嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ『スパイラル』 (最終回)

2011年05月07日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (最終回)



渉はどうして素直になれないのか自分でもわからなかった。

これほど愛していると実感した人は美菜しかいない。

それなのに仕事を理由に会いに行かなかった。

誰よりも大好きなのに、いやそれだからこそ自分と離れてしまう道を

美菜が選択したことを受け入れられないのだ。

電話にもメールにもそっけない返事しかできない。

やがて美菜からの連絡は途絶えた。


美菜の引退発表と同時に二人の事務所から、それぞれの飛躍のために、しばらく離れることになったが、

良い関係は続いているので温かく見守ってくださいという内容の発表があった。

マスコミは渉を待ち受けたが、渉は何も答えなかったため憶測で

いろいろなことを週刊誌に書かれた。


いよいよ美菜がイギリスへ出発する日がせまった。

会いたいという美菜のメールに渉は返事ができない。

美菜を笑顔で見送ることなんてできそうになかったから。

美菜を乗せた飛行機が日本を離れるころ、渉はスタジオを借りて踊っていた。

来月、稽古が始まるミュージカルに備えてダンスのレッスンを受けていた。

今できることは仕事のためにベストを尽くすことしかないと思う。

そして鏡に映る自分に言い聞かせた。

今までもそうしてきたように、目の前の仕事に全力で取り組もう。

ひとつひとつ実績を残して、もっともっと上を目指すのだ。

いつかまた美菜と会ったときに笑顔でいられるように。

ステップを踏んでターンを決める。

流れる汗が目に沁みた。


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



3年の月日が流れた。

渉は、多くの監督やプロデューサーの支持を得て、映画にドラマにと活躍の場を広げていた。

人気も実力も申し分なく、充実した日々を送っている。

忙しいスケジュールの中に、必ず年1本は舞台を組み込んでもらった。

やはり舞台は自分を育ててくれた場所だし、やりがいがあって好きだった。

今年は日本演劇振興会が一般公募した脚本の中から、大賞を受賞した作品の

主役を演じることになっている。

すでに台本はもらっていた。

謎の死を遂げた祖父の足跡を、写真を手掛かりに旅するミステリーだ。

わくわくして夢中で読んだ。


顔合わせの日、マネージャーの西野が迎えに来た。

「舞台は今でもドキドキするの?」

西野が聞いた。

「するよ。始まるまでは緊張して嫌なんだけど、幕が開けば平気。

 なんかさ達成感が病み付きになってるのみたいで、舞台はやめられない」

「僕も好きだよ渉の舞台。やっぱ幕が開くまでドキドキするけど」

「失敗するんじゃないかって?」

「いやいや、どんな舞台を見せてくれるかってさ。自分じゃわかんないだろうけど、

 本番は稽古より一段と輝くんだよ渉は」

「自信を持たせてくれてありがと」

西野が片手でガッツポーズをしてみせた。

車が今回の舞台が上演されるホールの横を通り過ぎた。

美菜と出会ったあのホールだ。

一瞬、美菜の笑顔が脳裏を横切り切なくなった。




顔合わせに用意された部屋には、会議用のテーブルが6つと椅子が20脚ほど並べられていた。

すでに半分ほどのキャストが来ている。

挨拶をしながら中に入った。

今回の監督はやはりあの時と同じ沢渡一樹。

笑顔で握手をした手は大きくて暖かい。

沢渡と話していると、再びドアが開きスタッフが告げた。

「脚本家の桜田風吹(ふぶき)さんがお見えになりました」

「よろしくお願いします。桜田風吹です」

その声に渉は驚いて振り返った。

そこには3年前、愛していながらも自ら手を放してしまった美菜が立っていた。

にこやかにほほ笑んでいる。

美菜は呆然としている渉に歩み寄った。

「お久しぶりです。イギリスで演劇の勉強してたの。また一緒にお仕事できるとは思ってませんでした」

握手をしながら渉だけに聴こえる小さな声でこう続けた。

「あなたの温もりはまだ忘れていない」

握った美菜の手はあのころと少しも変わっていない。

長かった髪が肩までになって、ほんの少しふっくらしたように見えるけれど、

瞳の奥の輝きはそのままだ。

渉は、みんなと和やかに談笑する美菜を目で追いながら、

胸の奥にくすぶり続けていた思いが、激しく湧き上がってくるのを感じていた。


   --------- end -------



長らく妄想にお付き合いくださいましてありがとうございました

やっと最終回にたどりつけてホッとしました。

散々お待たせしてすみませんでした

え~~~こんな終わり方じゃ欲求不満になる!とラベンダーさんが言いそうですが、

PARFECT ANSWERはございません

たぶん私が思うに、今度は渉がぐいぐい押してあっという間に・・・ね

それではまたいつか妄想の世界で

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (25)

2011年04月24日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (25)




あっという間に数日が過ぎ、二人で夕食を食べた後、渉が美菜に話があると切り出した。

私もと美菜が言った。

「なんだか今日は雰囲気違うね。少し元気になった?」

「うん。川崎さんのことはショックだけど、このまま落ち込んでいるのは私らしくないし

 、渉さんに甘えてばかりはいられないもの」

「そう?俺はかまわないけど。で、話ってなに?」

「渉さんの話を先に言って」

「美菜の話を先に聞きたい」

渉が言うと、美菜の表情が少し硬くなった。


「あのね、しばらく海外に行こうと思うの」

「旅行?」

「旅行じゃなくて・・・長期で。イギリスに従妹がいて、おいでって言ってくれてるの

思いがけない美菜の言葉に渉は驚いた。

「長期ってどれくらい?」

「2年か3年か・・・行ってみないとわからないけど」

「どうしても海外へ行かなきゃダメなのかな。俺は・・・」

美菜と離れたくないという言葉を呑み込んだ。

「語学留学して、むこうでこれからのことをゆっくり考えたいの」

渉は黙って頷いた。

納得したわけではなかったけれど、言葉を思いつかなかった。

「仕事辞めることこれ以上隠しておけないし、今まで応援してくれてたファンにも

 きちんとお礼を言わなくちゃ」

「そうだね」

「でもそうなれば渉さんのところにマスコミが・・・」

「そんなことは気にしなくていい。それより美菜のこれからに

 高野渉は必要なのかな」

「渉さんのことが好き、大好き。それだけじゃだめ?」

「わからない」

渉は不機嫌そうな自分の声に驚いた。

でも理由は分かっている。

美菜が遠くへ行ってしまうのが嫌だから。

国内では美菜がどこへ行っても人々の注目を集めてしまう。

自由に行動することもままならならない。

そんなことは分かっているけれど、次にいつ会えるかわからないほど

離れてしまうのはどうしても嫌だった。

一緒に暮らすなんてことを考えていた自分が滑稽で仕方ない。

気まずい沈黙の時が流れた。


美菜が大好きだから離れたくないと言いたかったのに、渉の口から出た言葉は違っていた。

「もう決めているんだろう。思うとおりにすればいいじゃない」

立ち上がって寝室に入ると、ドアを乱暴に閉めた。

素直になれない自分と、二人が離れてしまう道を選んだ美菜に腹を立てながら、

ベッドに倒れこむ。

しばらくして、美菜が部屋を出て行く気配がした。


   ---------つづく--------


次回は最終回の予定です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (24)

2011年04月13日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (24)



川崎の裏切りは、美菜の心を深く傷つけた。

美菜に芸能界のことを一から教えてくれたのは川崎だったし、

仕事で思い悩んだ時に、陰で支えてくれたのも川崎だった。

初めての主役に二人で手を取り合って喜んだのが、ついこの間のことのように思える。

川崎のことを誰よりも信頼していた美菜は、人間不信に陥りそうになる心を

渉に甘えることでなんとか支えていた。


美菜は、あの夜から渉のマンションにいた。

料理を作ったり音楽を聴いたりしてすごしている。

川崎の計らいで美菜が小田中プロを辞めることはまだ公表されていない。

渉がマスコミに追いかけられることもなく、穏やかな数日が過ぎている。

連ドラは急きょ小田中プロの別の女優に決まり、来週には撮影が始まるらしい。

渉は仕事意外の付き合いはすべて断り、できる限り早く帰るようにした。

傷ついた美菜が一人でいる時間のことが心配だった。

考える時間がたっぷりあるというのは、今の美菜にとってよいことだろうか。

渉はもっと広いマンションへ引っ越し、二人で暮らすことを考えていた。

結婚という文字も頭に浮かんだが、それを口にするのは今ではないと思う。


その日の最後の仕事は映画の宣伝のためのテレビ出演だった。

沙織と二人での仕事だ。

打ち合わせが終わると、渉は沙織を呼び止めた。

「沙織、君の疑いは晴れたよ。疑って悪かった。ごめん」

「そう」

沙織はにっこり微笑んだだけで何も言わなかった。

「でも、どうして美菜に自分がやったみたいなこと言ったんだ」

「試したの。あの子がどうするか。きっとすぐに渉くんに泣きつくんだと思った。

 でも映画の撮影のこと考えてあなたには黙っていたのよね。悔しいけど負けたって思った」

「負けたって・・・」

「なんだか女として負けたっていうか・・・。それで悔しくて意地悪しちゃった。

 最低な奴だよね。美菜ちゃんにごめんなさいって伝えて」

「うん」

「ところで、疑いが晴れたってことは、誰の仕業だったかわかったってこと?」

「それは、言えない」

「そっか。私、渉くんの大切な人にひどいことしたから、もう友達じゃいられないよね」

「美菜の気持ちを考えると、少し距離を置きたい。沙織にとってもそのほうがいいと思う」

「そうね。いっそ大嫌いだって、はっきり言ってもらった方がすっきりするかも」

「この仕事が終わったらそうする。ドラマの撮影も始まるんだろ?前を向いて進め」

「優しいのね。でもその優しさは罪だよ」 

沙織はこらえた涙が溢れ出す前に、くるりと背中をむけて歩き出した。

仕事が終わると、渉はお疲れ様のあとにさよならと沙織に言った。

その言葉に込められた意味を沙織は理解した。

沙織は車の中で携帯のアドレス帳を開き、渉の名前をしばらく見つめたあと

削除のボタンを押した。


   --------つづく-------

  1話から読みたい方はこちら






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (23)

2011年04月09日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (23)


川崎は小田中を無視して、再びソファに腰を下ろした。

「私たち長いのよ。この人が美菜を可愛がっているのは将来性のあるタレントだから

 じゃないことくらいとっくに気が付いていた」

「バカなこと言うな」

小田中が声を荒げたが、川崎は一瞥しただけで美菜の方を向いた。

「美菜、心配しないで。この人が高野さんを陥れようとしたら、私が黙っちゃいないから」

「川崎さん・・・」

「私を脅すとはね。どういうつもりだ」

「あなたとは別れます。それから会社も辞める。高野さんに何かしたら、

 マスコミにあなたとの7年を赤裸々に語ることになるかも。原稿料バッチリいただいてね」

「君が育てた美菜が、恩を忘れていきなり辞めると言っているのに、どうしてそこまでしてやるんだ?」

川崎はフゥーっと大きく息を吐くと美菜を見た。

「罪滅ぼし・・・かな。ごめんなさい美菜。あなたの食べたクッキーにそば粉を使ったクッキーを

 混ぜておいたのは私なの」

川崎の告白に渉も美菜も、そして小田中までもが呆然としていた。

やがて美菜はゆっくりと首を振った。

「どうして・・・信じられない」

涙が溢れだしてあとは言葉にならない美菜の手を、渉はしっかりと握った。

美菜のショックが痛いほどわかった。

同時に川崎への怒りが一気にこみあげてくる。

「美菜はあなたのことを誰よりも信頼していたのになぜ」

「この人を困らせてやりたかった。バカな女の嫉妬よ。週刊誌に二人の交際をリークしたのも私。

 本当にごめんなさい。許してもらえるとは思ってないけど、出来るかぎりの償いはさせて」

「好きにしろ。あとはすべて君に任せる」

小田中は拳でテーブルを1回叩くと、それだけ言って出て行った。

渉は美菜にかける言葉が見つからずに、ただその肩を抱き寄せた。


  ------------つづく----------

  1話から読みたい方はこちら


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (22)

2011年04月05日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
    妄想ドラマ『スパイラル』 (22)



渉が美菜と一緒に小田中に会うことになったのは、翌日の夜だった。

一人で大丈夫だという美菜を、自分の仕事が終わるまで待つように説得したのだ。

仕事が終わり、渉がひとりで小田中プロの事務所に行くと、マネージャーの川崎が待っていた。

「こんなことになるなんてね」

渉の顔を見るなり川崎が言った。

「まぁ、あなたのせいじゃないけど」

美菜をスカウトしてここまで育ててきたのは川崎だと、西野から聞いていた。

実力も人気も申し分ない今、美菜に辞められるのは残念で仕方ないに違いない。

「美菜は?」

渉が聞いた。

「社長と話してる。美菜はあなたが来るまで待つつもりだったけど、

 小田中はね、あなた抜きで美菜と話したいのよ。自分なら説得できると思ってるの。

 バカな男」

川崎は嘲るように言い放った。

渉は川崎の真意がわからずに戸惑ったが、何も聞かなかった。

川崎は踵をかえすと人気のない事務所にヒールの音を響かせて、

渉を奥の応接室に案内した。


ノックしてドアを開けると、渉が来たことを歓迎していないことが一目でわかる小田中と、

渉の顔を見てホッとした美菜がいた。

二人は三人掛けのソファに並んで座っていたが、小田中はおもむろに立ち上がると

テーブルを挟んだ向かい側の一人掛けに座りなおした。

渉は迷わずに小田中がいた美菜の隣に座る。

美菜の目を見て、大丈夫と言うように小さく頷いた。


重苦しい沈黙を破ったのは川崎だった。

「で、話はどうなったんですか?」

「申し訳ないけど、私の気持ちは変わりません」

美菜が言った。

「そう、じゃぁ仕方ないわね」

「君はちょっと黙っていてくれ」

投げやりな川崎の言い様に、小田中が苛立った声を出した。

それから小田中は渉に聞いた。

「高野くんは美菜が辞めることに賛成なのか?」

「美菜が考えた末に出した結論です。僕は反対はしません。彼女の人生ですから」

「君にも頼んだよね、美菜を説得してくれって。その返事がこういうことか・・・。

 僕はね君の力になるつもりだったんだよ。君のことを美菜の相手役に抜擢したのは僕だし、

 映画もそうだし、小さな事務所じゃ無理なことだって僕にはできる。移籍すれば」

小田中の話の途中で川崎が急に立ち上がった。

「移籍させてつぶすの?いい加減にしなさいよ!いくら可愛がっても美菜はあなたの思い通りにはならないわ。

 力とお金があっても人の心は買えないの。高野さんが芸能界からいなくなっても

 美菜は一生あなたと寝たりしない」
 
「何を言ってるんだ!」

小田中が血相を変えて立ち上がったが、川崎はひるむ様子もなく、

冷たい微笑みを浮かべていた。


  ----------つづく------- 23話へ
 1話から読みたい方はこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (21)

2011年02月27日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
長らくお待たせしてすみませんでした

それではどうぞ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



   妄想ドラマ『スパイラル』 (21)



美菜に会えないかもしれないと渉は思っていたが、

タクシーがマンションに着く直前、「待ってる」と美菜から返信があった。

嬉しい気持ちのあとに、不安が追いかけてくる。

どんな気持ちで待っているのだろう。


ドアが開くといつもとは違う、張りつめた空気をまとった美菜がそこにいた。

「会いたかった」

渉が言えたのはその一言だけ。

一番伝えたかった気持ちが真っ先に口からこぼれた。

カチャリとドアが閉まると、美菜は何も言わずにいきなり渉の胸に飛び込んできた。

「どうしたの?何があったか話して」

美菜は渉に両腕をまわしたまま、顔をあげて渉を見つめた。

そして言った。

「キスして」

唇をあわせると、美菜の気持ちが何も変わっていないことがわかった。

ついさっきまで冷たい雨に濡れていた渉の心は温かいもので満たされ、

美菜のことをこんなにも愛しているのだと、今更ながら強く思う。


部屋に上がると、前に来たときは無かった写真が

何枚も飾られていた。

土手に咲く菜の花、風に花びらを散らす桜、可憐なオオイヌフグリ。

落ち葉の積もる陽だまりに群生するスズラン、あとは渉には名前のわからない野生の花たち。

四つ切サイズの写真から普通のプリントサイズまで10枚以上ある。

美菜は渉の手を取ってソファに座らせると、柔らかな笑顔で言った。

「綺麗でしょ。私のおじいちゃんが撮った写真なの。小さいころは撮影旅行に

 一緒について行ってた」

「おじいちゃんはカメラマン?」

「ううん、休みの日に趣味で撮ってたの。いろんな所へ行っていろんな話をして・・・楽しかった」

「おじいちゃんのこと好きなんだね」

「大好きだった。もうずいぶん前に天国に行っちゃったけど、写真はたくさん残ってるから

 悩んだり迷った時は眺めて勇気をもらうの。優しい花たちだけどみんなたくましいのよ」

美菜はそう言って壁の写真に視線を移した。

その横顔を渉は見つめる。


「何を悩んでる?」

渉は美菜の返事を待った。

心が通じ合った今は穏やかな気持ちで美菜の言葉を待つことができる。

少しの間があって美菜が答えた。

「私ね、この仕事を辞めようと思う。ずっと周りの期待に応えようとがんばってきたけど、

 張りつめてた糸が切れちゃったみたい」

あまりに思いがけない美菜の言葉だった。

「女優の仕事が好きだと思ってた」

「好きよ。でもいろんなことがあって・・・」

美菜はなにかを思いめぐらせて黙った。

「沙織となにかあった?」

「あった」

「どうして話してくれなかったの」

「最初は渉さんの映画のことがあったし・・・後は、正直に言うと渉さんにも腹を立ててた」

それから美菜は沙織との間にあったことを渉に話した。

渉は自分のことを気遣って、ずっと我慢していた美菜が愛おしくて、

しっかりと抱きしめた。

「ごめん。なにも気づかなくて。そしてありがとう。沙織とは何もないよ」

「うん」


「俺のことより、美菜はほんとに女優をやめるつもり?後悔しない?」

「散々考えた結果なの。一度しかない人生だから。明日、社長に会って話すつもり」

「実は小田中さんと会った。美菜が連ドラをやるように説得してくれって言われた」

「社長が渉さんにそんなことを・・・じゃあ私が辞めたいって言ったら、渉さんにも迷惑かかるかな」
 
「美菜が悩んで決めたことなら俺は反対しないよ。いつでも美菜の味方だ」

渉は小田中が美菜の決心をすんなり受け入れるとは思えなかったが、

どんなことになっても美菜を守ろうと思った。


   ---------つづく------22話へ 

  1話から読みたい方はこちら


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (20)

2011年02月17日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (20)



小田中が至急、渉に会いたいと言ってきたのは、渉が美菜と連絡を取り合わなくなって

一週間が過ぎたころだった。

仕事が終わったのが夜の9時過ぎ。

駐車場には小田中のよこした迎えの車が待っていた。

渉を乗せた車が向かったのは、小田中が経営するフレンチのレストランだった。

小田中は都内に3件のレストランを持っていたが、

経営はすべて人に任せている。

高級店らしいシックな雰囲気の店内に入ると、奥の個室に案内された。

すぐに小田中が現れて、つくり笑顔で言った。

「監督が君のこと褒めてたよ。ぜったいいい映画に仕上がると思うね。試写が楽しみだ」

「ありがとうございます。でもそんな話で僕を呼んだんじゃないですよね」

渉がそう言うと小田中の表情が一瞬くもった。

「お腹すいてない?何か食べてからにしょうか」

「いえ、僕なら大丈夫ですけど」

「そう」

少し間があって、それから小田中は静かに言った。

「美菜のことなんだけど、君たちどうなってるの?」

「どうなってる?」

「プライベートなことをとやかく言うのは僕の主義に反するんだけど、美菜は

 何か悩みを抱えているんじゃないかってマネージャーが心配してるんだよ」

「川崎さんですね」

「ああ、そうだ」

「その悩みが僕のことだと?」

「美菜が急に連ドラの仕事をキャンセルしたいって言いだしてね。彼女がこんなこと言ったのは初めてだし、

 よほどのことだと思うんだけど」

「理由はなんて?」

「少し休みたいって。役作りのための勉強もはじめていたのにおかしいだろ?

 実は、様子がおかしくなったのは新田沙織が楽屋に来てかららしい」

「沙織が・・・」

渉はなにかもやもやとした不安が胸に広がるのを感じた。


「君は新田沙織とも何か特別な関係なのか?」

「共演した仲間以上の付き合いはありません!」

あまりに意外な質問に驚いて、思わず大きな声が出た。

小田中は腕組みをしたまま、うんうんと二度頷いたが納得したようには見えない。

「そうか、まぁいいさ。君だって若いんだしいろいろあるだろう。私だって覚えがある。

 でもそこはうまくやれよ」

「本当に沙織とは何もありません」

「私に言い訳しても仕方ない。はっきり言って、美菜に辛い思いをさせるくらいなら

 別れてもらいたいと思ってるんだよ」

「そんな・・・僕にとって美菜は大切な人です。別れるなんて考えられません」

「じゃ、なぜ美菜のことを何も知らないんだ?今回の連ドラのことだって、

 知らなかった。それでも二人がうまくいってると言えるのか?君は役者としては

 素晴らしいが、美菜にとってはマイナスでしかないように思える」

「待ってください。美菜と話す時間をください」

「いいだろう。今夜、美菜はもう家に帰っている。会って来ればいい。
 
 ドラマのクランクインまで時間がないんだ。君からも説得してくれ。それと映画の封切まで

 スキャンダルは無しで頼むよ。君だってお世話になってる事務所が困るようなことになるのは

 望まないだろう?」

「どういう意味ですか?」

「さあね。車で送るよ」

「結構です」

小田中の申し出をきっぱり断って、渉は店を出た。

悔しさと後悔で心が震えた。

美菜が電話に出ないわけを、なぜもっと真剣に考えなかったのだろう。

あんなに会いたがっていた美菜に何が起こっているのか、何も知らない自分が

不甲斐なかった。

時間は何とでもやり繰りできたはずだ。

小田中に別れろとまで言われたことが、渉の後悔を深くする。


タクシーの中で電話したが美菜は出ない。

“今から会いに行く”とメールを送り、来ないとわかっている返信を待って

渉は携帯を握りしめていた。

降り出した雨が徐々に強くなり、雨粒が重なってタクシーの窓にいく筋もの流れをつくっていた。


   --------つづく------- 21話へ
  1話から読みたい方はこちら
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (19)

2011年02月09日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (19)



渉は美菜がどうしてメールの返事をくれないのか

確かめるのが怖くなった。

時間が経つほど、不安がつのる。

電話をすればすむと思うが、返事をくれない美菜に

何度も自分からかけるのはためらわれた。

仕事の合間に携帯を見て、美菜から電話もメールもないことを知る。

がっかりすると同時に腹がたって、もうどうでもいいやと思ってみたりもした。


その日、美菜はトーク番組の収録のためにテレビ局にいた。

楽屋のドアがノックされた。

「はい」

マネージャーの川崎がドアを開けると、そこに立っていたのは沙織だった。

「お久しぶりです。隣のスタジオで撮影だったので寄らせてもらいました」

にこやかな笑顔で言われても川崎はいい気分はしなかった。

舞台に穴をあけずにすんだのは助かったが、一旦は美菜がやることに決まっていた映画の主役にまで

彼女が抜擢されたことが内心面白くなかった。

小田中の一言で決まったらしいという社内の噂が川崎の耳にも入っていた。


「帰ってもらって」

美菜のきつい口調に川崎が驚いて美菜を見た。

沙織は余裕のある笑みを浮かべているのに、美菜は険しい表情だ。

「美菜ちゃんが私に聞きたいことがあると思ってわざわざ来たのに、いいの?

 はっきりさせたほうがよくない?」

短い沈黙の後、美菜が言った。

「そうね。川崎さん席をはずしてくれる?」

「私がいたらまずい話なのね。美菜ちゃん大丈夫?」

「あら、川崎さんが心配なら居ていただいても、私はかまいませんけど」

沙織の言葉は無視して、美菜は立ち上がると川崎に笑顔を見せた。

「ごめんなさい。プライベートなことだから。すぐに終わるし」

川崎は楽屋を出ると、どこへも行かず、ドアのすぐ横の壁によりかかった。

いやな予感がして美菜が心配だった。

舞台の時に美菜を気遣ってくれていた沙織とは別人のような気がした。


 
「あなたのことだから、写メ速効で消したでしょ」

沙織が笑って言った。

「何がしたいの?」

「誤解がないように言っとくけど、あなたから渉くんを奪おうなんて思ってないから。

 私は今のままで十分。美菜ちゃんは忙しくてなかなか会えないでしょ。

 代わりに時々渉くんの寂しさを埋めてあげたいの。またあなたの代役ね」

「どうかしてる」

「そう?彼ね意外とさびしがり屋なのよ。許してあげて」

「何を許すの?言いたいことがそれだけならもう帰って」

美菜は務めて平静を装った声で話した。

「私と渉さんのことをあなたに心配してもらう必要はないわ。だから二度と私の前に現れないで」

「そう。じゃ、さようなら」

そう言って沙織はドアノブに手をかけたが、振り返ってこう言った。

「私も会いたくないけど、連ドラのあなたの親友の役、私に決まったの。3か月間よろしく」


  ---------つづく------- 20話へ
 1話から読みたい方はこちら


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (18)

2011年01月31日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (18)


美菜がメールに気が付いたのは、朝になってからだった。

眠っている渉とその頬に添えられた女性の手。

しばらくボーっと眺めていた。

大好きな渉の寝顔なので見入ってしまう。

ふと我に返って送信してきたのが沙織だということを、もう一度確かめる。

やはり間違いない。

美菜はメールを削除し、沙織から電話もメールも

二度と来ないように着信拒否設定をした。

沙織がどこで渉の寝顔を撮ったのか考えると怒りがこみあげてくる。

今すぐ渉の声を聞きたい気持ちと、腹立たしさが交互にやってきて、

携帯を手にしたまま、どうすることもできずに涙がこぼれた。

しばらくすると、マネージャーの川崎が迎えに来た。

美菜は涙を拭うと、鏡の前で笑顔をつくり、気持ちを切り替えて仕事に向かうしかなかった。



その頃、渉は飲みすぎてむくんだ顔を鏡で見ていた。

冷たい水で顔を洗うと少しすっきりした。

昨夜は一つの仕事をやり終えた充実感で満たされていたのに、

今はもうその気持ちはしぼんでなんだか寂しい。

美菜に電話をしてみた。

無性に声が聴きたかった。

仕事中なのか、美菜は電話に出ない。

しかし5分も経たないうちに携帯が鳴ったので、美菜からだと思って

渉はあわてて携帯を手に取った。


「おはよう渉くん。二日酔いじゃない?具合はどう?」

「沙織か・・・」

「あら悪かったわね私で。心配してかけたのに」

「悪い。途中から記憶とんでるんだよねぇ。俺、寝ちゃったと思うんだけど、

 誰が送ってくれたんだろう?覚えてないんだ」

「わすれちゃったの?残念。これから映画のプロモーションで

 また会うこと事多いけど、よろしくね」

沙織がなにか意味深な言い方をしたのが気になったが、渉はあえて聞かなかった。

その日はとうとう美菜からの連絡はなかった。

クランクアップしたことは知っているはずなのに、メールの返事すら来ない。

渉の胸を不安がよぎった。

翌日になっても音沙汰がない。

川崎に言われた言葉が、突然渉の胸に蘇る。

「美菜はラブストーリーの相手役に惚れてしまうけど、本気にしないで。

憑き物が落ちるみたいにある日突然終わってしまうから」


  -------つづく------- 19話へ
 1話から読みたい方はこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妄想ドラマ『スパイラル』 (17)

2011年01月24日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (17)



気持ちの踏ん切りがついたのか、再び撮影が始まると

沙織は形の良い乳房を大胆に披露して渉を驚かせた。

抜けるような白い肌と、華奢だけれど女性らしい柔らかな曲線は美しく、

スタッフからも声にならないため息が漏れた。

最後のカットのオーケーが監督の口から出て、渉は内心ホッとした。

初めての経験で、今までにない疲れと安ど感が一度に押し寄せてくる。

素の高野渉に戻ると急に照れくさくなって、たった今まで肌を合わせてた沙織の顔を直視できない。

沙織は黙ってバスローブを羽織ると静かに控室に消えた。


すべての撮影が終わった日、大きな花束を抱えた沙織は流れる涙を

隠そうともせず、スタッフと次々に握手を交わし、最後に渉の所に来た。

沙織は持っていた花束を押し付けるように渉に渡すと、

両手がふさがった渉の肩に腕を回し、いきなり渉の頬にキスをした。

みんなが囃し立てながら盛大な拍手を送る。

それから沙織はよく通る声で言った。

「今日から新田沙織に戻ります。渉くんとも友達に戻りまーす!」

ヒロインから自分に戻るという意味だと誰もが思った。

ただひとり、渉だけはその言葉に含まれた沙織の真意をくみ取った。

ほんの少しだけ胸の奥がキュッと痛んだ。


その夜、渉はスタッフに誘われて飲みに行った。

初主演の映画を撮り終え、達成感に満たされた仲間と飲む酒は美味しかった。

しばらくして沙織と数人のスタッフが合流した。

時間が経つごとに仕事を終えて店に来るスタッフの人数が増え、一般の客が帰り、

小さな店はまるで貸切のようになっていく。

渉は久しぶりに飲みすぎて、いつの間にかトイレへの通路に置かれた長椅子に座ると

うとうとし始めた。


「渉くん飲みすぎだよね。お水飲ませてくる」

沙織はおなじテーブルにいたスタッフにそういって席を立った。

さりげなく目立たないように、渉のことを目で追っていたのだ。

たった一鉢の大きな観葉植物のせいで、壁際に置かれた長椅子は騒がしい酒宴とは隔離された

小さな落ち着いた空間になっていた。


渉はいつの間にか上半身を長椅子に横たえて、眠りに落ちている。

初めて見る渉の寝顔を、綺麗だと沙織は思った。

通路のほの暗い照明を受けた渉の横顔は、沙織の胸に抑えられない熱いもの湧き上がらせた。

沙織は水の入ったコップを置くと、渉の髪をそっとなでたが起きる気配はない。

誰もこちらを見ていない事を観葉植物の陰から確認すると、

左手を渉の頬に置いて、右手で素早く写メを撮った。


飲み会は深夜2時ごろに解散となった。

沙織は家に帰ってゆっくりシャワーを浴びると、

『可愛い寝顔』と一言だけのメールに渉の寝顔を添付して美菜に送信した。


  --------つづく------- 18話へ
  1話から読みたい方はこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする