新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代72「不動産業者との交渉の行方」

●不動産業者との交渉の行方

 昨晩の秋の暴風雨でトタン屋根がめくれ上がったために、雨水の流れ込みにより四方の壁の天井報から何か所にも逆三角形の模様のように付いた黒い滲み跡を眺めながら、このアパートを借りる時に仲介してくれた不動産業者が駆けつけてくれるのを待つ間、これから先どうしたものかと思案していた。
 普通に考えれば、替りとなる空き部屋の斡旋を受けて引っ越すことになるのだろうが、つい数か月前に当該業者の手持ちの空き物件を幾つか見た上で決めたのがこの部屋であり、他にはここに準じて住みたいと思えるほどの部屋は無かった。それ以来、人事異動や転居の多い春先を跨いでいないので、私に手が出せる範囲で良い出物があるとは考えにくい。
 そうなると、次に良い物件が流通する春先まであと3か月程度を雨漏りのするこの部屋で耐えて、好条件の部屋を優先的に斡旋してもらうことが良いかもしれない。私は、しょせん独身男の一人暮らしであり、唯一財産らしいと言える精密機械のオーディオセットさえ湿気から守ることができれば、他に大した家財道具も無い。雨漏りの応急処置くらいはしてくれるだろうから、暫くの間を暮らしていけなくもなさそうだ。
 ただし、今回恐ろしい目に遭わされたこの災厄をタダで済ませるわけにはいくまい。思ったほど見た目に深刻な被害が出ていないことをとらまえて、僅かな額の商品券とか菓子折り程度でお茶を濁されては困る。私は、本当のところの実害を浮き彫りにして、家主なり不動産業者に提示しないといけないなあと考え始めていた。
 そんな風に少しずつ自分なりの考えが整理できて来た頃合いで、ドアをノックする音が聞こえてきた。開ければ見慣れた不動産業者の男性が一人。このアパートを借りるに際して物件周りに同行してくれたり契約書を整えてくれたりして以来だ。個人経営のような業者だからこの40歳代と思しき男性が、社長とはいえ何事でも一人で対応することが多いようだ。この部屋に関して一貫してやり取りしてきた相手であり、責任ある対応のできる社長なので、交渉するには都合が良い。
 社長は私に対するお見舞いを丁寧に述べると、家主へ速報が必要なのでと部屋の中を見せてくれと入ってきた。「夜中にこんなことになっては大変だったね」と軽くない事案であると受け止めてはいるようだ。一方で「この部屋は電気も水道も生きているね」と生活できないことは無いといったニュアンスに続けて、「屋根は午前中に業者にビニールシートを張らせて雨漏りはしないようにさせる手はずだ」と言い、更に続けた「貴方としての希望はありますか」。
 さすがは色々な人を相手に経験も深い不動産業者。ポイントとなる論点を的確に指摘して単刀直入に私に問いかけてきた。回りくどかったり冗長な話で時間を徒費することが最も嫌いな私には子気味が良かった。先ずは「代替で直ぐに移れるアパート部屋はあるか」と問うと予想通り「先日見て回った物件くらいだ」との返答。直ぐに「それらはどれも条件が合わないものとして除外した部屋であり、今回のような被害を受けた立場としては、好条件のものを用意してくれないか」と強気に返してみた。
 業者も大学生時代からの付き合いでもある私が大人しく言うなりになる人間だとは思っていなかったのであろう、暫く腕組みして思案すると「それならば」と切り出した。「現在建築中の新しいアパートの借主の仲介を頼まれている。住宅地の中合で主要道からは奥まっているが貴方の職場である県庁にはこの部屋よりも近い。部屋は八畳間とここより二畳広くなるところを立地の関係でこの部屋に近い賃料で設定しようとしている。ただし、入居可能は3月下旬なので、それまでこの部屋で凌いでもらうことになるが」と、かなり有力な選択肢として予め用意してきたかのように淀みなく説明してくれた。
 もともと戸建ての古い住宅を改造して二階部分に4部屋のワンルームアパートを築造するもので、個人工務店が請け負って建築するらしく、詳しい図面や資料などは無かったが、業者からの分かり易い話により、立地場所や間取りなどが大体イメージすることができ、これは好条件だなと直感することができた。
 「その新しくできる部屋を借りる前提で手続きを進めましょう」。夜半の大暴風雨によりトタン屋根がめくれあがって雨漏れ被害の惨事に見舞われてから一日と経っていない翌朝なのに、ものの数分で次の住処が決まるという激動ぶりだったのだ。

(「新潟独り暮らし時代72「不動産業者との交渉の行方」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代73「被害の爪痕」」に続きます。)
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