嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ 『Snowflake』 (最終回)

2009年12月30日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
遅くなりました

これで悟くんともお別れです。

新年は妄想ではなく、本物のドラマで悟くんに会えますね。

偶然にも同じ名前で嬉しいです

ではどうぞ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



    妄想ドラマ 『Snowflake』 (最終回)



フリースタイルで功一と美冬と3人で話をした後、悟はマンションではなくアトリエに向かった。

完成間近の絵を眺めながら、功一とのやり取りを思い返していた。

自分の決断に迷いがなかったと言えば嘘になる。

しかし、最良の選択だと信じるしかない。

美冬が最後まで笑顔を見せなかったことが気になったけれど、

彼女だってほかに道がないことは納得したと思う。


絵はあと2日もあれば完成するだろう。

悟は絵の完成を惜しむように、手を加え始めた。


美冬と連絡が取れなくなったのは、絵が完成した3日後だった。

携帯にかけても出ないし、メールを送っても返事がない。

気になって翌日ギャラリーに電話を入れると、スタッフの女性に、

体調が良くないのでしばらくお休みですと言われた。

美冬のマンションに行ってみたけれど、誰もいる気配がない。

悟は胸騒ぎがしてギャラリーへ急いだ。

ちょうど佐和野が出てきたところに行き合わせた。


「教えてください。美冬さんになにかあったんですか?」

「おとといの夜、具合が悪くなって救急車で運ばれたらしい・・・」

そこで言葉は途切れた。

「救急車?なぜ黙ってる」

悟は佐和野に詰め寄った。

「流産してしまったそうだ。まだ君には連絡がないんだね」

「なぜあなたが知っているんだ?」

「社長に聞いたんだよ」

走り出そうとする悟の腕を佐和野が掴んだ。

「待ちなさい。社長は今頃大阪だ。美冬さんは知り合いの病院に入院しているから大丈夫」

「どこの病院ですか?」

「気の毒だとは思うけど教えられない」

「なぜ?」

「美冬さんが君には自分で言うから、連絡しないでくれと社長に言ったそうだ。

 きっとショックで混乱しているんだよ。君に会うのが辛いんじゃないかな。

 流産したのは仕方のないことで美冬さんのせいじゃないんだ。もう少し待ってあげて欲しい」

「あなたにそんなこと言われたくない」

悟は居たたまれない気持ちでその場を去った。

悲しくて寂しくて胸が苦しい。


マンションの部屋へ戻ると自分が描いた美冬の絵が目に飛び込んできた。

いつものように優しく笑いかけてくる。

でも現実の世界の美冬は今頃どんな思いでいるのだろうか。

悲しみにくれて泣くのなら、自分の胸で泣いてほしかった。

そうすればその悲しみを分かち合うことができるのだから。

美冬が連絡をくれないわけを考えると悟は不安でたまらなくなった。

その日は酒を飲んで、酔いつぶれて眠りについた。


翌日、功一から電話があったが、話の内容は佐和野から聞いたとおりだった。

手術後の経過は問題ないので、しばらく鎌倉の別荘で過ごさせることにする。

長年、働いてくれているお手伝いさんが一緒に行ってくれるので心配ないと言う功一の言葉を聞きながら、

悟は美冬が少しずつ別の世界へ遠ざかっていくような気がしていた。



美冬からの連絡がないまま何日が過ぎただろうか。

アトリエの壁にもたれて完成した絵をむなしい気持ちで眺めていると、

誰かかが入り口のドアをノックした。

のろのろと立ち上がってドアを開けると、春風が桜の花びらをアトリエに吹き込んだ。


「心配かけたね。美冬もやっと気持ちの整理がついたみたいだ。

中へ入ってドアを閉めると、功一が言った。

「気持ちの整理・・・何のことですか?」

「突然なんだがニューヨークへ行ってみないか?向こうの美大へ留学して2,3年したら

 向こうで個展をやるんだ。君のことを引き受けたいと言ってる人がいるんだよ。

 やはり君の才能を潰してしまうのは忍びない」

「今更何を言っているんだ。ふざけないでください」

「これを預かってきた。美冬からの手紙だ。これを読んで、もしその気になったら私に連絡をしてくれ」

功一は背広の内ポケットから薄い水色の封筒を取り出すと悟に渡した。

ドアノブに手をかけてからもう一度悟を振り返って言った。

「美冬は私に似て頑固者だよ。娘のわがままを許してやってくれ」

功一が帰ってからも悟はしばらく封筒を握り締めていた。

やがて決心して中を見た。



 
 大町悟様


毎日毎日あなたのことを考えていました。

でも会うことはできなかった。声を聴く勇気すらない私を許してください。

やっとあなたに会えない理由がわかってきました。

私はあなたから絵を取り上げることはできません。生まれてくる子供のためと

無理に納得しようとしたけれど、今はその命もなくなりました。

悲しくてたまらないけれど、これであなたを自由にしてあげることができたと思う気持ちもあります。

ひどい母親です。

でも絵を描くことを止めてしまったとき、きっとあなたはあなたらしく生きることができなくなる。

人を愛し、友達と笑い、ご飯を食べて眠るのと同じくらい、絵を描くことは

あなたが生きていく上で必要なことだと思います。ましてそのきらきらとした可能性を

信じて見守ってきた私自身が奪うなんて出来ません。

今度のことで私は愛する人を失うより、私が見出した画家大町悟を失うことの方が

耐えられない自分に気づいてしまいました。

私はやはりギャラリストでしかなくて、あなたと人生を共にする伴侶にはなれません。

どうか私のことは忘れてください。勝手なことだとはわかっています。

そしてどんな形でもかまわないから絵を描き続けてください。

いつかきっとどこかであなたの絵に会える日がくることを信じています。


                        栗原美冬


  
                           
フルネームで描かれた名前が二人の距離を感じさせた。

悟の腕には美冬を抱きしめた感触がまだ残っている。

それなのに二人で描くはずだった未来が消えていくのがわかった。

どこかで、やっぱり無理だったと思う自分がいた。


数日の間に悟はマンションを引き払う手続きをし、家財道具の処分を業者に頼んだ。

東京へ出てきた時と同じくらいのわずかな身の回りのものだけを持って、

アトリエに行った。

すでにここも片付いている。

完成していた絵は佐和野にすべてを任せた。

マンションから持ってきた美冬の絵だけがポツンと取り残されている。

一年近く、一日の大半を過ごしたアトリエをゆっくりと見回すと

美冬の絵から一番遠い壁際に腰を下ろした。

「俺、どこへ行けばいいんだろうね」

美冬の近くにいたのではくじけそうになる気がして、旅立つ準備をしたけれど

行き先はまだ決めていない。

悟は急にカゴから解き放たれた鳥のように戸惑っていた。

絵の中の美冬はあの時と変わらず希望に満ちた眼差しでこっちを見ている。

「あなたは絵を描いている俺が好きだったんだよね。でもあなたが望むようにばかり
 
生きては行けないんだ。どうすればよかったんだよ」

悟は美冬の絵を乱暴に床に置くと、鞄から絵の具を取り出して塗りつぶし始めた。


もうあなたのことは忘れる、と心のなかで繰り返した。

塗り重ねる絵の具の上に涙がこぼれた。

悲しいのか悔しいのかわからない涙がこぼれた。

どんなに塗り重ねても、涙で滲んでも美冬の笑顔は悟の記憶からは消えない。


やがて愛し愛された時間を消すことはできないことに気づいた時、

ひとつの風景が脳裏に浮かんだ。

懐かしくて暖かい風景。

川沿いの遊歩道を母と手をつないで歩いた。

桜並木があってじゃれあいながら友達と走った。

土手に座って四季折々の風の匂いを感じた。

遊歩道から一段低くなった土地に住宅街が広がっていて、

その入り口にある青い屋根の家に、自分を愛してくれる家族がいた。

くじけそうになるたびに支えてくれた愛された記憶。


悟はさっき塗りつぶしたキャンバスに、心の中にある故郷の風景を描き始めた。

少しずつ姿を現す懐かしい風景に夢中になった。

ふと気がつくとすでに日が傾き始めて、窓から見える街並みがいつもより少しだけ優しく見える。

悟は立ち上がって、絵を壁に立てかけると重いショルダーバッグを肩にかけた。

行き先は決まっていた。

好きだから絵を描いていたあの場所にもどって、それからどうするか考えればいい。

住む人をなくした青い屋根の家はきっとお帰りと喜んでくれるだろう。

アトリエのドアを開けて外に出ると、ビルの窓に夕日が反射して眩しかった。

 

       ------end-------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

長々と妄想にお付き合いくださましてありがとうございます

当初の予定とはまるで別のお話になってしまいまして

いやもう自分で始めておいて、今はホッとしている始末です。

このあと悟君は、妄想ドラマ『トビラ』で相葉雅紀と出会うんですが・・・

トビラのほうが先だったんでいろいろとつじつまが合っておりませんし、

名前も違うだろ!ってことになりました

ではまた妄想の世界で
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (24)

2009年12月21日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  妄想ドラマ 『Snowflake』 (24)



悟は栗原功一が自分を海外へ行かせようとしているらしいということを、

美冬には話さなかった。

それが事実かどうかは功一に確かめないかぎりわからないだろう。

子供が出来たことを話せば、反対しているという二人のことも認めてくれるに違いない。

すぐに悟は結婚の承諾を得るために、功一に会うことにした。

もちろん美冬と二人で。


シャッターの下りたギャラリーフリースタイルで3人は顔を合わせた。

功一は話を聞くと腕組みをしたまま、考え込んだ。

突然、娘に妊娠を告げられて動揺していた。

功一が考えていた美冬の幸せは、佐和野と結婚するという前提のもとに成り立っていた。

佐和野だったら何の心配もなくすべてを任せて、自分は引退できると思う。

大町悟とのことは引き離せばすむような、一時的な気の迷いだと思っていた。

美冬は自分が見出した才能に舞い上がっていると。


やがて功一は決心して二人に言った。

「驚いたけど、こうなったからには今更反対なんて出来ないだろう。生まれてくる命は祝福してやらないとな」

「結婚を認めてもらえるんですね」

「娘を頼むよ」

「お父さん、ありがとう」

美冬と悟は顔を見合わせて微笑んだ。


「ただし、条件がある」

今度は悟の目を見て功一が言った。

「君にフリースタイルの後継者になるための勉強をしてもらう。それだけは私が譲れない唯一の条件だ」

「ちょっと待ってお父さん。どういうこと?」

「お前たちが結婚して、佐和野がこのまま会社に留まると思うか?誰もが佐和野は美冬と結婚していずれは社長に就任すると思っている。

 佐和野には大町くんの個展が終わった時点で辞めさせてほしいと言われていたが、今まで引き止めていたんだ」

佐和野は仕事ができるぶん、プライドも高い。

第一、周りにそんなふうに思われていることを知りながら、美冬も否定しなかった。

彼に好意を持ち、功一の期待通り、時がくれば結婚するつもりでいたから。


「でも悟君は個展も成功して、画家としてこれからが大事なのよ。仕事は私が頑張る」

「子供を産んで育てるということは、仕事の片手間でできることじゃないよ。

 海外への出張だって多いし、時間だって不規則だ」

美冬は返す言葉がなかった。


それぞれが心の中で葛藤を繰り返した。

通りを走る車の音がいつもより大きく響く気がする。

「わかりました。少しだけ時間をください。今描いている絵が完成したらおっしゃるとおりにします」

悟が言った。

「覚えることは山ほどある。絵は捨てるくらいの覚悟が欲しい。大丈夫かな?」

「大丈夫です」


突然美冬が立ち上がった。

「悟君が大丈夫でも私はいや。絵を捨てるなんてできっこない。きっと後悔する」

「美冬さん、大丈夫だよ。今の俺にとって一番大切なのは絵を描くことじゃないんだ」

「美冬、現実を見なさい。佐和野がこなしていた仕事をお前が引き継ぐのは無理なんだよ。

 大町君だって世界へ目を向けて多くの絵画に触れていれば、趣味で絵を描くなんてことで満足できるはずがない。

 かえって苦しい思いをするだろう。きっぱり捨てたほうがいい」

「そんな・・・」

呆然とする美冬の手にそっと自分の手を重ねて悟が言った。

「その方がすっきりすると思う。この先、画家として食べていけるかどうかわからないし、

 美冬さんと子供に苦労をさせたくないんだ。俺はもうひとりじゃないんだから平気」


「今の言葉を聞いて安心したよ。思っていたより君はしっかりした男のようだね。

 美冬はいつまでたっても夢ばかり見て困ったもんだ」

功一が立ち上がって悟に手を差し出し、二人は固い握手をした。

「きりよく4月から仕事を始めてもらうことにしよう。今月中に身辺整理して・・・そうだ、スーツを何着か用意してもらわないとね。

 その様子じゃ持ってないだろう?」

功一は安心したのか、陽気にあれこれと今後のことを話し出した。

悟も笑顔で相槌をうっている。

思わぬ展開になったけれど、これでいいんだと自分に言い聞かせながら。

今の自分なら、美冬と子供のために絵を捨てることができる。

それよりも守らなければならない幸せが、目の前に広がっていると思えた。



   --------つづく-------



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

やっほい!次回は最終回・・・の予定です。

まいどまいど予定ですみません



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (23)

2009年12月16日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
冷たい雨が今、雪に変わる~

本当にそんな季節になりましたね。

嵐の『Snowflake』がジ~ンときます。

ではどうぞ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


妄想ドラマ 『Snowflake』 (23)



「何か最近疲れてる?」

「ううん、そんなことないよ」

美冬は笑って見せたけど、どこか不自然な笑顔だと自分でも思った。

悟の目を見ることが出来ない。

「さっきから全然食べてないよ。このパスタ大好きだったのに」

「お腹すいてないの」

そう言いわけしてほんの少し口元に運んだけれど、口に入れることはできなかった。

ここ数日、急に食べられないものが増えた。


「すみません、お冷ください」

以前は美味しそう、と感じた店内にただようピザの香ばしい匂いが吐き気をよんだ。

「ごめん。やっぱり疲れてるから今日は帰るね」

美冬は運ばれた水を飲むと立ち上がって、ハンカチで口を押さえた。

「出よう。先に外で待ってて」

悟は支払いを済ませ、料理にほとんど手をつけなかったことを詫びて外へ出た。


「どう?外の空気吸ったら少しは気分が良くなった?」

驚いて悟を見ると、悟は美冬の手を握って微笑んだ。

「隠してることがあるなら言って。打ち明けるなら今がチャンスだよ」

「そうね・・・」

それでもためらっている美冬に悟は言った。

「俺さ、ひょっとしたらパパになるのかなぁって思ったりして」

「いいの?」

悟の真意を確かめるようにじっと目を見た。

「もちろん」

新しい命を迎える喜びが悟の心にじわじわと満ちてきて、

それと同時に、なかなか言い出せずに不安な気持ちを抱えていた美冬が可哀そうで

ますます愛おしいと思う。

悟が美冬を引き寄せた時、街路樹の陰で何かが光った。

カメラのレンズだ。


数ヶ月前、悟となぐりあったカメラマンが、にやにや笑いながら近づいてきた。

「またお会いするなんて奇遇ですねぇ。いい写真が撮れましたよ」

「どういうつもりだ?」

「おっと、お互いのためになりませんから暴力は無しで」

「行こう」

悟は男を無視して美冬の肩を抱くと歩き始めた。

「面白い話を聞いたんですけどね。大町さんはしばらく海外に行かれるとか」

美冬が驚いて振り返った。

「どうせつまらない嫌がらせだ。美冬さん先に帰ってて」

悟はタクシーを拾い、美冬を安心させようと笑顔を見せた。

「どこにも行かないから大丈夫、今は自分の体のことを考えて」

「電話してね」

あたりに人通りがあることを確かめて、美冬はタクシーに乗った。



「なぜ俺たちに嫌がらせをする?今度は金でもゆするつもりか」

男はポケットからタバコを取り出すと火をつけ、自分が吐き出した煙を見ながら自嘲気味に言った。

「金も欲しいけどあんたが妬ましかったのもあるかな。若くて才能があって、付き合ってるのは金持ちの画商の娘。

 画家としての将来が約束されたようなもんだ。そのうえ容姿端麗で世間が好きな不運な生い立ちときた。

 なんだかイラつくんだよ」

「人を妬んで陥れたって、あんたが幸せになれるわけないだろ」

「まあね」

「それで俺が海外へ行くってのはなんのことだ?」

「彼女から聞いてないのかな?父親がふたりのこと反対してるって。それで美味しい話を用意して大町悟を追い払おうってことらしい」

「そんなこと出来るわけがない」

「どうかな。あんただって絵が売れなくなると困るでしょ。あの人は美術界では影の大物だからね」

男はたばこの火を靴でもみ消すと、ひとりごとのように言った。

「どうなるか楽しみだな」



     -------つづく------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あ~なんであんなことにしちゃったんだか・・・

22回の終わり方を後悔しました。

おかげで“行き詰って”3回くらい書き直しちゃった

私が行き詰ったら誰に電話していいの~?

来週中には最終回にたどりつきたいと思ってます。

それではまた
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (22)

2009年12月12日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
では嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    
    妄想ドラマ 『Snowflake』 (22)



悟は佐和野に渡された週刊誌を読み終えると、床に叩きつけた。

「美冬さんは?」

「今日は社長と一緒に弁護士さんのところへ。正式な文書で出版社に抗議をしておかないとね」

「俺にできることは?」

「相手の出方を見るまでは二人で会うのはやめてもらいたいんだ」

「なぜですか?週刊誌に書かれたことは嘘ばかりだ。俺はこんな記事なんか平気です。

 こんなくだらないことに振り回されるのは嫌なんだ」 

「少し大人になれ。美冬さんはひどいこと書かれて傷ついているんだよ」 

「だから傍に・・・」 

「彼女は今まで築いてきた信用を失うわけにはいかないんだよ。会社や従業員や、

 守らなくちゃいけないものがたくさんある。今後のことも慎重に考えなくちゃいけない。

 自分のことだけ考えていられる君とは違うんだ」 


悟は佐和野を睨んだ。

「あなたは俺のことが気に食わない?」

佐和野は腕組みをしたまま、悟の厳しい視線を受け止め言った。

「君の才能は認めている。でも彼女のためには、この機会に君と別れたほうがいいと思ってるよ。

 君じゃ美冬さんを幸せにはできない」

悟は上着をつかむとアトリエを飛び出した。


行く当てもなく歩きながら美冬に電話をかけた。

「週刊誌見たよ。大丈夫?」

「大丈夫」

「強がってる」

「そうね。本当は辛くてやりきれないけど・・・頑張る。悟君は?」

「俺は美冬さんに会えないのが辛い。でもそれ以外は平気だよ。こんなことで俺たちは何も変わらない。そうだろ?」

「うん、変わらない」

美冬の胸に暖かいものが広がっていく。

「声を聞いたらなんだか元気が出てきた」

「俺も声を聞いたら安心した。あんなくだらない記事はすぐに忘れ去られるよ。

 嫌な思いすることもあるかもしれないけど二人で乗り切ろう」


悟の言ったとおり、年末年始の慌しさが過ぎると、記事のことは人々の記憶から消えていった。

取引先の関係者の中には好奇の目で見る人間もいたが、美冬は精一杯何事もなかったようにふるまった。

雑誌社は記事に適切でない表現があったと、目立たない短い謝罪文を載せた。

記事はフリーの記者が持ち込んだもので、当人は名誉毀損で争うなら悟のことを傷害罪で訴えると言ってきた。

事を荒立てるのはかえってよくないという功一の判断で、お互い裁判沙汰はやめようという文書が交わされた。

やがて時の流れが、二人に元通りの生活を返してくれた。


桜の蕾が膨らみ始めるころ、美冬は体調の変化に気づいた。

迷った末、訪れた産婦人科の医師は優しい口調で告げた。

「妊娠5週目ですね。超音波で胎のうが確認できます」


   --------つづく------



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


最終回もそこまで!?

ミントがうるさいんです。

早く終わらせて、次をはじめろってね。

ではまた

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (21)

2009年12月08日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
野球の経験無いのに、140キロのボールを打っちゃう

ガラスのハートさんのポスターを眺めながら、続きを考えていたら

ドキドキしちゃいました

では嵐の『Snowflake』をBGMにどうぞ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


    妄想ドラマ 『Snowflake』 (21)




悟の個展は新人としては異例の注目を浴びた。

月刊アートの連載を読んで興味を持った人たちは多く、

また女性週刊誌で悟自身に興味を持ったと思われる女性たちも大勢訪れた。

悟は戸惑いを隠せなかったが、それでも女性たちに握手を求められれば応じていた。


「大町さん、お花が届いていますよ」

受付の女の子に声をかけられた。

受付のテーブルの上に、フリージアをメインに使ったアレンジメントが置かれている。

congratulationの文字がプリントされた小さなメッセージカードが添えられているけれど名前はない。

「いい香り、フリージアね。こんな可愛いお祝いを贈ってくださったのは誰?」

美冬が聞いた。

「名前ないからわからないよ」

そう答えたけれど、悟にはわかっていた。

亡くなった母が大好きだった花を知っているのは夏葉だけだ。

帰省した時はいつも二人でフリージアの花束を持って墓参りに行った。

彼女は今、幸せだろうか。

フリージアの香りと少しの後悔とが悟に故郷の風景を思い出させた。

大勢の人々に囲まれ、晴れの日を迎えながらもなぜか寂しさを拭えない。

にこやかに来場者の応対をしている美冬の手をとって、二人きりになれる所へ行きたかった。

もう一度愛情を確かめたくてたまらなくなった。



個展は盛況のうちに終わり、販売予定の絵はすべて売れ、新たな絵の制作依頼もあった。

テレビに出演する話も来たが、悟はかたくなに断った。

出来れば生活していけるだけの絵を描いて、美冬と静かに過ごしたいと思う。

いつの間にか絵を描くことと美冬を愛することが、悟の中で混ざり合ってひとつになり

切り離せないものになっている。

悟は個展の後も制作意欲が衰えることはなく、今までの人生の中で一番充実した日々を過ごしていた。

しかし、悟の望む穏やかな日々は長くは続かなかった。


年の瀬も押し詰まったある日、ギャラリーFREE STYLEは重い空気に包まれていた。

テーブルの上に置かれた週刊誌の表紙を美冬の父、功一が苦々しい面持ちでにらんでいる。

「こんなことを書かれてどうするつもりだ?」

「どうもしない。事実じゃないんだから」

「当たり前だ。でも私は聞かれれば説明しなきゃならないんだよ」

美冬はなにも言えなかった。


週刊誌には美冬が美術界では有名な画商の娘で、画家としての成功をバックアップすることを条件に、

若くて容姿に恵まれた悟を自分の好きにしているといった下劣な内容だった。

実名は伏せられていたが、個展会場の写真や二人が寄り添ってマンションから

出てくる写真が掲載されていた。

悔しくてたまらなかったけれど、どう対処すればいいのかわからない。

「社長、出版社に抗議しましょう」

佐和野が言った。

「そうだな。二人はそんな関係ではないと」

「待って。私達は真剣なの」

「二人が純粋かどうかなんてどうやって証明するんだ?大町悟にだって損得勘定がまるでないと言い切れるか?」

「悟君はそんな人じゃない」

「とにかく今は会うな。大きな商談を幾つか抱えているんだ。ゴシップは困る。

 それから大町悟は取材にきた記者に殴りかかったというのは本当か?」

「違う。それはむこうが先に手を出したって」

「美冬さんも一緒にいたんですか?」

「いいえ・・・」

功一は意味もなく歩き回ると、佐和野にむかって言った。

「争っても難しいな。他にも写真を撮られているだろうし、下手すれば余計なことをまた書かれる」

「そうですね。まずは弁護士さんに相談しないと」

「美冬、聞きなさい。私の娘がここに書かれているような人間じゃないことはわかっている。

 でも、どうするか決まるまでは大町悟には会うな。彼のほうは佐和野に任せよう」

「大丈夫。あまり心配しないで」

佐和野に言われて、美冬は抑えていた涙を止められなくなった。



   ---------つづく--------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あんまりですか?

だってドラマですもん

ではまた
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (20)

2009年12月03日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
あれま!もう20話ですね。

予定では終わってるはずでしたが・・・

まぁ妄想なんで膨らむのはいつものことです

では嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     妄想ドラマ 『Snowflake』 (20)




悟が最初にその男に気がついたのは一ヶ月ほど前だった。

いつもジーンズにカーキ色のミリタリージャケットを着て、ショルダーバッグを肩にかけていた。

アトリエの近くのパン屋に行ったとき、窓の外から中をのぞいていた男と目が合った。

その時は気にも留めなかったが、二度目に見かけた時はマンションの向かいのビルの陰で

タバコを吸っていた。

いやな感じがしたのを覚えている。


美冬からの電話でその男が自分をつけているのではないかと思った。

夜、マンションへ戻ってシャワーを浴びると着替えて外へ出た。

駅へ向かう途中で人気の無い路地へ入り、物陰に隠れてしばらく待ってみる。

足音が近づいてきた。

やはり気のせいではない。

「何か用ですか?」

男は突然目の前に現れた悟に驚いたが、無視して通り過ぎようとした。

「待てよ。何のために、こそこそ人の周りをうろついてるんだ」

逃げようとした男の肩に手をかけて引きとめようとしたら、振り向きざまに殴りかかってきた。



悟から電話がかかってきた時、美冬はベッドで本を読んでいた。

時計は11時を回っていた。

「美冬さんに会いたい。今すぐ会いたい。これから行ってもいい?」

「だめ。この前話したでしょ。こんな時間には・・・」

「大丈夫。もう今夜はいないよ」

「いないって誰が?」

悟は答えない。

「個展までもう時間もないけど、絵は完成したの?」

「どうせ描けない。手を傷めた」

「どういうこと?わかるように説明して」

「アトリエで待ってる。来てくれるまで何時間でも何日でも待ってる」

そう言って電話は切れた。

かけ直しても悟は出ない。


美冬は部屋着の上にコートをはおると、車でアトリエに向かった。

普段はとても穏やかで優しい悟だが、時々とても厳しい目をしている時がある。

きのう、ギャラリーのスタッフたちと一緒に、個展の最終打ち合わせをした。

帰り際に見せた表情は、いつもの悟とは違っていた。

個展に出すつもりの絵が、ほぼ完成しているのに悟はそこで行き詰っている。

美冬の目には素晴らしいと映るのに、悟には納得いかない何かがあるらしい。

厳しい表情はそのせいだと思っていた。

でもさっきの電話の様子では原因はほかにもありそうだ。


アトリエは灯りが消えていた。

ドアは開いていたので中に入ると、ブラインドの隙間から差し込む街灯で、

悟が部屋の隅に座り込んでいるのがわかった。

「悟君」

声をかける。

悟はゆっくり立ち上がると、静かに歩いてきて美冬を抱きしめ言った。

「キスして」

間近で悟の顔を見ると、左側が少し腫れて唇も切れ、血がこびりついていた。

「どうしたの?何があったの?」

「キスしてくれたら話す」

美冬は悟の頬に手を添えて唇の右側にそっとキスした。


「さぁ、話して」

「俺をつけてきた男が逃げようとしたから、引き止めたら殴りかかってきた。それでこの顔。

 でもそいつも、もっとひどい顔になってると思うけどね」

「ひどい・・・誰がそんなこと」

「なんで俺たちが人目を気にしないといけないの?おかしいだろ。美冬さんに会えないなら、

 もう個展なんてどうでもいい。俺は有名になりたいわけじゃないんだ」

「お願い聞いて。私もこれでいいとは思ってないけど、もう来週なのよ。

 月刊アートの取材も今更断れないし、ローカル局だけどテレビの取材も入るの。

 もう途中で投げ出すわけにはいかないのよ」


悟は苛立った気持ちをもてあまして拳で壁を叩いた。

沈黙の時が流れた。

「わかった。美冬さんが困るなら個展はやる。だから今夜は一緒にいて」

「手を傷めたって言ってたよね?見せて」

「たぶん捻挫かな。左手でだって描くよ。絵を完成させればいいんだろ。美冬さんが心配なのは絵のことだけだ」

「違う。違うからそんな風に言わないで」

悟は美冬に背中を向けたままつぶやいた。

「なんでこんなことになるんだ」

「悟君・・・」

美冬は後ろから悟を抱きしめ、肩に頬をつけてもたれかかった。

「大丈夫。私達は何も変わってない。私は誰よりもあなたが好き。これからもずっと」

「こんな俺でも?」

「そう、どんなあなたでも」

それから二人は寄り添ってひとつの寝袋と毛布にくるまり、朝になるのを待った。

世界中の誰よりも幸せだと思いながら。


     --------つづく------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


もう明日のドームが楽しみで、続きが考えられない

そろそろ最終回に向けて妄想しなくちゃいけないんですけど!?

ではまた

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (19)

2009年11月29日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
どうも~

サトシゴト&いろいろで遅くなりました

では『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


    妄想ドラマ 『Snowflake』 (19)




数日後、美冬は月刊アートの渡辺を連れて、悟のアトリエを訪れた。

約束をしていたのに声をかけても返事がない。

中に入ると、絵の前に置かれた脚立の傍に悟が倒れている。

その右手には絵筆が握られたままだ。

驚いて立ち尽くす美冬の横をすり抜け、渡辺が駆け寄って覗き込んだ。


「大町さん!大丈夫ですか!」

肩を揺すると悟は目を開け、ゆっくりと上体を起こした。

そして目をこすりながら言った。

「寝ちゃった。今、何時?」

「驚いたなぁ。約束の4時ですよ。月刊アートの渡辺です」

「どうも。寝るつもりはなかったんですけど・・・今日は何日だっけ?」

渡辺は笑いながら振り返って美冬に聞いた。

「大町さんっていつもこんな感じなんですか?」

「制作に夢中になると、限度ってものがわからなくなるみたいで・・・ほんとに驚いた」

「死んでると思った?」

悟は悪びれた様子もなく、にこにこしている。

「笑い事じゃないでしょ」

真面目な顔で悟を怒るつもりが、その笑顔を見るとつい美冬も笑顔になってしまう。

「渡辺さんすみません、気を悪くしないでくださいね」

「いいえ。かえって大町さんにすごく興味が湧きました」

渡辺は悟にこれからの取材の予定や、内容について説明したあと、

初めて自分が担当する連載であることや、この取材にかける熱意を語った。


渡辺が帰ってから悟が不思議そうに言った。

「なんで俺なんだろうね」

「佐和野さんの知り合いなんですって。個展を多くの人に知ってもらえるのはいいことだと思うけど、悟君はいや?」

「美冬さんがいいと思うならかまわないよ。俺はどっちでもいい」


後日、渡辺はカメラマンを連れて訪れ、悟のことが月刊アートで紹介された。

回を重ねるごとに、読者からの反響が大きくなり、悟の写真が多く使われるようになった。

カメラを意識した写真ではなく、絵を描いている時の後姿や横顔、

あるいは描きかけの絵の前でじっと佇んでいるようなありのままの様子が撮られた。

やがて、悟のルックスに目をつけた女性週刊誌も取材に訪れ、

どこで調べたのか悟の生い立ちをドラマチックに書きたてた。

ただそれらの雑誌を渡しても、悟は興味がないらしく写真をパラパラと見る程度で内容に目を通すことはなかった。

月刊アートの連載は美術誌らしく悟の作品を紹介してくれ、読者からの反響も個展への問い合わせがほとんどだ。

しかし悟の絵よりも、悟自身への興味をあおる週刊誌の記事は一人歩きをしている。

美冬は不安を感じ始めていた。


個展まであと半月となった10月の終わり、美冬は渡辺から電話をもらった。

「あの、僕に聞いたってことは誰にも言わないでほしいんですけど・・・」

「なんでしょう?」

「大町さんのまわりを嗅ぎまわってるやつがいるんで気をつけてください」

「嗅ぎまわるって、何をですか?」

「大町さんって若くてイケメンだから女性週刊誌の読者の興味をひいてるんですよ。

 しかも同情心をあおるように孤独で不幸な生い立ちって書かれたし。

 それで今度は別のところもいろいろと・・・」

「わかりました。大町くんには伝えておきますけど、今はほとんどアトリエにこもりっきりだし、

 書かれて困るようなことは何もないと思います」

「ええ、それは僕も知っています。彼はいい青年ですよ。でもね金のためならいい加減な記事をでっちあげるやつもいますから」

「ご心配いただいてありがとうございます」

美冬は後悔した。

悟を画家として世間に認めてもらいたいと、焦りすぎたのではないだろうか。

もっと彼の実力と才能を信じて待てばよかったのかもしれない。


悟に電話で事情を説明する時は、重い気持ちを隠して、大したことではないという感じで言った。

「それでね、念のために個展まで二人きりで会わないほうがいいと思うの」

「そんなのおかしいでしょ。俺は芸能人じゃないよ」

悟はめずらしく不機嫌な声を出した。

「会いたい人にはいつでも会う」

「でも個展まであと少しだし、変なこと書かれたら悔しいじゃない、それにアトリエやギャラリーで会えるでしょ。二人きりってわけにはいかないけど」

悟は黙り込んだ。

「悟君?」

「変なことって何?俺は美冬さんに会いたい」

「今はだめ」

美冬はつい強い口調になってしまった。

電話は黙って切れた。

自分がギャラリストではなかったら、もっと純粋な気持ちで悟に向き合えたのかもしれない。

けれど今は目前に迫った個展を成功させ、悟を画家として世に出すことが最優先だ。

それが自分なりの精一杯の愛し方だと美冬は思った。


      ---------つづく-------
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (18)

2009年11月22日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
今年は雪が多いか少ないか・・・

窓から見える山は真っ白で綺麗です。

それでは嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   妄想ドラマ 『Snowflake』 (18)



美冬がベッドから出て行く気配で悟は目を覚ました。

「今、何時?」

「6時少しまわったところ」

「早いね。もう行くの?」

「一度家に帰って着替えないと」

「同じ服じゃまずいか・・・」

悟はベッドの中から、美冬が着替える様子を眺めていた。

「そんなに見ないで」

「わかった」

悟はそう言って手で目を覆い、それから中指と薬指の間を開いてのぞいた。

笑いながら美冬は悟のそんなしぐさをたまらなく愛おしく思う。


手早く着替えると、バスルームで顔を洗い髪をとかしながら、今日の仕事の段取りを考えた。

新年の挨拶にいかなくてはいけないところが2件、夜も会食の予定が入っている。

去年あたりから父の功一が長い付き合いの自分のお得意様を、少しずつ美冬に引き合わせるようになった。

美冬はワンマンだった功一に反発していたのに、最近めっきり穏やかになっていく父の背中に寂しさを覚える。

佐和野のことが頭に浮かんだ。

もう、父の望む未来を選択することはできない。

今ならまだ引き返せる?鏡の中の自分に問いかけてみる。

そんなことはとうてい無理だ。

これから仕事のために悟と離れるのすら辛い。

どこからか湧き上がる、悟を求める熱い気持ちを抑えて明るく声をかけた。


「仕事あるから行くね」

「ほんとにもう行っちゃうんだ。今夜、また会える?」

悟がベッドから起きて来て美冬の背中に声をかけた。

「今夜は無理なの」

「じゃいつだったら会える?明日?あさって?」

美冬は靴を履いて振り返ると、悟の胸を人差し指で軽く突いた。

「困らせないで。連絡するから」

悟はその手を引いて腕の中に引き寄せた。

「アトリエで待ってる。俺はずっとアトリエで絵を描いてるよ」


家に向かうタクシーの中で、美冬は別れ際に交わしたキスの、

柔らかい唇の感触を思い出していた。

甘く切ない想いがこみ上げてきて、何度も悟の名前を心の中でつぶやいた。



忙しい仕事の合間をぬって、美冬は悟に会いに行った。

アトリエに行って、悟が絵を描く様子をずっと見ているだけで帰ることもあった。

絵を描き始めると悟は寝食を忘れて没頭してしまうことも多く、身体のことが気がかりだった。

その夜は、家で目を通そうと思っていた書類を忘れてギャラリーに取りに戻った。

閉店時間はとうに過ぎているのに灯りがついている。

佐和野だった。

このところ体調を崩している功一に代わって、遠方への出張は佐和野が一手に引き受けていた。

二人きりで顔を合わせたのは久しぶりだった。

あの話を避けては通れない。


「よかったら食事して帰りませんか?仕事以外の話もしたいし」

「あの、そのことなんだけど、佐和野さんとはこれからもずっと仕事のパートナーとして」

「大町悟ですか?」

佐和野が美冬の言葉をさえぎった。

重い空気が流れた。

「彼は才能に溢れているし、若くて可能性も無限だ。あなたが惹かれているのは

 画家としての大町悟の才能じゃないのかな。長い人生を共に歩いていける相手とは思えない」

「確かに先のことはまだ考えられないけど、今は彼のことで頭がいっぱいで・・・自分でも戸惑ってるくらい」

佐和野が小さくため息をついた。

「そうですか。僕が入り込む余地はなさそうだな」

「ごめんなさい」

「あやまらないで。僕の話はなかった事にしてください」

「ありがとう」

佐和野は机の引き出しから何かをとりだすと美冬に言った。


「ここからは仕事の話です」

そう言うと佐和野は一枚の名刺を美冬に差し出した。

美冬もよく知っている月刊アートの社員のものだった。

佐和野の友人に月刊アートの編集者がいて、有望な新人が個展を開くまでを追いかける企画を提案し、編集長からOKをもらった。

そこで悟を取材したいということだった。

毎月、見開き2ページの記事にして、最後は個展開催の記事で締めくくる。

ただ才能があるだけでは世に出られない。

実は個展を成功させるために、この企画を友人に持ちかけたのは佐和野だった。

「社長は了解済みです。大町くんには美冬さんから話してください。向こうはとにかく一度本人に会いたいと言ってますから」

「わかりました。でも・・・」

「心配しないで。あなたと大町悟がどういう関係でも、彼の個展は僕がやりたくて言い出したことですから」

佐和野はいつも大人で冷静だ。

美冬は今更ながら佐和野の好意に甘えてばかりで、その気持ちに応えられないことを申し訳なく思った。


      ----------つづく-------
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (17)

2009年11月17日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
遅くなってすみませんでした

嵐ちゃんで言ってた、彼女の絵を描くおーちゃんと悟がオーバーラップして

もうたまんないなんか変態っぽい?私。


では主題歌は嵐の『Snowflake』で



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     妄想ドラマ 『Snowflake』 (17)



悟の腕の中の美冬は、なぜかずっと昔から知っていたような匂いがした。

自分でも意識していないころから、彼女のことを求めていた気がする。

美冬が初めて恋をした少女のように、おずおずと悟の身体に腕をまわしてきた。

それから二人は、長い間離れ離れで、やっと再会できた恋人同士のように何度も唇を重ねた。


美冬の髪に指をすべらせながら悟が言った。

「行こう!急に腹減った」

悟はフードつきのジャケットを急いではおると、美冬をうながして外に出た。

街には新年会に繰り出すのだろうか、賑やかなグループがあちらこちらで見受けられる。

ゆるやかな人の流れを足早に追い越しながら、悟は美冬とつないだ手を一度も離そうとしなかった。

ずっと黙ったまま歩き、時々優しい目で美冬に微笑みかけた。

美冬も笑顔で応える。

言葉を交わすと高揚した気持ちが口からこぼれ出て、勢いをなくしてしまいそうだった。

下北沢の駅から悟のマンションまでの途中で、ワインとテイクアウトのピザやサラダを買った。


悟は部屋に入るとエアコンのスイッチを入れ、キッチンに買ってきたものを置くと

「すっかり冷えちゃったね」

と言った。

「電子レンジであっためれば?」

美冬が言うと笑って首をふった。

「違うよ。ピザじゃなくて俺たち」

「今夜は冷え込んでるみたい。部屋が暖かくなるまでコート着たままでいい?」

悟とつないでいなかったほうの冷たくなった手に、息を吹きかけながら美冬が言った。

「おいで」

悟は美冬のコートを脱がせると、自分のインナーの付いたジャケットのファスナーを開け、

そこに美冬を包み込むように抱き寄せた。

「このほうがあったかいでしょ?」


美冬はまた激しく動揺した。

これまで自分の方がずっと大人として振舞ってきたのに、今は立場が逆転している。

悟は少しも臆することなく自分の気持ちに正直に行動し、美冬はその度におどおどしてしまう自分がいやだった。

恋愛経験だってそれなりにある。

もっと余裕をもって年下の悟に接したいのに、なぜか途方にくれてしまう。

心のままに身を任せたいという想いと、何をしているんだという罪悪感が入り乱れた。

佐和野の顔が一瞬浮かんだけれど、悟の声がそれを消した。


「部屋、もう暖まったね」

身体を離すと悟はジャケットとトレーナーを脱いでTシャツになり、

美冬の手を引くとそのままベッドに連れて行った。

「待って」

美冬はベッドに座りながら悟の手を押さえた。

「どうして?」

悟は優しく微笑むけれど美冬のブラウスのボタンを外す手を止めない。

「だから・・・待って」

「待てない」

「怒るよ」

美冬がちょっと睨んでみせても、悟はにっこり笑って穏やかに言う。

「いいよ怒っても」

美冬の唇は悟の唇で塞がれ、美冬は抵抗することをあきらめた。

それは悟に抵抗していたのではなく、正直になれない自分自身に抵抗していることに気がついていたから。



事が終わって狭いバスタブに浸かりながら、美冬は不思議な気持ちでいた。

たった今、身体を重ねていたばかりなのにもう悟が恋しかった。

ドアを開ければ悟はそこにいるのに、視界にいないだけで寂しい。

経験したことの無い感情が沸き起こっている自分を、

もうひとりのいつもの自分が眺めていた。

きっと朝になれば、一時の感情におぼれることを良しとしない大人の女に戻れると思う。

二人の関係も案外何も無かったかのように元に戻れるかもしれない。


悟の服を借りてバスルームから出ると、ベッドの前の床に買ってきたワインや

食べ物が並べてあった。

「ごめん、コップしかないんだ」

「コップで十分」

「そう?」

嬉しそうに悟が美冬を見つめた。

「やだ、そんなに見ないで」

「大丈夫。すっぴんでも可愛い」

「それはどうも」

二人はワインで乾杯し、些細なことで笑いあった。

空腹が満たされると、シングルベッドに二人でもぐりこんでいろんな話をした。


「悟くんが絵を描き始めたころのこと話して。誰かに教わったの?」

「そんなおねしょしてた頃のこと聞きたい?」

「聞きたい」

少しの沈黙の後、悟が話し始めた。

「いつも父親の隣で描いてた・・・」

「事故で亡くなったお父さんも画家だったの?」

「17の時死んだ親父はお袋の再婚相手。実の父親は食えない画家だった」


悟と血のつながった父親は中学の美術教師だったが、教員という仕事に

神経をすり減らし辞めてしまった。

悟の記憶ではいつも家に父親がいて、その父の傍で絵を描いていた。

たぶん家計を支えるために母が働いていたのだろう。

絵の指導は熱心にしてくれたが褒められたことは一度も無い。

自分の才能の限界に気づいた父は、自分に似ている悟にだけ暴力を振るうようになり、両親は離婚した。

悟は絵を描かなくなった。

学校の授業でも一枚の絵も描かなかった。

再び絵を描き始めたのは母親が再婚してからだ。

二人目の父は子供たちに精一杯の愛情を注いでくれ、そのおかげで悟は人を信頼することが出来るようになったと思う。


「こんなこと話したの美冬さんが初めてだよ」

「立ち入ったこと聞いてごめんね」

「いや、聞いてもらってスッキリした。明日からまた頑張る」

「次の作品?」

「そう。だからまた俺にパワーをくれる?」

美冬は返事のかわりに悟をそっと抱きしめた。

やがて二人は満ち足りた心で眠りについた。

  

      -----------つづく----------


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


大人の皆さん、シャワーも浴びないでことにおよぶってのはどう?

アハッ!何言ってるんでしょ私

ではまた

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ 『Snowflake』 (16)

2009年11月11日 | 妄想ドラマ『Snowflake』
インフルエンザ(季節性)の予防接種の後がかゆい!

何気なく一度掻いちゃったら、我慢できない



では嵐の『Snowflake』を聴いてからどうぞ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


       妄想ドラマ 『Snowflake』 (16)



新しい年が始まって5日目、美冬はアトリエの前に来ていた。

距離をおこうと決めたはずなのに、ハワイのお土産を渡すだけと自分に言い訳しながら。


ハワイでの一週間、悟のことが頭から離れなかった。

眩しい太陽の日差しも、きらめく海も、楽しいパーティーも悟のことを

忘れさせてはくれなかった。

あの夜に見た一枚の絵のために、悟のことで心が乱れる自分をもてあましていた。


このまま帰ろうか迷いながら佇んでいるとドアが開いて、悟が飛び出してきた。

「お帰り、楽しかった?あっ、その前にあけましておめでとう、今年もよろしく」

「おめでとうございます。今年は個展にむけて頑張ってね。きょうはお土産渡しに寄っただけなの。

 ありふれてるけどTシャツとチョコ」

「ありがとう」

悟は小さな紙袋を受け取ると、ちょっと中をのぞいてから美冬を見た。

「見せたいものがあるんだ。早く入って!」

何かが吹っ切れたようなすがすがしい笑顔で、澄んだ瞳が輝いている。


「完成したの?」

「うん。最初に美冬さんに見てもらいたかったんだ」

アトリエに入るとパッと明るい色彩が目に飛び込んできた。

突然別世界に引き込まれるような錯覚を覚えた。

ハワイに行く前に見た時とはまるで違う印象の絵になっている。

絵の中心を貫く、光を放つ大きなうねりは空高く伸びていく大木のようでもあり、大河の流れのようにも見える。

その流れはいろんな物をまきこんで、力強く未来へ伸びていく悟自身と重なり、

美冬は感動していた。

悟の代表作となるであろう大作だった。

ありふれた言葉ではうまくその感動を伝えられないことがもどかしくてたまらない。

悟が美冬の肩に手を置いて、どう?というように顔を覗き込んだ。

美冬が大きく頷くと、悟が突然美冬を抱きしめた。


「悟君離して!」

「いやだ」

悟を突き飛ばしてドアへ向かった美冬の前に悟が立ちはだかって言った。

「この前、絵を見たこと知ってるんだ。俺の気持ちを知っていて、それでもここへ来てくれたんだろ?

 違うの?俺に会いたくて来たんじゃないの?」

「ごめんなさい。ここへ来たのは間違っていた。私は佐和野さんと」

「他の男の話なんて聞きたくない。俺が知りたいのは美冬さんが俺のことをどう思っているかだよ」

「それはもちろんいい子だと思ってるし」

「もう子ども扱いはやめて。ほんとはそんなこと思ってないだろ。何を恐れているの?」

「わからない・・・よくわからないの。時間をちょうだい」

悟はもう一度美冬を抱きしめた。

「俺じゃだめ?愛せない?俺は美冬さんがいてくれたら何も怖いものはないよ」


美冬はもう逃げなかった。

悟の腕の中で、ずっと前からこうなることがわかっていたような気がしていた。



      ----------つづく--------


       
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする