嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ 『Snowflake』 (15)

2009年11月08日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
アラシゴトが忙しくて遅れ気味ですみません。

やっと一段落?

いえいえ、HDDが全然整理できていません

どうするんだろ・・・


ではどうぞ



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        妄想ドラマ 『Snowflake』 (15) 



美冬はなんと答えていいかわからずにいた。

具合が悪い時は誰しも不安で気弱になる。

悟はひとりになるのが寂しくて誰かにいてほしいだけなのか、それとも特別な想いがあって言っているのか。

もし後者なら、受け止めることはできない。

でもそんなはずはないと打ち消した。

やはり具合が悪くて不安なのだろうと思う。

「わかった。今夜はここにいるから大丈夫よ。なにかあったら言ってね」

悟は黙って頷いた。

安心したのか少し微笑んだように見えた。


美冬は悟が眠れるように部屋の灯りを消して、床に置かれたスタンドを点けると、ダイニングへ行った。

画材と絵が所狭しと並べられている。

イーゼルに架けられたままの絵には無造作に布がかかっていた。

自分がモデルになった絵かもしれないと思いそっと布をまくった。

そこには希望に満ちた表情の美冬がいた。

後ろにはアーチ型の窓が開かれていて、その向こうに花が咲き乱れる草原が

果てしなく続いている。

その絵を見た瞬間、悟の想いがまっすぐに心に飛び込んでくるのを感じた。

ひたむきな愛が溢れている。

美冬は戸惑いと嬉しさの入り混じった自分の気持ちが整理できなくて、暫く動けなかった。

元通りに布をかけると、徐々に胸の鼓動が治まって現実に引き戻された。


美冬は佐和野に年が明けたら、二人で新たな人生を踏み出さないかと言われたばかりだった。

もし答えがノーであっても、仕事で顔を会わせる美冬との関係が気まずくならないように、

言葉を選んでくれたのが佐和野らしい。

佐和野は大人でいつも優しく美冬を見守ってくれ、仕事も出来、学ぶことも多い。

彼の気持ちは前からわかっていたし、その気持ちに応えるつもりだ。

胸を焦がすような熱い想いはないけれど、それは自分が大人になったせいだろう。

結婚は、こんなふうに穏やかな愛情で包んでくれる人とだったら、うまくいくに違いない。


悟の気持ちは気づかなかったことにして、少し距離を置こうと思った。

個展のことは佐和野に進めてもらい、彼とのことを早く悟に知ってもらうしかない。

美冬は心を落ち着かせると、静かにベッドに寄りかかって座り、もう一度悟を見つめた。

それから17歳の時の悟を思い浮かべた。

6年経った今でも、自分の気持ちの中では悟は少年のままだ。

いつの間にか大人になったことに気づかないふりをしていた。

心のどこかに、悟に惹かれてしまいそうな自分がいて怖かったから。




気がつくとカーテンの隙間から白っぽい光が射し込んでいた。

クッションを枕に眠ってしまったのだ。

いつのまにか毛布がかけられている。


「帰らないでくれたんだ」

悟の声に驚いた。

美冬は視線を合わせないよう、手で髪を直す素振りをし、平静を装って言った。

「いつの間にか寝ちゃって、役にたたなかったけど」

「目が覚めた時、傍に誰かが居てくれるってほっとする。ありがとう」

「具合はどう?」

美冬は悟の額に伸ばしかけた手を思い直して引っ込めた。

「熱は下がってないけど、夕べほど苦しくはなくなった。風邪うつすと悪いからもう帰って。引き止めて悪かった」

「何か食べる?」

「今は欲しくない。あとで食べるよ」

時々咳が出ている。

「そう。携帯はどこ?心配だから連絡付くようにしておきたいの」

美冬は電池切れのまま部屋の隅に放置されていた携帯を充電器につなぎ、

悟に聞いて、着替えとタオルを出してベッドに置いた。

このままひとりにするのは可哀そうだったが、悟の気持ちを知ってしまったのに

二人きりでいるわけにはいかなかった。

「じゃ、行くね。食欲無くても水分はちゃんと摂らなきゃだめよ」 

「大丈夫」 

そう言ってベッドから起き上がると、悟はバイバイというように手を振った。


二日後、美冬はハワイへ旅立った。

顧客のIT企業の社長の別荘が完成したので、新年をハワイで過ごそうと友人とふたり招待されていたのだ。

出発前に悟から、熱は下がったから心配しないで楽しんできてというメールが届いた。

美冬は心配でたまらなかった気持ちを隠して、そっけない返事を送った。

悟からはそれきり連絡は来ない。

ハワイの空気や景色に触れて、悟のことで動揺した夜を記憶の奥深くに閉じ込めてしまいたかった。



ひとりになった悟は、布のかけ方が変わっていたことで、美冬が絵を見たことに気づいていた。

そして、美冬に対する自分の想いを彼女が知ってしまったことも。



     -----------つづく------------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あ~間に合った。

ここからラストまでは一気にいきたいなぁ。

勢いつけてね

あっ、妄想では私、ドSですからお忘れなく
  
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (14)

2009年11月04日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
おとといの夜、雪が降りました。

ゆうべは氷点下まで気温が下がったし・・・

あ~冬がやって来たのねぇ~

インフルエンザが心配です。

では、いつものように嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ



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       妄想ドラマ 『Snowflake』 (14)



美冬の絵はほぼ完成したけれど、最後の何かかが足りない気がして美冬には渡さずにいた。

それからの悟は空白の時間を取り戻すかのように、精力的に制作に没頭している。

次々に描きたい絵が頭に浮かんで追いつかない。

佐和野の計らいで、以前ギャラリーの倉庫として使われていた建物の一室を

アトリエとして使わせてもらえるようになり、大作に取りかかった。

やがて悟はアトリエに寝袋を持ち込んで、マンションに帰らない日も多くなっていく。

そんな悟の身体を心配して、時々美冬は仕事の帰りに差し入れを持って訪れた。



あと数日で今年も終わろうという日、美冬はギャラリーを閉めると家まで送るという佐和野を断って、悟のアトリエに向かった。

昨日から悟の携帯に電話してもつながらず、気になったからだ。

アトリエの窓から灯りが漏れている。

ドアをノックしても返事がなかったので中に入った。

これまでも制作に夢中になっていて気がつかないことがよくあった。

『悟君、いるんでしょ?』

アトリエにしている部屋の片隅に寝袋にくるまった悟がいた。

『なんだ寝てるの?家に帰って寝ないと疲れが取れないでしょ』

そう言いながら近づいてみると、悟は血の気の無い唇で震えていた。

『風邪ひいたみたい。なんか急に寒気がして』

美冬は悟の額に手を当てた。

『少し熱があるみたい。送っていくからちゃんとベッドで暖かくして寝るのよ』


タクシーを呼んで、自分の部屋に着くまで悟は一言もしゃべらなかった。

ずいぶん具合が悪そうに見えたので、美冬は一緒に部屋までついて行った。

あまり帰っていない部屋は寒々しく散らかっている。

悟はベッドに倒れこむとすぐに目を閉じた。

『体温計とか風邪薬とかないの?』

『無い。寝てれば治る』

『食べるものあるの?冷蔵庫開けるよ』

キッチンは使っている様子がなく、せめて冷蔵庫に飲み物くらいあるか確かめた。

缶ビールが数本とチーズ、賞味期限がとっくに切れたヨーグルトや惣菜が少し入っていた。


美冬がコンビニで水やスポーツドリンク、熱があっても少しは喉を通りそうなものを

買って部屋へ戻ると、悟は眠っているようだった。

鍵を開けたまま帰るのも無用心だと思い、暫くしてから声をかけた。

『悟くん、そろそろ帰るね。鍵はどうする?』

返事がない。

美冬はベッドの傍にひざまづいて悟を覗き込んだ。

呼吸が早く苦しそうで額に汗が滲んでいる。

熱がずいぶん高くなったのか、顔も少し赤い。

一人にして大丈夫だろうかと心配になった。

整った顔立ち、閉じられた瞳を縁取る綺麗な睫毛。

初めて、悟の顔を間近で見つめているうちに、その髪に触れたい衝動に駆られ、

美冬はそっと悟の髪をなでた。

悟が目を覚ましたので、慌てて言った。

『そろそろ帰るね』

熱のためか悟の目が潤んでいる。

ベッドに手をついて立ち上がろうとした時、突然その手を悟が掴んだ。

熱い手だった。

『帰らないで』

『悟君・・・』

『帰らないで。お願い』

それだけ言うと力なく手を離した。



      ------------つづく----------

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妄想ドラマ 『Snowflake』 (13)

2009年10月31日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
白衣を脱いだあの方の後姿にホレボレしてしまいました

その後姿を悟に重ねてニヤニヤ・・・ええ、不気味です私。自覚しております。

ではBGMは嵐の『Snowflake』でどうぞ!


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      妄想ドラマ 『Snowflake』 (13)



悟はテーブルに置かれた伝票を取ると、戸惑う美冬にはおかまいなしに

レジへ行って支払いを済ませた。

店の外で両手を開いて大きく伸びをした。

さっきまでと街の色が違っているように感じる。

美冬が後ろから声をかけた。

「待って、私を描いても」

「売れない?そんなことはどうでもいい。ただ描きたい気持ちがどこかへ

 行ってしまわないうちに取り掛かりたいんだ。協力してくれるって言っただろ?」

振り返った悟は楽しくてたまらないといった様子だった。

「どうして私なの?もし誤解されるような言動があったのなら・・・」

「何を誤解するの?今の美冬さんをそのままに描きたいだけ。早く!」

悟は美冬の手を握ると、駅への道を走り出した。

「今夜だけでいいからモデルになって。もう構図は浮かんでるんだ」

「わかった。だから止まって!話を聞いて」

「大丈夫だよ。ヌードじゃないから」

そう言って悟は笑った。

久しぶりに心が新鮮な空気を吸ったような気分だった。

美冬も悟の笑顔に巻き込まれて笑った。



下北沢の駅から悟のマンションまで歩きながら、美冬がもう一度聞いた。

「ほんとに私を描くの?悟君の人物画ってめずらしくない?」

「夢を持っている人を描きたくなったんだ。最近の俺ってなんか空っぽだったから」

「私ね、いい年して理想ばかり追ってるって父に言われる」

「そうかもね。でもその理想の実現に俺も参加したくなった」

「ありがとう。嬉しい」

「今ね、描きたくてうずうずしてる。冬眠から覚めた熊みたいな気分。絵が完成したら美冬さんにプレゼントするよ」

二人は途中のコンビニで、夜食にするサンドイッチと飲み物を買った。



悟はひとつしかない椅子に美冬を座らせ、自分はベッドに腰をおろした。

休憩をはさんで全身と上半身の2枚の絵をデッサン用紙に鉛筆で書いた。

悟の真剣な眼差しに、栗原美冬という人間を見透かされてしまいそうな気がする。

「じっと見られるとなんだか緊張しちゃう。おかしいわね」

「学生の時とか友達のモデルになったことはないの?」

「無かった。私って悟君にどう見えているのかな」

悟の手が一瞬止まった。

「綺麗だよ」

「大人をからかうもんじゃありません」

「俺も今は大人だけど」

美冬はその言葉に不意を付かれて動揺した。

目の前にいる悟はもう17歳の少年ではなく、23歳の大人の男性だという当たり前のことを急に意識した。


6年前、瑞々しい感性で心に飛び込んできた悟の作品は、技術的な進歩と人生経験を積むことで、

さらに奥深さと可能性を併せ持つようになっている。

それなのにキャンバスに向かわない悟をもどかしい思いで見ていた。

この半年のスランプを脱する何を悟は感じ取ったのか、美冬は考えていた。

そんな力が自分にあるとは思えない。


沈黙の時が流れ、やがて悟に穏やかな笑みが戻った。

「ありがとう。後は完成前にもう一度お願いします」

「わかった。そのときは連絡して」

美冬は椅子から立ち上がると、悟が描いた自分を見ようとしてやめた。

「やっぱり完成してから見せてもらうね」

さりげなく部屋を見回して、ベッドの枕元にある時計の針を見た。

その視線に悟が気がつく。

「もう終電出ちゃったから送るよ」

「一人で大丈夫よ。キャリアウーマンですから慣れてます」

美冬は悟の優しさが嬉しい半面、不思議でもあった。

力になってあげたいと思った少年は、成長していつの間にか自分の方が守ってもらう弱者になっている。


「さっき、私の理想に参加してくれるって・・・」

別れ際に美冬が言った。

「描き続けるよ俺。ほかに進む道は見つからない。それでいいんだよね」

「そうしたいんでしょ?」

悟は黙って頷いた。

外に出ると、一時の静けさを取り戻した街には、ひんやりとした風が吹いていた。

それでも美冬は悟が再び絵を描き始めた嬉しさで、寒さを感じなかった。



        ---------つづく------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


なんか起こりそうな予感!?

美冬さんは29でしょ・・・揺れる年齢かしらねぇ。

アラサーってやつ。

私はぜんぜん素通りでしたが

40はちょっとね、一山あったかなぁ~気持ちのなかで。

おっと年がばれる。

ではまた


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妄想ドラマ 『Snowflake』 (12)

2009年10月28日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
最近、車でよく聴くのはWe can make it!

この曲のおーちゃんのフェイクにはまっています

どこまでも伸びやかでカッコイイんだな~

もち、Snowflakeも聴いてます。では、どうぞ!



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      妄想ドラマ 『Snowflake』 (12)



悟はキャンバスに向かう気持ちにもなれず、流れていく時に身をゆだねていた。

夏葉に会いたくてたまらないといった熱い感情が湧くことはなく、

案外一人でも平気に思える。

でもそんな日の後には、ボートで広い湖に漕ぎ出して、ふと振り返ったら自分がいた岸辺が

もうどこだかわからなくなって戻れないというような、そんな夢を見た。

目が覚めるとじわじわと寂しさが胸に広がってやりきれなくなる。

美冬と佐和野から個展の話をされたのが初夏、もう季節は秋にかわろうとしているのに

一枚の絵も描いていなかった。



美冬は絵を描く意欲を失っている悟に何も聞かなかった。

時々、食事や映画に誘ってたわいない話をした。


その日も映画を見た後、近くの店でコーヒーを飲みながら映画の感想を話していた。

「美冬さんって映画見て泣くこともあるんだね」

「そりゃ感動すれば泣くことだってあります」

美冬が急にクスッと笑った。

「どうしたの?」

「悟君と初めて会ったとき、映画見て泣いてたこと思い出した。可愛かったなぁ17歳の少年」

「俺、泣いたところを見られたの美冬さんくらいだよ。子供の時は別にして」

「じゃ、私が大町悟の秘密をひとつ知ってるってことね。変わりに私の秘密を教えてあげる」

「何?」

「実は私、絵が下手なの」

「ほんとに?」

「下手かどうかっていうより、いつも素敵な絵に囲まれているから、自分の絵が許せないって感じかな。

 見るほうが好きなの。だからこの仕事にあってると思う。素晴らしい絵に出合って、感動することもあるし。

 悟君の絵もそうだった。君に会ったから夢を追いかけてしまったかも」

美冬は半分に減ったコーヒーにミルクを入れて、いつまでもスプーンでかき混ぜていた。

もう飲む気は無くなっているのがわかる。

少しの沈黙のあいだ、美冬は頬杖をついている悟の手を見ていた。

「最近、何かに感動した?」


悟は美冬が自分を見て目が合うのを待っていた。

そして答えた。

「ひとつだけ」

「その感動は絵に描けないもの?」

「描けると思う。協力してくれる?」

「私に出来ることならもちろん協力する」

美冬の目が輝いている。

「じゃあ今から帰って描く。一緒に来て」

悟はぬるくなった飲みかけのコーヒーを、ひと息で飲み干すと立ち上がった。

「美冬さんを描きたい」



        ----------つづく-----------


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あれれ、また予告と違ってすみません

楽しいところまでたどり着かなかった~~

ではまた
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (11)

2009年10月25日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
ここ数日、曇っていることが多く、急に寒くなりました。

先日のオリオン座流星群も曇り空で見ることが出来ず、ミント(11歳)はがっかりしておりました。

あ~もし流れ星にお願いできたら・・・

嵐5人の映画、連ドラ、舞台、アマツカゼのDVD発売(しつこい?)、一人に一冊づつの写真集発売。

そしてそして、何よりも今後のコンサート&舞台のチケット当選!をお願いしたのに

欲張りですか?でも流星群ですからいっぱいお願いできたでしょ?

次は70年後・・・自分がお星様になってますね


では主題歌は嵐の『Snowflake』でどうぞ♪


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      妄想ドラマ 『Snowflake』 (11)



携帯がなるたびに、夏葉の名前を期待しても、そこに表示されるのは大学の数少ない友人や、

バイト先の仲間の名前ばかりだった。

夏葉の存在が薄らいでいくにつれ、悟は自分の存在もまた世の中から忘れ去られていく気がした。

他の女の子と肌を合わせても、心には満たされない何かがいつも残った。


やがて悟の絵がギャラリーFREESTYLEで展示されると、美冬の期待通り

多くの人々の目に留まった。

最初に悟の絵を買いたいと言ったのは美冬の父、栗原功一だった。

佐和野から報告を受けていた功一は、パリから帰国した足で下北沢のギャラリーに向かった。



「美冬もなかなかだな。それでこの絵をいくらで売ることになっているんだ?」

「20万よ。悟君は無名だけどそのくらいの価値は十分あるでしょ?安いくらいじゃない」

「確かに。私が買おう。ついでに海外へ持っていって50万以上で売って見せるよ」

「お父さん・・・この絵は本当に気に入ってくれて、国内で大切に持っていてくれる人に売りたいの」

「そんな人物が現れなかったらどうする?客を選んでいて売れなくて、それから私に頼んだら買い叩くよ」

「そのときは私が買います。本当は私が個人的に欲しいけれど、それじゃ悟君の絵が

 いつまでも巣立ち出来ないから」

「甘いな。彼を画家として食べていけるようにしたいんならもっと、ビジネスとして自分が成功することも考えろ」


穏やかではなくなってきた二人に佐和野が口を挟んだ。

「社長、美冬さんだって考えていますよ。ただ、大町君は高校生の時からよく知っているそうですし」

「絵の価値に個人的な付き合いを加算してどうする?」

「私は悟君の人間性も含めて応援したいの。もちろん絵の才能を認めているからだけど」

「とにかく彼に会って、他の作品も見てもらったらどうかな?社長にだってきっと納得してもらえますよ、

 長い目でみて投資する価値のある作家だって」

「それは君たち二人に任せるよ。お手並み拝見と行こう。私が扱うのは絵の値段にゼロがひとつ増えてからにさせてもらう」

「必ず大町悟を世の中に認めさせて見せます」

真剣な眼差しの美冬の話をはぐらかすように、功一は突然話を変えた。

「仕事熱心もいいけど、女としての幸せも少しは考えてくれないと、親としては心配だな」

不満な表情の美冬を残して功一は佐和野を連れてギャラリーを出た。


「大町悟は掘り出し物かもしれないな」

「私もそう思います」

「まだ学生だと言ってたがいくつだ?」

「23です。大学へはあまり行ってないようで、美冬さんの話では中退するつもりらしいです」

「美大は卒業させたほうがいい。経歴に箔が付く。君ならこれからどうする?」

「代表作になる大きな作品を何点か描かせて、話題になりそうな場所で個展を開きます。

 彼の不運な境遇やルックスを生かしてマスコミにも売り込みますね」

「君がついていれば大丈夫だと思ってる。美冬のことは頼むよ。自分じゃ一人前のつもりでも

 世間知らずなところがあるから、いくつになっても心配でね」


功一は佐和野と美冬が結婚してくれれば、すべてが安心だと思う。

下北沢のギャラリーの運営を二人に任せたのも、そういった思惑があってのことだった。

佐和野はすぐに美冬の信頼を得た。

二人から結婚したいと言われる日もそう遠くないと功一は思っている。


悟の絵は、業界では名前が知られている建築デザイナーが買った。

佐和野の顧客のひとりで、自分がデザインした建築物のロビーなどに合う

絵や彫刻を何度か買ってくれたことがある人物だった。

今回は自分のために買うと言う。

2ヶ月の展示の間に他にも買いたい人物が何人か現れ、美冬は確かな手ごたえを感じた。

ただ、肝心の悟は自分が生きている意味や実感の薄れていく生活に

なげやりな気持ちでいた。

両親を亡くした17歳のときから、いつも寄り添ってきた夏葉の存在がどんなに大きく支えになっていたか思い知らされ、

日が経つにつれて喪失感は無気力を生んだ。

何度か携帯を手にしたけれど、かけることはできなかった。

夏葉のために自分ができることは、彼女の幸せを祈ることしかないように思えたから。


       -----------つづく---------



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回はあまり登場しなかった悟くんですが、次回は走り出します予定・・・

え~っと、具体的には描写しませんので、悟くんの絵とか登場人物とかは

皆さんお好きに妄想しちゃってください

もちろん悟くんもね。

でもここまで画家って感じになると智くん以外は難しいかな?

潤くんでもいけそうな気がしますが・・・

美冬さんに自分がなっちゃうと次回は楽しいかも!?

ばらしてどうする

ではまた
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (10)

2009年10月21日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
怒涛の嵐祭りが始まるかと思うと気もそぞろです!

ではどうぞ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     妄想ドラマ 『Snowflake』 (10)




土曜の昼前に、東京駅に着いたと夏葉から電話があった。

久しぶりに会うので、悟はどこかで待ち合わせをしてランチでもと思ったが、夏葉は部屋で待っていてほしいと言った。

楽しくはないだろう話の内容に見当がついて、悟は気が重くなった。

大学は留年を重ね、卒業する見込みも薄い。

かといって辞めて就職する気にはなれず、夜のバイトでその日暮らし。

23歳の男としては褒められたもんじゃないのは自分でもよくわかっていた。

世間は学生には甘いが定職を持たない男には厳しい。

両親がいない悟は余計に学生という身分を捨てるのが怖かった。

それに絵を描く時間を優先するためには、今の生活が都合がよかった。


でも、夏葉が思い悩むことがあるとすれば、もっと違うことだということもわかっている。

この3ヶ月あまり、夏葉を抱いていない。

誰よりも安心できて大切な存在なのに、ただそのぬくもりを感じる以上のことを

身体が欲しないのだ。

その反面、複数の女の子と遊びと割り切ったその場限りの付き合いはある。

夏葉は特別な存在になりすぎたのかもしれない。


「今日は日帰りだからあまり時間がないの」

夏葉が買ってきた人気のお店のランチパックを食べた後、彼女が切り出した。

「私はもうここへ来ない方がいいの?」

「そんなことはないよ。俺は夏葉に会うとホッとするし嬉しい」

「でもふたりに未来はあるのかな?私、一人で待ってるのが辛くなってきちゃった」

「夏葉のいない未来は考えられないよ。でも・・・夏葉が考えている未来が

 結婚ということだったら、今の俺にはまだ考えられないんだ」

「そうね・・・わかってる」

「夏葉はどうしてほしい?今の俺にできることは?」

「残念だけど、無い。だって私が望むことは無理だってわかってるから。

 私は悟と一緒に居たいだけ。でもきっと一緒にいたらもっと辛くなるような気がする。

 悟にとって私は何?」

夏葉は特別な存在・・・悟はそれ以外の言葉を見つけられないで黙っていた。

肉親ではないけれどそれに近いような、女性とか男性とかの性別も超えた

心の安定剤のような存在。

この5年、いつも悟を待っていてくれるのは、住む人を失った実家ではなく夏葉だった。

けれどそんな彼女に甘えすぎたのかもしれない。


「しばらく会わないことにしたいの。連絡もしないで」

「しばらく?」

「そう、期限無しの別れる練習。お互いがいなくても案外平気かもしれないでしょ。

 今ここでさよならする勇気はないけど、少しずつ悟を忘れたい」

忘れたいという言葉が悟の胸に突き刺さった。

嫌いになったとか、ほかに好きな人が出来たと言われたほうが楽だった。


夏葉は悟の言葉を待たずに立ち上がると靴を履いた。

「無理だったら電話しちゃうかも」

背中を向けたまま、肩の高さで小さく手を振ると勢いよくドアを開けて出て行った。

泣いているのがわかった。

引き止めていやだと言ったら、きっと夏葉は悟の願いを聞き入れてくれるだろう。

でも悟はそうしなかった。

「夏葉・・・」

忘れていた孤独が悟を包んだ。



       ----------つづく--------



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いやぁ、地味で暗いっすね

もっと先へ行きたかったけど・・・

ではまた
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (9)

2009年10月17日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
どうも。バジルです。

先日は数行のみ書いた9話を間違って公開してしまいました。

ご覧になった方はなんだこれ?だったことでしょう。

失礼しました


では嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


       妄想ドラマ 『Snowflake』 (9)




「初めまして、佐和野です。君のことは以前から美冬さんに聞いてよく知ってますよ」

仕立てのいいスーツを身にまとった、30代前半と思われる長身の男は、笑顔で右手を差し出した。

「どうも。大町悟です」

悟と握手した佐和野の手は大きくて、2月だというのに暖かかった。

車で来たのだとわかった。


悟の住んでいるマンションは駅から15分歩く。

少しでも広い部屋を借りたかったので、駅からの距離は目をつむった。

東京へ出てきたときは、学生向けの1Kのアパートに住んでいた。

大学へも自転車で行ける距離だったが、絵を描くには狭すぎて、

美冬の紹介で一年ほど前に、今のマンションに引っ越した。

ギャラリーがある下北沢に。

経済的には両親の保険金で十分な余裕がある悟だったが、

二人の命と引き換えにもらったという思いがあって無駄には使えない。

時給がいいので、夜にダイニングバーでアルバイトをしている。

次第に大学へは足が遠のいて退学しようと思い始めていた。


「この前見せてもらった絵がいいと思うんだけど、父が佐和野さんの意見も聞くのが条件だって譲らないの。

 彼ね、父と一緒に世界で活躍しているアーティストの絵も扱ってきたから、

 悟君にもなにか刺激になる話ができるかもよ」

美冬は言い終わると佐和野に、「ね」と言うように微笑んだ。

なぜか悟の胸の奥がざわついた。

「そんな人から見れば俺の絵なんて・・・」

「いや、僕は期待して来ましたよ。美冬さんが入れ込んでる新人ですからね」

にこやかな中に小さな棘のようなものを感じる。

悟は酷評されてもかまわないと思った。


ダイニングに並べられた数点の絵を見て、佐和野は内心驚いた。

美冬の目も確かだと認めざるを得ない。

悟の絵は激しさと柔らかさが混在して、見るものを惹きつける。

遠めに見ると引き込まれるような力強さを放ち、

近づくといつまでも眺めていたい優しさを感じる。


すぐに海外の顧客の顔が数人浮かんだ。

彼らなら必ず気に入ってこちらの言い値を出すだろう。

しかし、顔には驚きが出ないように気をつけた。

「なかなかいいと思うよ。学生の域は出てるかな」

「そう?」

美冬は嬉しそうだ。

「大町君はもっと大きな作品は描かないんですか?」

佐和野が聞いた。

「ここでは無理だから」

「どこかアトリエを借りられるといいんだけどね。悟君はほんとはもっと大きな絵も描きたいの」

「でも今度は置く場所がないよ。美冬さんはすぐその気になるから怖い」

悟が苦笑すると、佐和野は美冬の肩を軽く叩いて微笑んだ。

「この人は理想に燃えているからね。冗談は通じないよ」

「いけない?」

美冬は悟のほうへ向き直ると、まっすぐに目を見て言った。

そんな美冬の後ろで、佐和野は複雑な思いでいた。


二人は美冬と悟が相談して決めていた絵を持って帰った。

額装は美冬に任せた。

悟はギャラリーで、どんなふうに自分の絵を見せたいかという希望は無い。

絵が完成した時点で力が尽きてしまう。

誰かがプロデュースしてくれなければ、いつまでたっても個展なんて実現しないだろう。

そしてその誰かは美冬だと思っている。

常に穏やかな物腰で、丁寧だった佐和野に好感が持てない理由を悟は考えていた。

ひとつだけ頭をかすめた理由を振り払った時、携帯が鳴った。

「今度の週末に行ってもいい?話があるの」

聞きなれた夏葉の声だった。


       ---------つづく-------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


よっしゃ!楽しみになってきました。

ちょっと想像ついちゃいます?

ではまた

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妄想ドラマ 『Snowflake』 (8)

2009年10月14日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
いつの間にやら8話・・・困ったなぁ。

全然、本編にたどり着かない???

だって悟くんを智くんのビジュアルで妄想しているんで楽しくて

今日は超特急で成人させます。

ではどうぞ♪




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


      妄想ドラマ 『Snowflake』 (8)



美冬は悟の背中を時々さすりながら、ただ傍に寄り添っているしかできなかった。

17歳で孤独と不安を抱えて生きることを余儀なくされた日々を思うと、

胸が苦しくなって、もらい泣きしそうになるのを我慢した。

有名な画商の父親に反発しながらも、その父のおかげで若くしてギャラリーFREESTYLEを任され

理想に燃えていられる自分の甘さが情けなく、涙を流しながらも一人で生きている

悟のほうが大人に思えた。




4月になり、ギャラリーに展示された悟の絵は好評で、買いたいという顧客もいた。

悟との約束どおり断ったが、個展をやる予定はないかと聞かれた。

そのことを悟に伝えると、いつかそんなことが出来るといいねと

まるで他人事のように笑っていた。




季節が流れ、美大を卒業した美冬のアドバイスもあり、悟は一年後、

ストレートで東京の美大に合格する。

夏葉も東京の大学へ進学したかったが、反対する両親を説得するだけの

理由を見つけられず、地元の短大へ進学した。

悟について行きたいだけということが母親にはお見通しだったらしい。


遠距離になっても、二人の関係は続いた。

夏葉が短大を卒業し就職してからは、経済的にも余裕ができ、

母親も泊りがけで悟のところへ行くことに何も言わなくなった。

ただ父親には女同士の秘密を洩らすことはなかった。



悟が東京へ出て3年目に、美冬も東京で暮らすことになる。

父親が3店舗目の画廊を、下北沢にオープンすることになり美冬を呼んだのだ。

美冬の父、栗原功一はヨーロッパやアメリカはもとより、時には中近東の富豪を相手の商談にも

飛び回っているため思うように時間が取れず、新店舗を自分の片腕と思っている佐和野圭と

美冬に任せることにした。

栗原功一が扱うのはすでに名の売れた高額の絵画や美術品が主で、顧客も個人の富裕層か美術館だった。

父親とは違い、美冬はできれば一般の人が買える値段の絵も扱って、身近に飾ってほしいと思う。

自分が見出した新人を二人三脚で育て、やがてその画家が世の中に認められ、

作品の価値が上がる。

それが画商ではなく、ギャラリストとしての理想だった。

理想では金は儲からないという功一の言葉に、いつか必ず理想を現実のものにしてみせると心に誓った。

悟は美冬が見守って育てたい画家の卵の一人になっていた。



下北沢で美冬のプロデュースした個展が、好評だったことに気を良くした功一は、

画廊の一画を好きに使うことを許した。

美冬は自分が良いと思う無名の画家の作品を、また月替わりで展示することにした。

その一人目に迷うことなく悟を選ぶ。

美冬は29歳、悟は23歳になっていた。



        --------つづく-------



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回はつまんなくてすみません

とにかく大人になりましたんで、ここからまたね・・・フフッ

ほのぼの、どろどろ、もしくは純愛、打算的な恋?

いろいろありますが悟君はどれで行きましょうか。

ほのぼの系純愛は相葉くんにお任せして、ここはまっしぐらに激しい恋にします?

智くんだって、好きになったら『好き』って言っちゃうと雑誌で語っていましたし。

突然だから失敗も多いとかねいいなぁ、可愛い

今は大人になったから少し違うかもしれませんね。

ではまた





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 妄想ドラマ 『Snowflake』 (7)

2009年10月10日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
え~マイガールで皆さんが感動したところでupしにくいなと思いながら・・・

ではBGMは嵐の『Snowflake』でどうぞ




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       妄想ドラマ 『Snowflake』 (7) 




1月の後半から雪が立て続けに降った。

いつもは数日で解けてしまう雪もなかなか消えず、昼間緩んでは夜に凍結する状態を繰り返していた。

2月半ばの土曜の午後、玄関先で悲鳴のようなものが聞こえ、悟が2階の窓から見ると、

栗原美冬が手に付いた雪をはらい、バッグを拾い上げていた。

約束の時間にはまだ早い。


ドアを開けて悟が

「転んだ?」と聞くと

「滑ったの。またかっこ悪いとこ見られちゃった。ほら」

と言って振り向いて見せた。

コートのお尻のところが溶けかかった雪と泥で汚れていた。

それから二人で笑い、悟は美冬を家の中へ招き入れた。


「お邪魔します。ちょっと早くついちゃって。おうちの方は?」 

と聞かれ、悟は一瞬ためらってから答えた。

「両親は事故で亡くなったんで今は一人暮らし」 

「えっ、いつ?」

「12月」

「何も知らずにごめんなさい。あの・・・」

思いもよらないことに慰めの言葉も出てこない。

なんと言ってよいかわからず、悲しげな目で悟を見つめる美冬に悟が助け舟を出した。

「大丈夫だから。もう一人にも慣れたし、俺って料理の才能あることもわかったしね」

「自分でご飯作ってるの?」

「たまにだけどね。カレーはけっこういけるよ。一回作れば3日は食える」

悟の明るい声に美冬はホッとした。


真新しい仏壇に手をあわせてから、ダイニングテーブルで悟が入れてくれた

インスタントコーヒーを飲んだ。

美冬が訪れたのは4月から悟の絵をギャラリーに飾るための、具体的な打ち合わせをするためだった。

一通りの説明が終わると、美冬は悟のほかの作品を見たがった。

「見せられるようなものはそんなにないんだ。昔の絵は俺が見ても下手だし」

「昔って若造がなに言ってんの。悟君はまだ高校生でしょ」

「そうだな。でも美冬さんだってまだ若いくせに」

「そうね、まだ駆け出しのギャラリストです。だから知りたいの、人がどうやって画家になっていくのかね。

 悟君がこの絵を描くまでの成長過程に興味があるから、小さい頃からの絵も見てみたいの」

「俺、画家になんてならないよ」

「でも絵はずっと描き続けるでしょ?」

「わからない」

悟は美大へ行けばこの先4年間は絵を描いていられると漠然と思っていたが、

その先のことは考えていなかった。

一瞬にして未来が無くなった両親の人生を思うと、あまり先のことを考えても仕方がない気がした。


リビングに出しておいた中学時代からの絵を美冬に見せた。

美冬は悟が中学生の時に描いた水彩画や高校の美術部に入って描いた油絵など、

作品として完成させた8点を黙って丁寧に見たあと言った。

「他にはないの?デッサンとか、ただのスケッチとかでもいいんだけど」

「たくさんあるけど、落書きみたいなもんだよ」

「いいから見せて」

美冬の真剣な口調に押されて、自分の部屋に取りに行こうとすると、

彼女もついて来た。


悟の部屋は美冬が思ったより広かった。

昔は二部屋に仕切って姉と半分ずつ使っていたが、姉の結婚後仕切りを

外して絵を描くスペースに当てていた。

美冬は描きかけの絵に息を呑んだ。

ダイナミックな受賞作とは一転して、驚くほど細密に描かれた猛禽類と思われる鋭いくちばしの鳥が、

切り裂かれた明るい光の奥の闇からこちらを見つめていた。

澄んだ瞳が悟に似ているような気がした。


「意外だった?俺こういう細かいのをちまちま描くのも好きなんだ」

壁際に並べられたカラーボックスに、スケッチブックが無造作に重ねられていた。

美術部で描いたらしいデッサンやスケッチに混じって、もっと前に描かれた

人物画や静物画もあった。

デフォルメされていたり、驚くほど細密に描写してあったり時期によって

描かれる興味の対象も違っていて面白い。

一番古いものは小学生の時の絵だったが、その立体の捉え方の的確さに舌を巻いた。

オレンジ色の表紙のスケッチブックには何枚も、魚が図鑑のように細かいところまで鮮明に描かれていた。

「これいつごろ描いたの?」

「小5の夏休みに親父がスケッチブック買ってくれて、その時」

「はっきり覚えているのね」

「親父が好きだったんだ釣り」

「それで魚の絵なんだ」

悟はきっと父親のことが大好きだったんだろうと美冬は思った。

「もっと前のはないの?」

「一枚もない。この家に引っ越す時に全部捨てたんだ」

「そう、残念ねぇ。だって急にこんなに描けるわけ無いもの。小さい時から絵は好きだったんでしょ?」

そう聞くと、悟が急に背中を向けた。


「親父が悟は才能あるって喜ぶからさ・・・親ばかってやつ?」

明るく言おうと思ったのに、声は途中で途切れ、最後は少し声が震えた。

美冬が何も言わず、ためらいがちに悟の背中に手を触れた。

突然悟の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

我慢しようとトレーナーの袖で何度拭っても、涙は後から後から溢れてきて

やがて嗚咽となり、悟はこらえようとするのを諦めて心のままに任せて泣き続けた。

両親が亡くなって、初めて流した涙だった。



     -------------つづく----------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


高校生のままでしたね

妄想が膨らんでなかなか進みません。

悟の部屋とか絵とかね。健太くんの部屋の雰囲気も思い出したりして寄り道も多い

みなさんも好きでしょ、妄想

次回こそ成長させる!!

ではまた
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (6)

2009年10月07日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
体調不良は・・・ずいぶんよくなりましたが今度は台風が心配。

地味~に暗~く行きますか

そんな気分なんで。

では主題歌は嵐の『Snowflake』で。


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        妄想ドラマ 『Snowflake』 (6)



別れ際に夏葉が口を開いた。

「自分のことあまり話してくれないのはどうして?」

「別に理由はないよ。話さなきゃいけないようなことも特にないし」

「なんか寂しい。私は悟のこと何でも知りたいし、何かあれば力になりたいの。

 私、悟にとって必要な存在になりたい」

「俺は・・・」


そこから先は頭の中でぐるぐる言葉がまわって出てこない。

「どうして黙っているの。なんか言って」

嘘をついたのは夏葉を悲しませないため、そう言い掛けて止めた。

悲しませるようなことなんて何も無い。

夏葉と会って、彼女が笑ったりすねたり何かに感動したりするのを

傍で見ていることで悟は心が優しくなれる気がした。

それだけで十分だった。

必要だとかそうじゃないとか、そんなこと考えたこともなかった。

それに会う時間の長さと愛情の深さは比例しないと思う。

「夏葉の目の前にいる俺がすべてだよ。それじゃだめかな」

「そんなのわからない」


悟は心の奥に澱んでいる記憶が、何かの拍子にこぼれ出てしまうことを恐れていた。

それは悟自身が出来ることなら忘れてしまいたいことであり、

他の誰にも消すことが出来ないことだから。


家庭のことだって、わざわざ自分から話したくはなかった。

悟の父親は母親の再婚相手で血のつながりは無いけれど、

息子として十分に愛情を注いでもらい感謝している。

だから、去年病気で手術した父親に無理させたくなくて、

少しでもバイトでお金を貯めておきたいと思っている。

でもそんなことを夏葉に聞いてもらってどうなるというのだ。

同情されたり励まされたりするのはいやだった。


「俺、別に悩みとかもないし」

「じゃなんでそんなにバイト頑張ってるの?私に会うよりお金が欲しいのはなぜ?」

夏葉は言ってはいけないと思っていたことを口に出してしまった。

悟の表情が曇った。

「言いたくない」

後悔の気持ちは言葉ではなく、涙となって夏葉の目からあふれた。

悟はやりきれない気持ちをもてあまし、夏葉に何も言葉をかけることができなかった。。




新しいアルバイトのメンバーも仕事に慣れ、悟は仕事を減らしてもらった。

出来た時間はすべて絵を描くことに費やした。

あれから夏葉とは連絡を取り合わないまま時間だけが過ぎていく。

不思議と学校でも行き会わなかった。


夏葉が楽しみにしていたクリスマスが近づいた。

明日から冬休みというその日、夕べから降っていた雨が雪に変わった。

教室では女子たちがホワイトクリスマスになると喜んでいる。

悟は帰りに夏葉のクラスに会いに行こうと決めていた。

ところがホームルームになっても担任が来ない。

暫くして青ざめた顔の担任に廊下に呼び出され、両親が事故に巻き込まれたことを告げられた。


スリップして対向車線にはみ出したトラックに巻き込まれた事故だった。

即死だったらしい。

それからの数日のことを悟はあまり覚えていない。

姉の赤ちゃんの泣き声と、親戚の人たちが低い声で葬儀の打ち合わせをする声だけが

耳の奥に残っている。

姉はずっと泣いていた。

綺麗な二重の目はハンカチの下でいつもはれぼったく、この数日でやつれたように感じる。

悟はそんな姉を見ていたせいか、自分でも驚くほど冷静に振舞った。

時々胸の中に黒い雲が立ち込めたような不安に襲われたが、不思議と涙は出なかった。

遺体の損傷が激しく対面できなかったため、両親の死をまだ受け入れられずにいたのかもしれない。



年が明けて三が日が過ぎたころ、夏葉が家を訪れた。

悟の姉に挨拶をし、線香をあげると

「私に出来ることがあったら言ってね」

と思いつめた表情で言った。

今度のことで夏葉がどれだけ心を痛めていたか察しがついたが、

それよりも今まで夏葉のことを思い出さなかった自分に驚いた。


親戚や姉の提案も断って、悟は高校卒業まで一人で暮らすことにした。

いずれ東京の大学へ進学して一人暮らしになるはずだったのだから、

少し早まっただけだと思うことにした。

一人になった家は思ったより広く感じられ、孤独感から逃れるために

ますます絵を描くことにのめり込んだ。

夏葉が心配して時々来てくれる。

彼女の肌のぬくもりを感じている間だけ、寂しさも不安も消え安らかな気持ちになれた。

こんな形でも、悟にとって必要とされる立場になったことに夏葉は満足しているのだろうか。

悟は夏葉を失いたくないと思いながら、不安定な二人の関係をわざと冷めた目で見たりしていた。

大切な人を失う怖さから逃れるために。





       ----------つづく--------



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さてさて悟君に過酷な運命をあたえてしまいましたドSですから。

ディスプレイの横にはいつも2007-2008カウントダウンの

おーちゃんのうちわがあるんですが、これ眺めながらだとなんだか成瀬さんみたいに、

暗~い役をやってほしくなるんですよねぇ、今は。

次回は少し成長してもらう予定です。

では




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