遅くなりました
これで悟くんともお別れです。
新年は妄想ではなく、本物のドラマで悟くんに会えますね。
偶然にも同じ名前で嬉しいです
ではどうぞ
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (最終回)
フリースタイルで功一と美冬と3人で話をした後、悟はマンションではなくアトリエに向かった。
完成間近の絵を眺めながら、功一とのやり取りを思い返していた。
自分の決断に迷いがなかったと言えば嘘になる。
しかし、最良の選択だと信じるしかない。
美冬が最後まで笑顔を見せなかったことが気になったけれど、
彼女だってほかに道がないことは納得したと思う。
絵はあと2日もあれば完成するだろう。
悟は絵の完成を惜しむように、手を加え始めた。
美冬と連絡が取れなくなったのは、絵が完成した3日後だった。
携帯にかけても出ないし、メールを送っても返事がない。
気になって翌日ギャラリーに電話を入れると、スタッフの女性に、
体調が良くないのでしばらくお休みですと言われた。
美冬のマンションに行ってみたけれど、誰もいる気配がない。
悟は胸騒ぎがしてギャラリーへ急いだ。
ちょうど佐和野が出てきたところに行き合わせた。
「教えてください。美冬さんになにかあったんですか?」
「おとといの夜、具合が悪くなって救急車で運ばれたらしい・・・」
そこで言葉は途切れた。
「救急車?なぜ黙ってる」
悟は佐和野に詰め寄った。
「流産してしまったそうだ。まだ君には連絡がないんだね」
「なぜあなたが知っているんだ?」
「社長に聞いたんだよ」
走り出そうとする悟の腕を佐和野が掴んだ。
「待ちなさい。社長は今頃大阪だ。美冬さんは知り合いの病院に入院しているから大丈夫」
「どこの病院ですか?」
「気の毒だとは思うけど教えられない」
「なぜ?」
「美冬さんが君には自分で言うから、連絡しないでくれと社長に言ったそうだ。
きっとショックで混乱しているんだよ。君に会うのが辛いんじゃないかな。
流産したのは仕方のないことで美冬さんのせいじゃないんだ。もう少し待ってあげて欲しい」
「あなたにそんなこと言われたくない」
悟は居たたまれない気持ちでその場を去った。
悲しくて寂しくて胸が苦しい。
マンションの部屋へ戻ると自分が描いた美冬の絵が目に飛び込んできた。
いつものように優しく笑いかけてくる。
でも現実の世界の美冬は今頃どんな思いでいるのだろうか。
悲しみにくれて泣くのなら、自分の胸で泣いてほしかった。
そうすればその悲しみを分かち合うことができるのだから。
美冬が連絡をくれないわけを考えると悟は不安でたまらなくなった。
その日は酒を飲んで、酔いつぶれて眠りについた。
翌日、功一から電話があったが、話の内容は佐和野から聞いたとおりだった。
手術後の経過は問題ないので、しばらく鎌倉の別荘で過ごさせることにする。
長年、働いてくれているお手伝いさんが一緒に行ってくれるので心配ないと言う功一の言葉を聞きながら、
悟は美冬が少しずつ別の世界へ遠ざかっていくような気がしていた。
美冬からの連絡がないまま何日が過ぎただろうか。
アトリエの壁にもたれて完成した絵をむなしい気持ちで眺めていると、
誰かかが入り口のドアをノックした。
のろのろと立ち上がってドアを開けると、春風が桜の花びらをアトリエに吹き込んだ。
「心配かけたね。美冬もやっと気持ちの整理がついたみたいだ。
中へ入ってドアを閉めると、功一が言った。
「気持ちの整理・・・何のことですか?」
「突然なんだがニューヨークへ行ってみないか?向こうの美大へ留学して2,3年したら
向こうで個展をやるんだ。君のことを引き受けたいと言ってる人がいるんだよ。
やはり君の才能を潰してしまうのは忍びない」
「今更何を言っているんだ。ふざけないでください」
「これを預かってきた。美冬からの手紙だ。これを読んで、もしその気になったら私に連絡をしてくれ」
功一は背広の内ポケットから薄い水色の封筒を取り出すと悟に渡した。
ドアノブに手をかけてからもう一度悟を振り返って言った。
「美冬は私に似て頑固者だよ。娘のわがままを許してやってくれ」
功一が帰ってからも悟はしばらく封筒を握り締めていた。
やがて決心して中を見た。
大町悟様
毎日毎日あなたのことを考えていました。
でも会うことはできなかった。声を聴く勇気すらない私を許してください。
やっとあなたに会えない理由がわかってきました。
私はあなたから絵を取り上げることはできません。生まれてくる子供のためと
無理に納得しようとしたけれど、今はその命もなくなりました。
悲しくてたまらないけれど、これであなたを自由にしてあげることができたと思う気持ちもあります。
ひどい母親です。
でも絵を描くことを止めてしまったとき、きっとあなたはあなたらしく生きることができなくなる。
人を愛し、友達と笑い、ご飯を食べて眠るのと同じくらい、絵を描くことは
あなたが生きていく上で必要なことだと思います。ましてそのきらきらとした可能性を
信じて見守ってきた私自身が奪うなんて出来ません。
今度のことで私は愛する人を失うより、私が見出した画家大町悟を失うことの方が
耐えられない自分に気づいてしまいました。
私はやはりギャラリストでしかなくて、あなたと人生を共にする伴侶にはなれません。
どうか私のことは忘れてください。勝手なことだとはわかっています。
そしてどんな形でもかまわないから絵を描き続けてください。
いつかきっとどこかであなたの絵に会える日がくることを信じています。
栗原美冬
フルネームで描かれた名前が二人の距離を感じさせた。
悟の腕には美冬を抱きしめた感触がまだ残っている。
それなのに二人で描くはずだった未来が消えていくのがわかった。
どこかで、やっぱり無理だったと思う自分がいた。
数日の間に悟はマンションを引き払う手続きをし、家財道具の処分を業者に頼んだ。
東京へ出てきた時と同じくらいのわずかな身の回りのものだけを持って、
アトリエに行った。
すでにここも片付いている。
完成していた絵は佐和野にすべてを任せた。
マンションから持ってきた美冬の絵だけがポツンと取り残されている。
一年近く、一日の大半を過ごしたアトリエをゆっくりと見回すと
美冬の絵から一番遠い壁際に腰を下ろした。
「俺、どこへ行けばいいんだろうね」
美冬の近くにいたのではくじけそうになる気がして、旅立つ準備をしたけれど
行き先はまだ決めていない。
悟は急にカゴから解き放たれた鳥のように戸惑っていた。
絵の中の美冬はあの時と変わらず希望に満ちた眼差しでこっちを見ている。
「あなたは絵を描いている俺が好きだったんだよね。でもあなたが望むようにばかり
生きては行けないんだ。どうすればよかったんだよ」
悟は美冬の絵を乱暴に床に置くと、鞄から絵の具を取り出して塗りつぶし始めた。
もうあなたのことは忘れる、と心のなかで繰り返した。
塗り重ねる絵の具の上に涙がこぼれた。
悲しいのか悔しいのかわからない涙がこぼれた。
どんなに塗り重ねても、涙で滲んでも美冬の笑顔は悟の記憶からは消えない。
やがて愛し愛された時間を消すことはできないことに気づいた時、
ひとつの風景が脳裏に浮かんだ。
懐かしくて暖かい風景。
川沿いの遊歩道を母と手をつないで歩いた。
桜並木があってじゃれあいながら友達と走った。
土手に座って四季折々の風の匂いを感じた。
遊歩道から一段低くなった土地に住宅街が広がっていて、
その入り口にある青い屋根の家に、自分を愛してくれる家族がいた。
くじけそうになるたびに支えてくれた愛された記憶。
悟はさっき塗りつぶしたキャンバスに、心の中にある故郷の風景を描き始めた。
少しずつ姿を現す懐かしい風景に夢中になった。
ふと気がつくとすでに日が傾き始めて、窓から見える街並みがいつもより少しだけ優しく見える。
悟は立ち上がって、絵を壁に立てかけると重いショルダーバッグを肩にかけた。
行き先は決まっていた。
好きだから絵を描いていたあの場所にもどって、それからどうするか考えればいい。
住む人をなくした青い屋根の家はきっとお帰りと喜んでくれるだろう。
アトリエのドアを開けて外に出ると、ビルの窓に夕日が反射して眩しかった。
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長々と妄想にお付き合いくださましてありがとうございます
当初の予定とはまるで別のお話になってしまいまして
いやもう自分で始めておいて、今はホッとしている始末です。
このあと悟君は、妄想ドラマ『トビラ』で相葉雅紀と出会うんですが・・・
トビラのほうが先だったんでいろいろとつじつまが合っておりませんし、
名前も違うだろ!ってことになりました
ではまた妄想の世界で
これで悟くんともお別れです。
新年は妄想ではなく、本物のドラマで悟くんに会えますね。
偶然にも同じ名前で嬉しいです
ではどうぞ
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (最終回)
フリースタイルで功一と美冬と3人で話をした後、悟はマンションではなくアトリエに向かった。
完成間近の絵を眺めながら、功一とのやり取りを思い返していた。
自分の決断に迷いがなかったと言えば嘘になる。
しかし、最良の選択だと信じるしかない。
美冬が最後まで笑顔を見せなかったことが気になったけれど、
彼女だってほかに道がないことは納得したと思う。
絵はあと2日もあれば完成するだろう。
悟は絵の完成を惜しむように、手を加え始めた。
美冬と連絡が取れなくなったのは、絵が完成した3日後だった。
携帯にかけても出ないし、メールを送っても返事がない。
気になって翌日ギャラリーに電話を入れると、スタッフの女性に、
体調が良くないのでしばらくお休みですと言われた。
美冬のマンションに行ってみたけれど、誰もいる気配がない。
悟は胸騒ぎがしてギャラリーへ急いだ。
ちょうど佐和野が出てきたところに行き合わせた。
「教えてください。美冬さんになにかあったんですか?」
「おとといの夜、具合が悪くなって救急車で運ばれたらしい・・・」
そこで言葉は途切れた。
「救急車?なぜ黙ってる」
悟は佐和野に詰め寄った。
「流産してしまったそうだ。まだ君には連絡がないんだね」
「なぜあなたが知っているんだ?」
「社長に聞いたんだよ」
走り出そうとする悟の腕を佐和野が掴んだ。
「待ちなさい。社長は今頃大阪だ。美冬さんは知り合いの病院に入院しているから大丈夫」
「どこの病院ですか?」
「気の毒だとは思うけど教えられない」
「なぜ?」
「美冬さんが君には自分で言うから、連絡しないでくれと社長に言ったそうだ。
きっとショックで混乱しているんだよ。君に会うのが辛いんじゃないかな。
流産したのは仕方のないことで美冬さんのせいじゃないんだ。もう少し待ってあげて欲しい」
「あなたにそんなこと言われたくない」
悟は居たたまれない気持ちでその場を去った。
悲しくて寂しくて胸が苦しい。
マンションの部屋へ戻ると自分が描いた美冬の絵が目に飛び込んできた。
いつものように優しく笑いかけてくる。
でも現実の世界の美冬は今頃どんな思いでいるのだろうか。
悲しみにくれて泣くのなら、自分の胸で泣いてほしかった。
そうすればその悲しみを分かち合うことができるのだから。
美冬が連絡をくれないわけを考えると悟は不安でたまらなくなった。
その日は酒を飲んで、酔いつぶれて眠りについた。
翌日、功一から電話があったが、話の内容は佐和野から聞いたとおりだった。
手術後の経過は問題ないので、しばらく鎌倉の別荘で過ごさせることにする。
長年、働いてくれているお手伝いさんが一緒に行ってくれるので心配ないと言う功一の言葉を聞きながら、
悟は美冬が少しずつ別の世界へ遠ざかっていくような気がしていた。
美冬からの連絡がないまま何日が過ぎただろうか。
アトリエの壁にもたれて完成した絵をむなしい気持ちで眺めていると、
誰かかが入り口のドアをノックした。
のろのろと立ち上がってドアを開けると、春風が桜の花びらをアトリエに吹き込んだ。
「心配かけたね。美冬もやっと気持ちの整理がついたみたいだ。
中へ入ってドアを閉めると、功一が言った。
「気持ちの整理・・・何のことですか?」
「突然なんだがニューヨークへ行ってみないか?向こうの美大へ留学して2,3年したら
向こうで個展をやるんだ。君のことを引き受けたいと言ってる人がいるんだよ。
やはり君の才能を潰してしまうのは忍びない」
「今更何を言っているんだ。ふざけないでください」
「これを預かってきた。美冬からの手紙だ。これを読んで、もしその気になったら私に連絡をしてくれ」
功一は背広の内ポケットから薄い水色の封筒を取り出すと悟に渡した。
ドアノブに手をかけてからもう一度悟を振り返って言った。
「美冬は私に似て頑固者だよ。娘のわがままを許してやってくれ」
功一が帰ってからも悟はしばらく封筒を握り締めていた。
やがて決心して中を見た。
大町悟様
毎日毎日あなたのことを考えていました。
でも会うことはできなかった。声を聴く勇気すらない私を許してください。
やっとあなたに会えない理由がわかってきました。
私はあなたから絵を取り上げることはできません。生まれてくる子供のためと
無理に納得しようとしたけれど、今はその命もなくなりました。
悲しくてたまらないけれど、これであなたを自由にしてあげることができたと思う気持ちもあります。
ひどい母親です。
でも絵を描くことを止めてしまったとき、きっとあなたはあなたらしく生きることができなくなる。
人を愛し、友達と笑い、ご飯を食べて眠るのと同じくらい、絵を描くことは
あなたが生きていく上で必要なことだと思います。ましてそのきらきらとした可能性を
信じて見守ってきた私自身が奪うなんて出来ません。
今度のことで私は愛する人を失うより、私が見出した画家大町悟を失うことの方が
耐えられない自分に気づいてしまいました。
私はやはりギャラリストでしかなくて、あなたと人生を共にする伴侶にはなれません。
どうか私のことは忘れてください。勝手なことだとはわかっています。
そしてどんな形でもかまわないから絵を描き続けてください。
いつかきっとどこかであなたの絵に会える日がくることを信じています。
栗原美冬
フルネームで描かれた名前が二人の距離を感じさせた。
悟の腕には美冬を抱きしめた感触がまだ残っている。
それなのに二人で描くはずだった未来が消えていくのがわかった。
どこかで、やっぱり無理だったと思う自分がいた。
数日の間に悟はマンションを引き払う手続きをし、家財道具の処分を業者に頼んだ。
東京へ出てきた時と同じくらいのわずかな身の回りのものだけを持って、
アトリエに行った。
すでにここも片付いている。
完成していた絵は佐和野にすべてを任せた。
マンションから持ってきた美冬の絵だけがポツンと取り残されている。
一年近く、一日の大半を過ごしたアトリエをゆっくりと見回すと
美冬の絵から一番遠い壁際に腰を下ろした。
「俺、どこへ行けばいいんだろうね」
美冬の近くにいたのではくじけそうになる気がして、旅立つ準備をしたけれど
行き先はまだ決めていない。
悟は急にカゴから解き放たれた鳥のように戸惑っていた。
絵の中の美冬はあの時と変わらず希望に満ちた眼差しでこっちを見ている。
「あなたは絵を描いている俺が好きだったんだよね。でもあなたが望むようにばかり
生きては行けないんだ。どうすればよかったんだよ」
悟は美冬の絵を乱暴に床に置くと、鞄から絵の具を取り出して塗りつぶし始めた。
もうあなたのことは忘れる、と心のなかで繰り返した。
塗り重ねる絵の具の上に涙がこぼれた。
悲しいのか悔しいのかわからない涙がこぼれた。
どんなに塗り重ねても、涙で滲んでも美冬の笑顔は悟の記憶からは消えない。
やがて愛し愛された時間を消すことはできないことに気づいた時、
ひとつの風景が脳裏に浮かんだ。
懐かしくて暖かい風景。
川沿いの遊歩道を母と手をつないで歩いた。
桜並木があってじゃれあいながら友達と走った。
土手に座って四季折々の風の匂いを感じた。
遊歩道から一段低くなった土地に住宅街が広がっていて、
その入り口にある青い屋根の家に、自分を愛してくれる家族がいた。
くじけそうになるたびに支えてくれた愛された記憶。
悟はさっき塗りつぶしたキャンバスに、心の中にある故郷の風景を描き始めた。
少しずつ姿を現す懐かしい風景に夢中になった。
ふと気がつくとすでに日が傾き始めて、窓から見える街並みがいつもより少しだけ優しく見える。
悟は立ち上がって、絵を壁に立てかけると重いショルダーバッグを肩にかけた。
行き先は決まっていた。
好きだから絵を描いていたあの場所にもどって、それからどうするか考えればいい。
住む人をなくした青い屋根の家はきっとお帰りと喜んでくれるだろう。
アトリエのドアを開けて外に出ると、ビルの窓に夕日が反射して眩しかった。
------end-------
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長々と妄想にお付き合いくださましてありがとうございます
当初の予定とはまるで別のお話になってしまいまして
いやもう自分で始めておいて、今はホッとしている始末です。
このあと悟君は、妄想ドラマ『トビラ』で相葉雅紀と出会うんですが・・・
トビラのほうが先だったんでいろいろとつじつまが合っておりませんし、
名前も違うだろ!ってことになりました
ではまた妄想の世界で