妄想ドラマの前にもうひとつショートストーリーを。
嵐の『LIFE』をBGMにどうぞ♪
『 LIFE 』
俺の朝は早い。
まだ暗い午前3時、ベッドから抜け出して冷たい水で顔を洗う。
昨夜は久しぶりに高校時代の同級生5人で飲んだから、正直眠くて辛い。
足音を忍ばせて階段を下り、自宅の一階にある店の厨房に入る。
壁の小さなオレンジ色の光をたよりにスイッチを押した。
天井の蛍光灯がいつもより眩しく感じる。
これからひとりで仕事開始だ。
始めに取りかかるのは、朝食用のシンプルなパン。
やっと親父がまかせてくれるようになった。
昨日のうちに計量しておいた材料をミキシングマシンに入れる。
季節や天候によって微妙に違う配合は企業秘密。
パン生地は生き物。
見て触って声を聴け、と親父は言う。
職人気質で時代遅れな男だと思っていたけど、一緒にパンを焼くようになって
少し見直した。
うまくいえないけど、その頑固なまでに自分の信じた道を行く姿勢は悪くないかもしれないと思う。
商店街の端のちっぽけな店だけど、ひいきにしてくれるお客さんは多い。
店が繁盛するのは嬉しいけど、子供の頃は一度も旅行に連れて行ってもらえないのが不満だった。
週に一度の定休日と正月意外は、親父が店を休まなかったからだ。
長い休みのあと、いつも友達の土産話の聞き手になるしかないのが寂しかった。
お袋は不満に思ったことはないんだろうか。
しばらくすると親父も起きてきて、厨房は一気に活気づく。
生地の発酵具合をチェックして満足そうだ。
俺だってもう半年もこの毎日を繰り返しているんだから当然だ。
親父が過労で倒れたと連絡をもらったのは去年の暮れだった。
大手企業でサラリーマンをやっていた俺は、
お父さんを助けてやってというお袋の頼みに負けて
パン屋になる決断をしたけれど、時々これでよかったのかわからなくなる。
サラリーマン時代も悩みはあったけど、必要とされている人間だという確かな手ごたえがあった。
社会の一端を背負っているというプライドがあった。
飲み会で会った友人たちに言われた。
「親の仕事を継いでるお前は気楽でいいよなぁ」
もやもやした気持ちが胸を塞ぐ。
やがてオーブンから立ち上る香ばしい香りが厨房に充満して、俺は少し緊張する。
「よし」
満足げな親父の声。
次々に焼きあがるパンが店に運ばれる。
7時半の開店まで休む暇がない。
焼きたてのパンとお袋が入れてくれたコーヒーで胃袋を満たす。
10時になるとアルバイトの女の子が来てくれて、
お袋はバタバタと家事をこなす。
彼女と俺は付き合って一年。
実は3ヶ月前、お互いの気持ちを確かめ合ったばかり。
でも彼女に、お袋と同じような人生を歩ませることにためらいを感じている。
休憩時間にテレビをつけた。
知らない町の駅でインタビューするリポーター。
「月曜日って仕事に行くの憂鬱だったりしませんか?あなたのやる気を出す秘訣はありますか?」
「えーっと、私の場合は朝、近所のパン屋さんの前を通ると焼きたてのパンの匂いがするんですね。
そうすると、なんか頑張ろうかなって」
知らない人の笑顔に、胸の奥が熱くなった。
うちのパンを食べたい人のために頑張る、という親父の言葉が浮かんだ。
ある日、彼女とお袋が楽しそうに笑っていた。
ちらっと俺を見て店に戻る彼女。
「なんだよ。俺の噂?」
ふふっと小さく笑うとお袋が言った。
「あんたはすぐ顔に出るからねぇ。とっくにばれてるよ彼女とのこと」
「えっ・・・そうか。そろそろ言おうとは思ってたんだけど」
「あの子の気が変わんないうちにさっさと結婚しちゃいなさいよ」
親とマジな話をするのは照れるけど、思い切ってお袋に聞いた。
「忙しくてさ、お金稼いでも旅行にも行けなくて、そんなんで不満とかないの?」
お袋は振り返って親父がいないのを確認してから
「愛されてるからね」
と言った。
「ああ見えてお父さんね、ちゃんと言ってくれるの。何年かに一度だけど
ありがとうって。お前がいてくれるからここまで頑張ってこれたって。
だから私は幸せ」
それから俺の背中をポンと叩いて店に出て行った。
ガラス張りの向こうに見える彼女とお袋を見ながら、
繰り返される毎日の中で、俺にも大切なものを見つけられそうな気がしてきた。
きっとそれは目に見えるものじゃなくて、俺と彼女の心の中で育てるものなんだろう。
そしてパンの中にもちょっぴり練りこんで、食べた人にもおすそ分けしたい。
今度の休み、俺は彼女の両親に挨拶に行こうと思う。
-------------end-------------
パン屋さんといえばCMで御馴染みの相葉くんか
将来の夢はパン屋さん?のおーちゃんでしょうか。
私の妄想では相葉くんでした
実は妄想ドラマ(相葉くん主演のほのぼのラブストーリー)の予定でしたが、
相葉くんのドラマと重なるのでショートストーリーに変更。
潤くんを産婦人科のお医者さんにする予定だったので、ちょっと残念ですが
それはまたいつかどこかで登場していただきましょう注・まったくエロくはありませんので誤解無きよう
では
嵐の『LIFE』をBGMにどうぞ♪
『 LIFE 』
俺の朝は早い。
まだ暗い午前3時、ベッドから抜け出して冷たい水で顔を洗う。
昨夜は久しぶりに高校時代の同級生5人で飲んだから、正直眠くて辛い。
足音を忍ばせて階段を下り、自宅の一階にある店の厨房に入る。
壁の小さなオレンジ色の光をたよりにスイッチを押した。
天井の蛍光灯がいつもより眩しく感じる。
これからひとりで仕事開始だ。
始めに取りかかるのは、朝食用のシンプルなパン。
やっと親父がまかせてくれるようになった。
昨日のうちに計量しておいた材料をミキシングマシンに入れる。
季節や天候によって微妙に違う配合は企業秘密。
パン生地は生き物。
見て触って声を聴け、と親父は言う。
職人気質で時代遅れな男だと思っていたけど、一緒にパンを焼くようになって
少し見直した。
うまくいえないけど、その頑固なまでに自分の信じた道を行く姿勢は悪くないかもしれないと思う。
商店街の端のちっぽけな店だけど、ひいきにしてくれるお客さんは多い。
店が繁盛するのは嬉しいけど、子供の頃は一度も旅行に連れて行ってもらえないのが不満だった。
週に一度の定休日と正月意外は、親父が店を休まなかったからだ。
長い休みのあと、いつも友達の土産話の聞き手になるしかないのが寂しかった。
お袋は不満に思ったことはないんだろうか。
しばらくすると親父も起きてきて、厨房は一気に活気づく。
生地の発酵具合をチェックして満足そうだ。
俺だってもう半年もこの毎日を繰り返しているんだから当然だ。
親父が過労で倒れたと連絡をもらったのは去年の暮れだった。
大手企業でサラリーマンをやっていた俺は、
お父さんを助けてやってというお袋の頼みに負けて
パン屋になる決断をしたけれど、時々これでよかったのかわからなくなる。
サラリーマン時代も悩みはあったけど、必要とされている人間だという確かな手ごたえがあった。
社会の一端を背負っているというプライドがあった。
飲み会で会った友人たちに言われた。
「親の仕事を継いでるお前は気楽でいいよなぁ」
もやもやした気持ちが胸を塞ぐ。
やがてオーブンから立ち上る香ばしい香りが厨房に充満して、俺は少し緊張する。
「よし」
満足げな親父の声。
次々に焼きあがるパンが店に運ばれる。
7時半の開店まで休む暇がない。
焼きたてのパンとお袋が入れてくれたコーヒーで胃袋を満たす。
10時になるとアルバイトの女の子が来てくれて、
お袋はバタバタと家事をこなす。
彼女と俺は付き合って一年。
実は3ヶ月前、お互いの気持ちを確かめ合ったばかり。
でも彼女に、お袋と同じような人生を歩ませることにためらいを感じている。
休憩時間にテレビをつけた。
知らない町の駅でインタビューするリポーター。
「月曜日って仕事に行くの憂鬱だったりしませんか?あなたのやる気を出す秘訣はありますか?」
「えーっと、私の場合は朝、近所のパン屋さんの前を通ると焼きたてのパンの匂いがするんですね。
そうすると、なんか頑張ろうかなって」
知らない人の笑顔に、胸の奥が熱くなった。
うちのパンを食べたい人のために頑張る、という親父の言葉が浮かんだ。
ある日、彼女とお袋が楽しそうに笑っていた。
ちらっと俺を見て店に戻る彼女。
「なんだよ。俺の噂?」
ふふっと小さく笑うとお袋が言った。
「あんたはすぐ顔に出るからねぇ。とっくにばれてるよ彼女とのこと」
「えっ・・・そうか。そろそろ言おうとは思ってたんだけど」
「あの子の気が変わんないうちにさっさと結婚しちゃいなさいよ」
親とマジな話をするのは照れるけど、思い切ってお袋に聞いた。
「忙しくてさ、お金稼いでも旅行にも行けなくて、そんなんで不満とかないの?」
お袋は振り返って親父がいないのを確認してから
「愛されてるからね」
と言った。
「ああ見えてお父さんね、ちゃんと言ってくれるの。何年かに一度だけど
ありがとうって。お前がいてくれるからここまで頑張ってこれたって。
だから私は幸せ」
それから俺の背中をポンと叩いて店に出て行った。
ガラス張りの向こうに見える彼女とお袋を見ながら、
繰り返される毎日の中で、俺にも大切なものを見つけられそうな気がしてきた。
きっとそれは目に見えるものじゃなくて、俺と彼女の心の中で育てるものなんだろう。
そしてパンの中にもちょっぴり練りこんで、食べた人にもおすそ分けしたい。
今度の休み、俺は彼女の両親に挨拶に行こうと思う。
-------------end-------------
パン屋さんといえばCMで御馴染みの相葉くんか
将来の夢はパン屋さん?のおーちゃんでしょうか。
私の妄想では相葉くんでした
実は妄想ドラマ(相葉くん主演のほのぼのラブストーリー)の予定でしたが、
相葉くんのドラマと重なるのでショートストーリーに変更。
潤くんを産婦人科のお医者さんにする予定だったので、ちょっと残念ですが
それはまたいつかどこかで登場していただきましょう注・まったくエロくはありませんので誤解無きよう
では