どうも~
サトシゴト&いろいろで遅くなりました
では『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (19)
数日後、美冬は月刊アートの渡辺を連れて、悟のアトリエを訪れた。
約束をしていたのに声をかけても返事がない。
中に入ると、絵の前に置かれた脚立の傍に悟が倒れている。
その右手には絵筆が握られたままだ。
驚いて立ち尽くす美冬の横をすり抜け、渡辺が駆け寄って覗き込んだ。
「大町さん!大丈夫ですか!」
肩を揺すると悟は目を開け、ゆっくりと上体を起こした。
そして目をこすりながら言った。
「寝ちゃった。今、何時?」
「驚いたなぁ。約束の4時ですよ。月刊アートの渡辺です」
「どうも。寝るつもりはなかったんですけど・・・今日は何日だっけ?」
渡辺は笑いながら振り返って美冬に聞いた。
「大町さんっていつもこんな感じなんですか?」
「制作に夢中になると、限度ってものがわからなくなるみたいで・・・ほんとに驚いた」
「死んでると思った?」
悟は悪びれた様子もなく、にこにこしている。
「笑い事じゃないでしょ」
真面目な顔で悟を怒るつもりが、その笑顔を見るとつい美冬も笑顔になってしまう。
「渡辺さんすみません、気を悪くしないでくださいね」
「いいえ。かえって大町さんにすごく興味が湧きました」
渡辺は悟にこれからの取材の予定や、内容について説明したあと、
初めて自分が担当する連載であることや、この取材にかける熱意を語った。
渡辺が帰ってから悟が不思議そうに言った。
「なんで俺なんだろうね」
「佐和野さんの知り合いなんですって。個展を多くの人に知ってもらえるのはいいことだと思うけど、悟君はいや?」
「美冬さんがいいと思うならかまわないよ。俺はどっちでもいい」
後日、渡辺はカメラマンを連れて訪れ、悟のことが月刊アートで紹介された。
回を重ねるごとに、読者からの反響が大きくなり、悟の写真が多く使われるようになった。
カメラを意識した写真ではなく、絵を描いている時の後姿や横顔、
あるいは描きかけの絵の前でじっと佇んでいるようなありのままの様子が撮られた。
やがて、悟のルックスに目をつけた女性週刊誌も取材に訪れ、
どこで調べたのか悟の生い立ちをドラマチックに書きたてた。
ただそれらの雑誌を渡しても、悟は興味がないらしく写真をパラパラと見る程度で内容に目を通すことはなかった。
月刊アートの連載は美術誌らしく悟の作品を紹介してくれ、読者からの反響も個展への問い合わせがほとんどだ。
しかし悟の絵よりも、悟自身への興味をあおる週刊誌の記事は一人歩きをしている。
美冬は不安を感じ始めていた。
個展まであと半月となった10月の終わり、美冬は渡辺から電話をもらった。
「あの、僕に聞いたってことは誰にも言わないでほしいんですけど・・・」
「なんでしょう?」
「大町さんのまわりを嗅ぎまわってるやつがいるんで気をつけてください」
「嗅ぎまわるって、何をですか?」
「大町さんって若くてイケメンだから女性週刊誌の読者の興味をひいてるんですよ。
しかも同情心をあおるように孤独で不幸な生い立ちって書かれたし。
それで今度は別のところもいろいろと・・・」
「わかりました。大町くんには伝えておきますけど、今はほとんどアトリエにこもりっきりだし、
書かれて困るようなことは何もないと思います」
「ええ、それは僕も知っています。彼はいい青年ですよ。でもね金のためならいい加減な記事をでっちあげるやつもいますから」
「ご心配いただいてありがとうございます」
美冬は後悔した。
悟を画家として世間に認めてもらいたいと、焦りすぎたのではないだろうか。
もっと彼の実力と才能を信じて待てばよかったのかもしれない。
悟に電話で事情を説明する時は、重い気持ちを隠して、大したことではないという感じで言った。
「それでね、念のために個展まで二人きりで会わないほうがいいと思うの」
「そんなのおかしいでしょ。俺は芸能人じゃないよ」
悟はめずらしく不機嫌な声を出した。
「会いたい人にはいつでも会う」
「でも個展まであと少しだし、変なこと書かれたら悔しいじゃない、それにアトリエやギャラリーで会えるでしょ。二人きりってわけにはいかないけど」
悟は黙り込んだ。
「悟君?」
「変なことって何?俺は美冬さんに会いたい」
「今はだめ」
美冬はつい強い口調になってしまった。
電話は黙って切れた。
自分がギャラリストではなかったら、もっと純粋な気持ちで悟に向き合えたのかもしれない。
けれど今は目前に迫った個展を成功させ、悟を画家として世に出すことが最優先だ。
それが自分なりの精一杯の愛し方だと美冬は思った。
---------つづく-------
サトシゴト&いろいろで遅くなりました
では『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (19)
数日後、美冬は月刊アートの渡辺を連れて、悟のアトリエを訪れた。
約束をしていたのに声をかけても返事がない。
中に入ると、絵の前に置かれた脚立の傍に悟が倒れている。
その右手には絵筆が握られたままだ。
驚いて立ち尽くす美冬の横をすり抜け、渡辺が駆け寄って覗き込んだ。
「大町さん!大丈夫ですか!」
肩を揺すると悟は目を開け、ゆっくりと上体を起こした。
そして目をこすりながら言った。
「寝ちゃった。今、何時?」
「驚いたなぁ。約束の4時ですよ。月刊アートの渡辺です」
「どうも。寝るつもりはなかったんですけど・・・今日は何日だっけ?」
渡辺は笑いながら振り返って美冬に聞いた。
「大町さんっていつもこんな感じなんですか?」
「制作に夢中になると、限度ってものがわからなくなるみたいで・・・ほんとに驚いた」
「死んでると思った?」
悟は悪びれた様子もなく、にこにこしている。
「笑い事じゃないでしょ」
真面目な顔で悟を怒るつもりが、その笑顔を見るとつい美冬も笑顔になってしまう。
「渡辺さんすみません、気を悪くしないでくださいね」
「いいえ。かえって大町さんにすごく興味が湧きました」
渡辺は悟にこれからの取材の予定や、内容について説明したあと、
初めて自分が担当する連載であることや、この取材にかける熱意を語った。
渡辺が帰ってから悟が不思議そうに言った。
「なんで俺なんだろうね」
「佐和野さんの知り合いなんですって。個展を多くの人に知ってもらえるのはいいことだと思うけど、悟君はいや?」
「美冬さんがいいと思うならかまわないよ。俺はどっちでもいい」
後日、渡辺はカメラマンを連れて訪れ、悟のことが月刊アートで紹介された。
回を重ねるごとに、読者からの反響が大きくなり、悟の写真が多く使われるようになった。
カメラを意識した写真ではなく、絵を描いている時の後姿や横顔、
あるいは描きかけの絵の前でじっと佇んでいるようなありのままの様子が撮られた。
やがて、悟のルックスに目をつけた女性週刊誌も取材に訪れ、
どこで調べたのか悟の生い立ちをドラマチックに書きたてた。
ただそれらの雑誌を渡しても、悟は興味がないらしく写真をパラパラと見る程度で内容に目を通すことはなかった。
月刊アートの連載は美術誌らしく悟の作品を紹介してくれ、読者からの反響も個展への問い合わせがほとんどだ。
しかし悟の絵よりも、悟自身への興味をあおる週刊誌の記事は一人歩きをしている。
美冬は不安を感じ始めていた。
個展まであと半月となった10月の終わり、美冬は渡辺から電話をもらった。
「あの、僕に聞いたってことは誰にも言わないでほしいんですけど・・・」
「なんでしょう?」
「大町さんのまわりを嗅ぎまわってるやつがいるんで気をつけてください」
「嗅ぎまわるって、何をですか?」
「大町さんって若くてイケメンだから女性週刊誌の読者の興味をひいてるんですよ。
しかも同情心をあおるように孤独で不幸な生い立ちって書かれたし。
それで今度は別のところもいろいろと・・・」
「わかりました。大町くんには伝えておきますけど、今はほとんどアトリエにこもりっきりだし、
書かれて困るようなことは何もないと思います」
「ええ、それは僕も知っています。彼はいい青年ですよ。でもね金のためならいい加減な記事をでっちあげるやつもいますから」
「ご心配いただいてありがとうございます」
美冬は後悔した。
悟を画家として世間に認めてもらいたいと、焦りすぎたのではないだろうか。
もっと彼の実力と才能を信じて待てばよかったのかもしれない。
悟に電話で事情を説明する時は、重い気持ちを隠して、大したことではないという感じで言った。
「それでね、念のために個展まで二人きりで会わないほうがいいと思うの」
「そんなのおかしいでしょ。俺は芸能人じゃないよ」
悟はめずらしく不機嫌な声を出した。
「会いたい人にはいつでも会う」
「でも個展まであと少しだし、変なこと書かれたら悔しいじゃない、それにアトリエやギャラリーで会えるでしょ。二人きりってわけにはいかないけど」
悟は黙り込んだ。
「悟君?」
「変なことって何?俺は美冬さんに会いたい」
「今はだめ」
美冬はつい強い口調になってしまった。
電話は黙って切れた。
自分がギャラリストではなかったら、もっと純粋な気持ちで悟に向き合えたのかもしれない。
けれど今は目前に迫った個展を成功させ、悟を画家として世に出すことが最優先だ。
それが自分なりの精一杯の愛し方だと美冬は思った。
---------つづく-------