妄想ドラマ『スパイラル』 (最終回)
渉はどうして素直になれないのか自分でもわからなかった。
これほど愛していると実感した人は美菜しかいない。
それなのに仕事を理由に会いに行かなかった。
誰よりも大好きなのに、いやそれだからこそ自分と離れてしまう道を
美菜が選択したことを受け入れられないのだ。
電話にもメールにもそっけない返事しかできない。
やがて美菜からの連絡は途絶えた。
美菜の引退発表と同時に二人の事務所から、それぞれの飛躍のために、しばらく離れることになったが、
良い関係は続いているので温かく見守ってくださいという内容の発表があった。
マスコミは渉を待ち受けたが、渉は何も答えなかったため憶測で
いろいろなことを週刊誌に書かれた。
いよいよ美菜がイギリスへ出発する日がせまった。
会いたいという美菜のメールに渉は返事ができない。
美菜を笑顔で見送ることなんてできそうになかったから。
美菜を乗せた飛行機が日本を離れるころ、渉はスタジオを借りて踊っていた。
来月、稽古が始まるミュージカルに備えてダンスのレッスンを受けていた。
今できることは仕事のためにベストを尽くすことしかないと思う。
そして鏡に映る自分に言い聞かせた。
今までもそうしてきたように、目の前の仕事に全力で取り組もう。
ひとつひとつ実績を残して、もっともっと上を目指すのだ。
いつかまた美菜と会ったときに笑顔でいられるように。
ステップを踏んでターンを決める。
流れる汗が目に沁みた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3年の月日が流れた。
渉は、多くの監督やプロデューサーの支持を得て、映画にドラマにと活躍の場を広げていた。
人気も実力も申し分なく、充実した日々を送っている。
忙しいスケジュールの中に、必ず年1本は舞台を組み込んでもらった。
やはり舞台は自分を育ててくれた場所だし、やりがいがあって好きだった。
今年は日本演劇振興会が一般公募した脚本の中から、大賞を受賞した作品の
主役を演じることになっている。
すでに台本はもらっていた。
謎の死を遂げた祖父の足跡を、写真を手掛かりに旅するミステリーだ。
わくわくして夢中で読んだ。
顔合わせの日、マネージャーの西野が迎えに来た。
「舞台は今でもドキドキするの?」
西野が聞いた。
「するよ。始まるまでは緊張して嫌なんだけど、幕が開けば平気。
なんかさ達成感が病み付きになってるのみたいで、舞台はやめられない」
「僕も好きだよ渉の舞台。やっぱ幕が開くまでドキドキするけど」
「失敗するんじゃないかって?」
「いやいや、どんな舞台を見せてくれるかってさ。自分じゃわかんないだろうけど、
本番は稽古より一段と輝くんだよ渉は」
「自信を持たせてくれてありがと」
西野が片手でガッツポーズをしてみせた。
車が今回の舞台が上演されるホールの横を通り過ぎた。
美菜と出会ったあのホールだ。
一瞬、美菜の笑顔が脳裏を横切り切なくなった。
顔合わせに用意された部屋には、会議用のテーブルが6つと椅子が20脚ほど並べられていた。
すでに半分ほどのキャストが来ている。
挨拶をしながら中に入った。
今回の監督はやはりあの時と同じ沢渡一樹。
笑顔で握手をした手は大きくて暖かい。
沢渡と話していると、再びドアが開きスタッフが告げた。
「脚本家の桜田風吹(ふぶき)さんがお見えになりました」
「よろしくお願いします。桜田風吹です」
その声に渉は驚いて振り返った。
そこには3年前、愛していながらも自ら手を放してしまった美菜が立っていた。
にこやかにほほ笑んでいる。
美菜は呆然としている渉に歩み寄った。
「お久しぶりです。イギリスで演劇の勉強してたの。また一緒にお仕事できるとは思ってませんでした」
握手をしながら渉だけに聴こえる小さな声でこう続けた。
「あなたの温もりはまだ忘れていない」
握った美菜の手はあのころと少しも変わっていない。
長かった髪が肩までになって、ほんの少しふっくらしたように見えるけれど、
瞳の奥の輝きはそのままだ。
渉は、みんなと和やかに談笑する美菜を目で追いながら、
胸の奥にくすぶり続けていた思いが、激しく湧き上がってくるのを感じていた。
--------- end -------
長らく妄想にお付き合いくださいましてありがとうございました
やっと最終回にたどりつけてホッとしました。
散々お待たせしてすみませんでした
え~~~こんな終わり方じゃ欲求不満になる!とラベンダーさんが言いそうですが、
PARFECT ANSWERはございません
たぶん私が思うに、今度は渉がぐいぐい押してあっという間に・・・ね
それではまたいつか妄想の世界で
渉はどうして素直になれないのか自分でもわからなかった。
これほど愛していると実感した人は美菜しかいない。
それなのに仕事を理由に会いに行かなかった。
誰よりも大好きなのに、いやそれだからこそ自分と離れてしまう道を
美菜が選択したことを受け入れられないのだ。
電話にもメールにもそっけない返事しかできない。
やがて美菜からの連絡は途絶えた。
美菜の引退発表と同時に二人の事務所から、それぞれの飛躍のために、しばらく離れることになったが、
良い関係は続いているので温かく見守ってくださいという内容の発表があった。
マスコミは渉を待ち受けたが、渉は何も答えなかったため憶測で
いろいろなことを週刊誌に書かれた。
いよいよ美菜がイギリスへ出発する日がせまった。
会いたいという美菜のメールに渉は返事ができない。
美菜を笑顔で見送ることなんてできそうになかったから。
美菜を乗せた飛行機が日本を離れるころ、渉はスタジオを借りて踊っていた。
来月、稽古が始まるミュージカルに備えてダンスのレッスンを受けていた。
今できることは仕事のためにベストを尽くすことしかないと思う。
そして鏡に映る自分に言い聞かせた。
今までもそうしてきたように、目の前の仕事に全力で取り組もう。
ひとつひとつ実績を残して、もっともっと上を目指すのだ。
いつかまた美菜と会ったときに笑顔でいられるように。
ステップを踏んでターンを決める。
流れる汗が目に沁みた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3年の月日が流れた。
渉は、多くの監督やプロデューサーの支持を得て、映画にドラマにと活躍の場を広げていた。
人気も実力も申し分なく、充実した日々を送っている。
忙しいスケジュールの中に、必ず年1本は舞台を組み込んでもらった。
やはり舞台は自分を育ててくれた場所だし、やりがいがあって好きだった。
今年は日本演劇振興会が一般公募した脚本の中から、大賞を受賞した作品の
主役を演じることになっている。
すでに台本はもらっていた。
謎の死を遂げた祖父の足跡を、写真を手掛かりに旅するミステリーだ。
わくわくして夢中で読んだ。
顔合わせの日、マネージャーの西野が迎えに来た。
「舞台は今でもドキドキするの?」
西野が聞いた。
「するよ。始まるまでは緊張して嫌なんだけど、幕が開けば平気。
なんかさ達成感が病み付きになってるのみたいで、舞台はやめられない」
「僕も好きだよ渉の舞台。やっぱ幕が開くまでドキドキするけど」
「失敗するんじゃないかって?」
「いやいや、どんな舞台を見せてくれるかってさ。自分じゃわかんないだろうけど、
本番は稽古より一段と輝くんだよ渉は」
「自信を持たせてくれてありがと」
西野が片手でガッツポーズをしてみせた。
車が今回の舞台が上演されるホールの横を通り過ぎた。
美菜と出会ったあのホールだ。
一瞬、美菜の笑顔が脳裏を横切り切なくなった。
顔合わせに用意された部屋には、会議用のテーブルが6つと椅子が20脚ほど並べられていた。
すでに半分ほどのキャストが来ている。
挨拶をしながら中に入った。
今回の監督はやはりあの時と同じ沢渡一樹。
笑顔で握手をした手は大きくて暖かい。
沢渡と話していると、再びドアが開きスタッフが告げた。
「脚本家の桜田風吹(ふぶき)さんがお見えになりました」
「よろしくお願いします。桜田風吹です」
その声に渉は驚いて振り返った。
そこには3年前、愛していながらも自ら手を放してしまった美菜が立っていた。
にこやかにほほ笑んでいる。
美菜は呆然としている渉に歩み寄った。
「お久しぶりです。イギリスで演劇の勉強してたの。また一緒にお仕事できるとは思ってませんでした」
握手をしながら渉だけに聴こえる小さな声でこう続けた。
「あなたの温もりはまだ忘れていない」
握った美菜の手はあのころと少しも変わっていない。
長かった髪が肩までになって、ほんの少しふっくらしたように見えるけれど、
瞳の奥の輝きはそのままだ。
渉は、みんなと和やかに談笑する美菜を目で追いながら、
胸の奥にくすぶり続けていた思いが、激しく湧き上がってくるのを感じていた。
--------- end -------
長らく妄想にお付き合いくださいましてありがとうございました
やっと最終回にたどりつけてホッとしました。
散々お待たせしてすみませんでした
え~~~こんな終わり方じゃ欲求不満になる!とラベンダーさんが言いそうですが、
PARFECT ANSWERはございません
たぶん私が思うに、今度は渉がぐいぐい押してあっという間に・・・ね
それではまたいつか妄想の世界で