子で大塚町の家に帰っていった。それを電柱の影に隠れて見ていた茜は「佑奈お姉様ってわたくしの家からそんなに遠くないところに住んでいらしたのね。これも神様のお引き合わせに違いないわ」と思い家に帰っていった。
*** 茜の日記 *************
今日初めて佑奈お姉様と一緒に帰ったの。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様のお住まいは大塚町で
意外とわたくしの家に近かったわ。
きっと二人は赤い糸で結ばれているのよ。
**********************
その翌朝茜はいつもよりも早く家を出て佑奈の家の玄関が見える電柱の影に潜んでいた。
「早く佑奈お姉様が出てらっしゃらないかしら」
とつぶやきながら茜は待っていた。しかし遅刻ぎりぎりのタイミングになっても佑奈は出てこない。
「早くしないと佑奈お姉様遅刻になってしまうけれどどうしたのかしら? お加減悪くて今日はおやすみかな? あと100数えて佑奈お姉様が出てらっしゃらなければ一人で登校しよう」
と思っているとバタンと音をたてて上月家の玄関が開きセーラー服のスカーフを結びながら佑奈が一目散に大塚中学校へ走っていく。茜は反射的に電柱の影に身を隠したが、大慌ての佑奈の視界には全く茜の姿は入っていなかった。我に返った茜も急いで大塚中学校に向かい走った。
1年3組の教室に茜が着くと莉奈が
「茜ちん今朝は寝坊したんでしょう」
といつも早くから教室に来ている茜が遅刻ギリギリでしかもはぁはぁと荒い息をしていて走ってきたので滑り込みセーフといった風情だ。茜は佑奈を張り込んでいたとは言えないから
「う、うん そうなの」
ととりつくろった。
*** 茜の日記 *************
今日は佑奈お姉様をお家まで迎えにいったの。(【注】張り込んだだけ)
佑奈お姉様は遅刻ぎりぎりに大慌てで走って登校されていたわ。
わたくしも危うく遅刻するところだったわ。
**********************
最近尾行や張り込みをしている成果で佑奈のことがいろいろとわかってきたから茜はご機嫌だった。それを莉奈は
「ははーん、茜ちん彼氏にコクッてうまくいったんでしょ」
「えぇっ?! そんなんじゃないわ」
「一頃落ち込んでいたのに最近ご機嫌じゃないの」
「ちっ、違うってば」
「今鼻歌歌ってたよ」
「うそっ」
「誰なのよ。茜ちんの彼氏は?」
「だから、そんなんじゃないわよ」
「隠さなくってもいいじゃないの。あたしたち親友でしょ」
「だからぁ」
そこでチャイムが鳴り次の時間の先生が教室に入ってきたので莉奈の追及も沙汰やみになった。茜はチャイムに救われた。
*** 茜の日記 *************
今日は体育から戻ってきた佑奈お姉様と廊下ですれ違うことができたわ。
校庭を何週も走ってらしたから
佑奈お姉様はとても疲れたご様子だったの。
とてもうれしかったわ。
**********************
「っ!」
ある日の下校途中、上月佑奈は殺気のような熱い視線を感じ振り返った。しかしそこには誰の姿もなかった。一緒に歩いていた高田瑞穂が不思議そうに
「佑奈どうしたの?」
「ううん、なんか殺気を感じて」
「やだぁ、またどっかの国の工作員?」
佑奈の持つ腕輪の力を悪用しようとたくらむ外国の工作員がいつも登下校中の佑奈にちょっかい出してきているのだ。
「それにしては殺気むき出しだしねぇ」
実はその視線の主は長谷川茜だったのだ。佑奈が振り返るのより一瞬早く茜は近くの路地に逃げ込んでいたので茜は佑奈に発見されずにすんだのだ。瑞穂が
「まっ、なんでもいいじゃん。術でびびーっとやっつけちゃえば」
「そーよねー」
と話す佑奈に礼香が
「佑奈だめよ。無闇に術を使っちゃ。ご町内の皆様に迷惑になるわ」
「だって向こうからか弱い乙女を襲ってくるんだよ」
「だれが『か弱い乙女』なのよ」
瑞穂がまぜっ返す。
「もしかしたら佑奈のファンかもよ」
と言う礼香に瑞穂が
「そんなのいるわけないじゃん」
とまぜっかえす。礼香は茜の尾行に気付いているわけではなかったが用もないのに2年2組の教室の前にやってきてちらちらと佑奈の様子を見ている1年生(長谷川茜)の存在に気付いていたのでなんとなく茜のような気がしていたのだ。
*** 茜の日記 *************
今日も佑奈お姉様といっしょに帰った。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様は泉崎先輩と高田先輩とおしゃべりしていたわ。
途中、不意に佑奈お姉様が振り返ったのでびっくりしたの。
路地に逃げ込んだので見つからなかったようだけど
死ぬかと思ったわ。
**********************
その週の日曜日、もちろん授業はない。だから茜は佑奈とは会えない。茜は佑奈お姉様は日曜日にどうしていらっしゃるのかしらと思った。
「あぁ、佑奈お姉様…」
そう思ったらやもたてもいられず無性に佑奈お姉様の顔を見たくなってしまった。日曜日にお家まで行ったらご迷惑になるわ。でも遠巻きに眺めるだけなら佑奈お姉様のご迷惑にはならないはず…。そんなふうに茜は自分を正当化して佑奈の家に出かけることにした。茜はまるで彼氏とデートにゆくかのごとく少ないワードローブをたんすから出して別に佑奈と会うわけでもないのにあれやこれやとコーディネートに悩んだ。約40分かけて茜は緑のタータンチェックのシャツワンピースにピンクの丸首カーディガンを羽織って、黄色い靴下によそゆき用の黒ローファーを履き出かけた。茜の家から佑奈の家まで普通に歩いて3~4分だ。茜は胸がドキドキドキドキしている。もし佑奈お姉様に見つかったら言い訳ができないからよそうかと何度も立ち止まって考える。歩いては止まり考え込むからなかなか足が進まない。それでも佑奈お姉様に会いたい!という茜の一念が茜を上月家に押し進めた。
吹奏楽部の練習がお休みで佑奈は礼香や瑞穂と出かける約束もなかったので家にいた。茜が恐るおそる上月家に接近する。近くの電柱に隠れて様子を窺うと二階の佑奈の部屋の窓に灰色のスェットスーツを着た佑奈の姿が見えた。
「佑奈お姉様…」
茜はそうつぶやきながらるると涙した。月曜日学校にゆけば会えるのになんで涙があふれてくるのだろう? 茜はただただ涙を流し立ち尽くした。しかし道ゆく人の、なんでこの子はこんなところに泣きながら立っているんだろう?という視線に茜は我に返り、ひとつところにずっといたら目立ってしまうことに思い至り、あわててハンカチで涙をぬぐうと何事もなかったように装いながら上月家の前を立ち去った。佑奈お姉様に会えてよかったという思いを胸に。
*** 茜の日記 *************
今日は学校のない日曜日。
佑奈お姉様にどうしても会いたくてお家の前まで行ってしまったの。
二階の窓辺に佑奈お姉様のお姿を見られ
とてもうれしくて泣いてしまったの。
泣いているところを佑奈お姉様に見られなかったかしら?
恥ずかしいわ。
**********************
第5章 佑奈の乱闘へ
第4章 名探偵 茜
それからも茜は1日1回用もないのに2年2組の前を通って横目で佑奈の様子を伺っていた。佑奈はそんな茜のことにはまったく気付いていなかった。泉崎礼香や高田瑞穂とおしゃべりする佑奈はとても楽しそうだ。自分もあの輪の中に入れたらどんなにいいかと茜はいつも思った。茜は佑奈のことを廊下から横目で見るたげの自分がはがゆかった。茜は佑奈のことをもっと知りたいと思った。一体どんな家に佑奈は住んでいるのだろう? 兄弟姉妹はいるのだろうか。趣味は何だろう。茜は佑奈のことを何も知らないことに気付いた。
*** 茜の日記 *************
今日も佑奈お姉様の教室に行ったの。
佑奈お姉様が偶然廊下に出ていらして目が合いそうになり
あわてて目を逸らしたの。
気付かれちゃったかしら?
**********************
その日から茜は放課後大塚中学校の図書室にこもって宿題や明日の予習をすることにした。いつもは家に帰ってからしているのだが、図書室で吹奏楽部の練習が終わるのを待っているのだ。吹奏楽部の練習が終わり楽器の音がやむと茜は宿題を片付けて2年生の昇降口付近に移動して佑奈が出てくるのを待っていた。待つこと15分、佑奈は礼香と瑞穂を伴って昇降口に現れ3人で楽しそうにおしゃべりしながら大塚亀山古墳の後円部を回り込むようにして帰ってゆく。茜も約20m後から気配を殺してついてゆく。途中で礼香・瑞穂と別れて佑奈は一人になる。佑奈は途中一度も振り返る事なく茜の尾行に気付かぬ様子で大塚町の家に帰っていった。それを電柱の影に隠れて見ていた茜は「佑奈お姉様ってわたくしの家からそんなに遠くないところに住んでいらしたのね。これも神様のお引き合わせに違いないわ」と思い家に帰っていった。
*** 茜の日記 *************
今日初めて佑奈お姉様と一緒に帰ったの。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様のお住まいは大塚町で
意外とわたくしの家に近かったわ。
きっと二人は赤い糸で結ばれているのよ。
**********************
その翌朝茜はいつもよりも早く家を出て佑奈の家の玄関が見える電柱の影に潜んでいた。
「早く佑奈お姉様が出てらっしゃらないかしら」
とつぶやきながら茜は待っていた。しかし遅刻ぎりぎりのタイミングになっても佑奈は出てこない。
「早くしないと佑奈お姉様遅刻になってしまうけれどどうしたのかしら? お加減悪くて今日はおやすみかな? あと100数えて佑奈お姉様が出てらっしゃらなければ一人で登校しよう」
と思っているとバタンと音をたてて上月家の玄関が開きセーラー服のスカーフを結びながら佑奈が一目散に大塚中学校へ走っていく。茜は反射的に電柱の影に身を隠したが、大慌ての佑奈の視界には全く茜の姿は入っていなかった。我に返った茜も急いで大塚中学校に向かい走った。
1年3組の教室に茜が着くと莉奈が
「茜ちん今朝は寝坊したんでしょう」
といつも早くから教室に来ている茜が遅刻ギリギリでしかもはぁはぁと荒い息をしていて走ってきたので滑り込みセーフといった風情だ。茜は佑奈を張り込んでいたとは言えないから
「う、うん そうなの」
ととりつくろった。
*** 茜の日記 *************
今日は佑奈お姉様をお家まで迎えにいったの。(【注】張り込んだだけ)
佑奈お姉様は遅刻ぎりぎりに大慌てで走って登校されていたわ。
わたくしも危うく遅刻するところだったわ。
**********************
最近尾行や張り込みをしている成果で佑奈のことがいろいろとわかってきたから茜はご機嫌だった。それを莉奈は
「ははーん、茜ちん彼氏にコクッてうまくいったんでしょ」
「えぇっ?! そんなんじゃないわ」
「一頃落ち込んでいたのに最近ご機嫌じゃないの」
「ちっ、違うってば」
「今鼻歌歌ってたよ」
「うそっ」
「誰なのよ。茜ちんの彼氏は?」
「だから、そんなんじゃないわよ」
「隠さなくってもいいじゃないの。あたしたち親友でしょ」
「だからぁ」
そこでチャイムが鳴り次の時間の先生が教室に入ってきたので莉奈の追及も沙汰やみになった。茜はチャイムに救われた。
*** 茜の日記 *************
今日は体育から戻ってきた佑奈お姉様と廊下ですれ違うことができたわ。
校庭を何週も走ってらしたから
佑奈お姉様はとても疲れたご様子だったの。
とてもうれしかったわ。
**********************
「っ!」
ある日の下校途中、上月佑奈は殺気のような熱い視線を感じ振り返った。しかしそこには誰の姿もなかった。一緒に歩いていた高田瑞穂が不思議そうに
「佑奈どうしたの?」
「ううん、なんか殺気を感じて」
「やだぁ、またどっかの国の工作員?」
佑奈の持つ腕輪の力を悪用しようとたくらむ外国の工作員がいつも登下校中の佑奈にちょっかい出してきているのだ。
「それにしては殺気むき出しだしねぇ」
実はその視線の主は長谷川茜だったのだ。佑奈が振り返るのより一瞬早く茜は近くの路地に逃げ込んでいたので茜は佑奈に発見されずにすんだのだ。瑞穂が
「まっ、なんでもいいじゃん。術でびびーっとやっつけちゃえば」
「そーよねー」
と話す佑奈に礼香が
「佑奈だめよ。無闇に術を使っちゃ。ご町内の皆様に迷惑になるわ」
「だって向こうからか弱い乙女を襲ってくるんだよ」
「だれが『か弱い乙女』なのよ」
瑞穂がまぜっ返す。
「もしかしたら佑奈のファンかもよ」
と言う礼香に瑞穂が
「そんなのいるわけないじゃん」
とまぜっかえす。礼香は茜の尾行に気付いているわけではなかったが用もないのに2年2組の教室の前にやってきてちらちらと佑奈の様子を見ている1年生(長谷川茜)の存在に気付いていたのでなんとなく茜のような気がしていたのだ。
*** 茜の日記 *************
今日も佑奈お姉様といっしょに帰った。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様は泉崎先輩と高田先輩とおしゃべりしていたわ。
途中、不意に佑奈お姉様が振り返ったのでびっくりしたの。
路地に逃げ込んだので見つからなかったようだけど
死ぬかと思ったわ。
**********************
その週の日曜日、もちろん授業はない。だから茜は佑奈とは会えない。茜は佑奈お姉様は日曜日にどうしていらっしゃるのかしらと思った。
「あぁ、佑奈お姉様…」
そう思ったらやもたてもいられず無性に佑奈お姉様の顔を見たくなってしまった。日曜日にお家まで行ったらご迷惑になるわ。でも遠巻きに眺めるだけなら佑奈お姉様のご迷惑にはならないはず…。そんなふうに茜は自分を正当化して佑奈の家に出かけることにした。茜はまるで彼氏とデートにゆくかのごとく少ないワードローブをたんすから出して別に佑奈と会うわけでもないのにあれやこれやとコーディネートに悩んだ。約40分かけて茜は緑のタータンチェックのシャツワンピースにピンクの丸首カーディガンを羽織って、黄色い靴下によそゆき用の黒ローファーを履き出かけた。茜の家から佑奈の家まで普通に歩いて3~4分だ。茜は胸がドキドキドキドキしている。もし佑奈お姉様に見つかったら言い訳ができないからよそうかと何度も立ち止まって考える。歩いては止まり考え込むからなかなか足が進まない。それでも佑奈お姉様に会いたい!という茜の一念が茜を上月家に押し進めた。
吹奏楽部の練習がお休みで佑奈は礼香や瑞穂と出かける約束もなかったので家にいた。茜が恐るおそる上月家に接近する。近くの電柱に隠れて様子を窺うと二階の佑奈の部屋の窓に灰色のスェットスーツを着た佑奈の姿が見えた。
「佑奈お姉様…」
茜はそうつぶやきながらるると涙した。月曜日学校にゆけば会えるのになんで涙があふれてくるのだろう? 茜はただただ涙を流し立ち尽くした。しかし道ゆく人の、なんでこの子はこんなところに泣きながら立っているんだろう?という視線に茜は我に返り、ひとつところにずっといたら目立ってしまうことに思い至り、あわててハンカチで涙をぬぐうと何事もなかったように装いながら上月家の前を立ち去った。佑奈お姉様に会えてよかったという思いを胸に。
*** 茜の日記 *************
今日は学校のない日曜日。
佑奈お姉様にどうしても会いたくてお家の前まで行ってしまったの。
二階の窓辺に佑奈お姉様のお姿を見られ
とてもうれしくて泣いてしまったの。
泣いているところを佑奈お姉様に見られなかったかしら?
恥ずかしいわ。
**********************
第5章 佑奈の乱闘へ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます